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ハッチポッチチャンネル翻訳篇(1)(2023)

ハッチポッチチャンネル翻訳篇
Saven Satow
Mar. 30, 2023

「空気を読むな。時代を読め!」
太田隆文

1 あんたは話が長いから
「はい、ハッチポッチチャンネル」。
「始まるよ」。
「始まるんですが、そのまえにちょっと」。
「何ですか?」
「YouTubeのコメント欄にですね、この『ハッチポッチチャンネル』はNHK教育で放送されていた『ハッチポッチステーション』から名前をとったんですかって質問が来てるんですけど...」
「これは何度も言っているんですが、関係ありません」。
「オープニングはリスペクとしてますけど、直接関係はないですよね」。
「そうです。今から30年近く前にある地方の文芸誌に批評を書いたんですが、それを須知徳平さんに、『ごった煮』と評されたんですよ。須知さんは否定的な意味で使ったと思うんですが、気に入ったんで、それを名乗るようになったんですよね」。
「『ごった煮』は英語で言うと、『ハッチポッチ』ですもんね」。
「花田清輝風に書いたんですよ、批評を。でも、ほら、小林秀雄流が批評だと思ってる人が古参の文学者には多くて。新聞記者辺りは今でもそうだけど。花田と言えば、ルネサンスで、ルネサンスを『混沌のスープ』なんて言うんで、そんな精神で書いてもいたので、言い得て妙だと『ハッチポッチクリティシズム』と自称したわけですよ、何でもありのごった煮批評」。
「その須知さんってどんな人ですか?」
「須知徳平さんは児童文学とか児童向けの伝記とか書いた小説家で、10年以上前に亡くなったと思うよ」。
「へー、そういう人か〜」。
「うちにある宮沢賢治の伝記が須知さんのだよ」。
「へー、それは知らなんだ」。
「ついでに言っておきますけど、これも繰り返しなんですが、私たちは兄妹ですからね。都市もひと回りほど離れて、似ていませんけれど」。
「顔認証の家族かどうかで、別人の扱いでしたからね(笑)」。
「そう、俺だけ、別なんだよな。他はみんな家族でさ。ちょっとショックだったな。家族の中で孤立してます」。
「それはともかく、そろそろ始めましょう」。
「兄妹なんでお互いのことはだいたいわかってるんですけど、見ている方はそんな情報ないですから、それ意識して、あえてお互いのことを知らないふりして質問してるわけで。それと、兄妹だと知らなくても、内容の理解には関係ないんで普段家で、撮影しているここも家なんですけど、身内だけでしゃべってるようにやると、『なんだこいつ、無礼な奴だな』と不快に思う人もいるでしょうから、敬体中心に、敬うに体の敬体ですね、つまり丁寧に話すように心がけてるわけですね」。
「もういいかな~、レッツ・ビギン!」
「村野武範さんですか?『飛び出せ青春』の」。
「いいから、始めましょう」。
「私たちは録画した後に編集して短く切って配信してるんじゃないんです。一応テーマを決めて、こんなことやろうかと打ち合わせしまして、1回30分以内で何回くらいになるかを想定しまして、多少用意して番組を始めてるんです。きっちり打ち合わせしてもたかが知れてますし、まったくのアドリブでできるほど機転が利くわけじゃないし。まあ座談のスタイルですね。ライブではないです。30分以内をめどに話して、時間が来たら休憩に入った後で続けたり、別の日に撮ったりしてます。服装で分かると思いますけど(苦笑)」。
「ほんと、話長いよね。だから、電気屋のオヤジに言われるんじゃない、『あんたは話が長いから』って。ね、そろそろ始めません?」
「わかりました、始めましょう」。
「よかった」。

2 翻訳とは?
「そうね、ハッチポッチチャンネル、本当に始まるよ」。
「はい、始まりました」。
「では、今回のテーマは何でしょうか?」
「今回のテーマは『翻訳』です」。
「ということは?」
「私がしゃべります」。
「そうですね。前回はAI、まあチャットGPTとかでね、だったですから、私が主にしゃべりましたが、今回は翻訳ですから、あなたですね」。
「はい」。
「えーと、いくつ言語できるんでしたっけ?」
「日本語とアラビア語と英語、それにスペイン語とトルコ語ですね」。
「五つですか?えーと、二つだとバイリンガル、三つだとトリリンガルで、五つだと...」
「ペンタリンガルですね」。
「ああ、そっか!『ペンタゴン』の『ペンタ』か」。
「そうです。ただ、トルコ語やスペイン語は翻訳できるほどではないですけどね」。
「日本語はネイティブとして、アラビア語と英語ではどっちが…」
「アラビア語ですね」。
「そりゃそうですね。コロンビア大学の大学院でアラビア語やってたんですからね、内戦前のシリアにも数年住んでたわけですからね」。
「ただどれも発音はダメですけれどね」。
「知ってる。発音だけなら、俺の方が上。それはともかく実際に翻訳の仕事もやってましたよね?」
「今もしています」。
「どんなのをしてましたか?」
「自動車のマニュアル翻訳や死亡診断書の翻訳とか、あとは…」
「つまり、文学とかそういうのだけでなく、手広くやっているってことですか?」
「はい。通訳や翻訳はいろんな場面の経験が必要なんで、あれもこれも訳したことがあるって悪いことじゃないんですよ。むしろ、歴戦の勇士みたいなもんで、いいこと。だから派遣の規制緩和ってもともと通訳を念頭に置いてたでしょ?皆様、翻訳の仕事をお待ちしておりますので、ご連絡よろしくお願いいたします」。
「私からもよろしくお願いいたします。それでその〜、翻訳の話がキャリアからできることはわかったんですが、なぜ今翻訳なんですか?」
「それは〜、コロナやウクライナ情勢のニュースで翻訳関連が三つあったからですね」。
「三つ?」
「そうです。三つ。一つはNHKで、俳句。二つ目は朝日で『ルパン三世 カリオストロの城』、三つめは、またNHKで機械翻訳です」。
「文学とアニメ、それと機械翻訳ですか?ウクライナ関連で?
「そうなんですよ。ただ、機械翻訳はコロナ関連ですけど。これが結構面白かったので、取り上げてみたいなーって思ったんですよ」。
「なるほどね〜、なんか面白そうですね」。
「こんなこと、やってるんだ~って思いましたよ」。
「ところで」。
「はい?」
「ところで、そもそも『翻訳』って何ですか?」
「そこから始めますか(苦笑)」。
「『始めに言葉あり』ですから」。
「意味がよくわかりませんが、えーと、翻訳はですね、翻訳はある言語の単語や文、文章を別の言語に変換することです」。
「定義をすればそうですね」。
「元の言語をソース言語、変換する方の言語をターゲット言語と言います。それで、翻訳にはソース言語指向とターゲット言語指向の2種類があります」。
「ちょっとそれをせつめいしてください」。
「ソース言語指向もターゲット言語指向も私が勝手に言ってることですけどね。ソース言語指向は元の言語のニュアンスを優先して、ターゲットの言語の自然さを犠牲にする翻訳です」。
「いわゆる翻訳調なんかそれですね。で、えーと、ターゲット言語指向はどんな感じでしょうか?」
「その逆ですね。変換する言語の自然さを優先して元の言語のニュアンスを犠牲にする翻訳です」。
「つまり、高倉健か緒形拳かということですね」。
「それはどういう意味ですか?」
「だから、高倉健は何を演じても高倉健で、緒形拳は役になりきって毎回変わる」。
「そういうことか(笑)まあそうです」。
「「わかりやすい比喩でしょ?それで?」
「英語圏では、以前はターゲット指向だったんですが、つまり日本語から英語に訳す時は英語の自然さが優先だったんですが、今は変わりつつあります」。
「なんでですか?」
「異文化理解ですね。言語の上での異文化は異文化として訳そうということですね」。
「なるほど。でもさ、この間亡くなったバルボンさん、チコちゃんの通訳は笑ったねー。ブーマーが長ーく話しているのに、『ブーマー、ものすご嬉しゅう言うとります』だもの(笑)」。
「意訳の極地だよね。その言葉を発している動機はそうだろうけど」。
「俺も同じ経験あんだよ。留学生を連れて富士山に行ったのよ、バスで。変える段になっても、全員集まってないわけ。集合時間すぎてんだけどね。全員集まるの待ってたら、背の高い白人の男がつかつかって寄ってきて、ワーッて早口でわめいてきたわけ。何言ってるかわかんないけど、とりあえず、うんうんってうなずいてたら、すっきりしたのか自分の席に戻っていった。日本語が達者な元グリーンベレーがさ、手伝ってくれてたんだけど、そいつに『彼、何言ってんの?もしかして腹立ててる?』と尋ねたら、『わかんなくていいです。想像通りですから』と言われた(苦笑)」。
「それ、何度も聞いたな。話を戻すと、ただ用途によってはターゲット志向のばあいもあります」。
「例えば?」
「例えば〜、え〜、悪口なんかそうですね」。
「それ、わかります!英語でも日本語でも『ケツの穴』を使った悪口あるじゃないですか?でも、使い方や意味は逆方向ですよね」。
「この辺り大丈夫?バンされたりしない?」
「そん時はそん時。英語だと『デカいケツの穴』でマヌケとかバカとかいう意味の悪口になるけど、日本語は『欠の穴が小さい』って言うと、しまり屋とかケチとかって悪口になる」
「それをソース言語指向で訳しちゃうと、悪口にならないっていうか、意味が分からない」。
「まあね、日本語だと、『ケツの穴が小さい』の反対は『太っ腹』だからね」。
「そうね~。まあ、それはいいとして、国際会議とか公な場面での通訳や翻訳は、ターゲット言語がネイティブでないとダメなんです」。
「つまり、日本語がネイティブで、英語は学習した第二言語の人では英語から日本語はいいけど、日本語から英語はダメってことですか?」
「そうです」。
「なんで?」
「なぜって、ネイティブはその言葉や分の用法が正しいかどうかを自分だけで判断できるからですね。学習した言語はそれが正しいかどうかをネイティブに聞かないとわかんないでしょ?」
「確かに。で、あなたの場合はどうなんでしょうか?」
「かなり重要なのになってくると、日本語訳だけですね、普段はどっちもやりますけど」。
「例えば、死亡診断書とか?」
「そうです。アラビア語から日本語ですね。ただ、あの時はかなり英語を参考にしましたけどね」。
「どういうこと?」
「日本語とアラビア語が対応する翻訳の資料って少ないんですよ。辞書も十分でないし。英語とアラビア語の対応資料は豊富なんで、よくわからないところは一旦英語で調べて、それを参考にして日本語に訳しましたね」。
「ということは、アラビア語の翻訳をやるには英語ができないと苦しい?」
「そうです!それはアラビア語だけでなくて、アラビア語は国連の公用語でもあるけど、もっとマイナーな言語ならなおさらそうだと思う」。
「翻訳をやる人は英語がある程度できないとダメってことですね?」
「英語は国際的共通語なんで、どんな言語でも英語と対応した関連資料が多いわけですよ。英語を媒介にすれば、どんな言語でも翻訳する際に情報は比較的入手しやすいですね」。
「そうだろうな~」。
「その英語はネイティブの英語でなくていいのよ」。
「日本の英会話の広告なんかは『ネイティブのように』を謳い文句にしてるよな」。
「でも、英語は世界的な共通語だから、ネイティブでない人の方が使っている人数は多いのよ」。
「確かに。学生の頃、スウェーデン人とドイツ人とメキシコ人と一緒に会話する時があって英語使ってたけど、全員ノンネイティブだった。発音もまちまちだし、そもそもネイティブじゃないから本当にその言い方でいいのかわからない」。
「ネイティブの英語はローカルイングリッシュ。アメリカの文化の研究をする人には必要だけれど、国際的共通語として使う人なら、コモンイングリッシュの方がいい」。
「国連事務総長辺りが使う英語だね。文法は教科書通りでシンプル。語彙もわかりやすく、凝った表現はない。曖昧で、誤解が生じやすい表現では場合によってはそれが原因で国際問題になりかねない。ノンネイティブが聞いても間違いなく理解できる英語」。
「そう。まずは学ぶべきはそっちの英語なわけ。コモンイングリッシュ。英語はネイティブのものでは、むしろ、ないのよ」。
「日本では、学ぶ場面でさ、『習うより慣れろ』式が多いけど、英語はネイティブを目指さないで、頭で覚えた方がいい、国連事務総長の話すような英語の読み書きを」。
「日本語は日本で生活するために学ぶ人が多いですけど、英語は違うんです。多言語世界で英語はもうネイティブのものではないんです」。
「多言語と言えばさ、昔、藤村有弘ってコメディアンがいてさ、知ってる?」
「知らない。いつ頃の人?」
「俺が小中高校生くらいの人」。
「つまり、40年位前?」
「そう。でさ、藤村有弘は韓国人とドイツ人が自分の言葉で口論を始めて、そこにメキシコ人がスペイン語で仲裁に入るなんてネタを一人でやってたわけよ」。
「へー、面白そう」。
「今なら世界で大ウケになっていたと思う。海外は、ほら、エスニックジョーク好きだし」。
「YouTubeで見れないの?」
「あるよ。ただね~、二つくらいしかないんだよね。一つは『上を向いて歩こう』を多言語で歌っているの。もう一つは各国の首脳の挨拶をそのお国言葉でするの。もっとあればいいんだけどねー」。
「今度見てみよ」。
「こういう個性的なコメディアンが昔はいっぱいいたんだけどねー、制度化されて、漫才師ばっかりって感じになっちゃったね」。
「それも倍速対応でフォーマットが似通ってきたし」。
「藤村有弘なんかさ、倍速したって意味ないもの。何言ってるかさっぱりわからないところが面白いんだから」。
「今なら倍速の真似をするかも」。
「あり得る。俺もさ、昔、藤村有弘の真似して多言語で批評家射てさ」。
「書いてたの?」
「うん。だからさ、グローバルオフィスだっけ?多言語ソフト買ったじゃん」。
「それ確かあったね、うちに。ウィンドウズ98は多言語が難しかったからね」。
「そう。それでさ、書いたのよ、チャンポンで。日本語の文の次は英語、その後はスワヒリ語、で、ロシア語、ヘブライ語ララララララ」。
「それどうだったの?」
「まったく相手にされませんでした(笑)」。
「えー!もうこんな時間経ってんの?」
「あちゃ~」。
「だから、いつもあんたは話が長いから~」。
「じゃあ、今回はここで終わりで、続きは次回ということで」。
「前振りだけで終わりってさ~、それってどうよ?」
「ま、とにかく続きは次回ということで」。
「あー、またチャンネル登録が減る~」。
「皆さん、チャンネル登録、高評価よろしくお願いしまーす!」
「それって図々しいよね?」
「みなさん、フォロー・ミーですよ、フォロー・ミー、いい映画だったなー」。
「話が長―い!」


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