仕事とは。



去年のこの季節も入院していた。
ことの発端は、母親がネットで知り合った外国人を家に住まわせるようになり、謎の共同生活が始まったことだ。
知らない人間がいきなり生活スペースに入ってくることはなかなかキツい。
彼は悪い人ではなかったが、私がバイトから帰ってくると彼はソファーにどーんと座り「ハロー」なんて言ってくる。
台所をみれば、はちみつでベトベトになった食器が散乱している。彼は自国で養蜂家の資格を持っているらしい。
そんな生活が嫌になり、猛烈に家を出たくなった。
車の免許無しでも働ける、寮付きの仕事を探して、ヒットしたのは土間工の仕事だった。正直、左官とどう違うのかもよくわからなかったがここだと思い面接を受けた。仕事内容もよく知らず、肝心の寮を見ることもなくそこで働くことになった。土間工なんてめちゃくちゃドカタ仕事で、同性でやってる人なんてほぼ居ない。最初は上司から陰でゴミ扱いされていたようだが、元から体力があったのと持ち前のキャラでえらい可愛がられるようになった。同期2人はトんだし、根性があると言われるようになっていった。
しかし、特別の仲良い上司ができるとだんだん変な噂をされるようになる。
私がその上司のことが好きだとかなんとか、そういう系の噂だ。
もともと田舎で世界の狭いおっさんしかいない世界だ。正味つまらなくなってきていた私は土間工は続けたい、だがこの会社はもう嫌だと、仲の良かった上司のツテで大阪の会社に転職をした。
転職するだいぶ前から服薬を辞めていたためか、新しい職場になった途端に人とうまくコミュニケーションが取れなくなった。
常に私の悪口を言われてるみたいな被害妄想もひどくなり、決して意地悪ではなかったはずの同僚とコミュニケーションが取れない。相手が何か話すと、私はパニックに陥り悪口を言われているかのような錯覚に囚われた。誰かが独り言で何か言ったら、それが「死ね」と言われたという認識になってしまう。
段々と仕事に行くことが苦痛になっていたが、引っ越しまでしたのだ稼ぐために行かねばならない。
安定剤の個人輸入も再開した。飲んだことのない薬をODしまくって精神錯乱状態に陥り、幻覚幻聴でマンションの一室から外に向かって「そこにいるんでしょ!」「捕まえるなら捕まえてよ!」とか訳のわからんことを叫びまくった挙句、「死にます」と母親にメールをした。母親は大阪まですぐ迎えに来てくれた。そしてそのまま入院したのだ。

退院後は不健全に遊びまくった。
マッチングアプリで知り合った異性と適当に会ったり、パーティーにでかけまくった。それらが落ち着いて反省できるようになると、新しい仕事についた。
タトゥーショップの受付だ。刺青にずっと憧れていた。ハンドポークと呼ばれる手彫り手法で自分に彫ったりしていたのと、英語での接客が主だったのが魅力的だったので面接に応募するとすぐ採用された。
リスニングは得意だがスピーキングが苦手な上に書類仕事がうまく覚えられず、しんどかった。しかし負けてはいけないと、明日はちゃんとできると自分に言い聞かせて出勤していた。
ある程度慣れてきて英語は確実にマシになってきても、書類仕事は変わらずミスを繰り返してしまう。とはいえ徐々にミスに対してあまりこだわらなくなった。自分でできる限りの対処をしても永遠に治らないからだ。
そのうち仕事内容も少しずつ変わってきた。
複数店舗あるうちの東京にある店舗で郵便物を受け取る業務を任されることが増えてきた。
最初は家から遠いとはいえ、1人だし好きなことができる良い仕事だと思っていた。上司は「荷物を受け取って仕分けさえすれば良いから、あとはリラックスしてて」というのでよく昼寝していた。
まあ普通に考えればアウトなんだろうな、上司の言うリラックスとは具体的にどういうことだったのだろうか。
実家での生活も色々キツくなり、店舗まで遠いことや出勤時間も長く帰りが遅くなることで、段々と精神が消耗されていっていたんだと思う。
店の近くに住む友人に店の道具を勝手に使ったりしたし、私生活でも万引きする様になっていた。今思えば普通に狂っている。
そんな生活を続けているなか実家の都合で独立することになり、またもや引っ越すことになる。
引っ越した翌日からまた仕事。筋肉痛と寝不足で仕事なんか行きたくなかったが職場で寝れば良いやと思い、電車で寝過ごしそうになりつつなんとか出勤成功。
終わらすべき業務を終えて昼寝をしていると、上司が来てバレた。
早めに店を閉めて上司のいる店舗に行くと怒られた。当たり前だ、寝ていたのだから。
「仕事ができないのに雇ってやってる」やら「他の同僚たちは佐波柳と同じ給料なことに不満があるかもしれない」と言われ、私は窓際部署に追いやられていたのかとそれはそれは絶望した。
自分なりにやってきたが、所詮ダメ人間はダメ人間なんだと痛感する。翌日から引きこもりとなったのであった。(完)

#わたしの転職体験

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