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『パブリック・プレッシャー』と電気用品安全法(2006)

『パブリック・プレッシャー』と電気用品安全法
Saven Satow
Mar. 20, 2006

「世界は広いから、一つの音楽を作ってそれを伝えていくには時間がかかる。だから、日本みたいなマーケティングで、曲の命が3週間で終わってしまうような音楽じゃ、それはできないわけです。曲の命が長くないと通用しないんだよね。それだけ、広い地域の批評にさらされるわけだし」。
坂本龍一

 楽器に関する知識が皆無な経済産業省により、この春から、音楽の焚書に相当する電気用品安全法が実施されようとしています。音楽関係者や中古楽器の販売業者、音楽を愛する人たちの正当な批判によって若干の修正がなされたものの、その法の趣旨は依然として時代錯誤です。

 反対署名活動も行われています。YMOのサウンドプログラマーなどで知られる松武会長が発起人となり、坂本龍一・高中正義・椎名和夫らが賛同しています。マーシャルのアンプやローランドの電子ピアノに心ときめいたことのない官僚にとって、PSE法はシールの発行が新たな天下りの確保につながることでしかないのでしょう。

 1979年、細野晴臣・坂本龍一・高橋ユキヒロ(高橋幸宏)のイエロー・マジック・オーケストラはワールド・ツアーを行います。人民服(中山服)を身にまとい、ポップでメロディアスな曲に、コンピュータを使った音の処理を加えた彼らの斬新さはオーディエンスに衝撃を与えます。

 シンセサイザー音楽と言うと、富田勲によるクロード・ドビュッシーの『月の光』の世界的ヒットが思い出されます。そのオマージュを感じさせてくれる『コズミックサーフィン』もレパートリーに入っています。これにはドビュッシーの『アラベスク』を思い起こさせるフレーズがあります。

 ただ、当時はメモリーの容量が小さく、テクノ・サウンドの曲は15分程度までしか続けられません。そのため、『デイ・トリッパー』のような楽曲も演奏したのですが、それらからは技術の確かさが伝わってきます。

 ライブの模様は『パブリック・プレッシャー(公的抑圧)』に収録されます。しかし、このアルバムには残念な点があります。ツアー・メンバーの渡辺和津美のギターが契約の事情からカットされているからです。

 けれども、これははるかにましなのかもしれません。今なら、公的抑圧のため、『パブリック・プレッシャー』は無音のアルバムになっていたに違いないでしょう。
〈了〉

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