【連載小説】たましいのみなと vol.4

窓際に置いたテーブルと椅子は、長いあいだ陽の光を浴びてきたせいで、今はもう、昔の色を失っている。

何年も前にこの家を相続したとき、手始めにまず彼女と手を加えていったのが、この部屋だった。

この場所にテーブルを置こう、それぞれ好きな椅子を並べて、くつろいで過ごせる場所を創ろう、と言ったのは私だった。

彼女は「素敵なアイデアね」と言ってくれたけれど、窓際だと本が日に焼けてしまうのではないかと、それだけはずっと気にしていた。

そして十何年も昔にしていた話は、見事、彼女の予想通りになって、テーブルの上に置きっぱなしに積まれた気に入りの表紙だけが、まばらに日に焼けている。

壁に沿って立ち並ぶ本棚は、ジャンルと作家ごとに索引付きで整頓されているので、彼女の几帳面さは、今でもここに息づいている。


「またこの本、出しっぱなしにしてるのね」

いつだったか、彼女がここにいた頃、一冊の本に触れて静かに言ったことがあった。

「何度も読みたくなるから、ついね」

彼女に言われて本を棚に戻そうとする僕に、彼女は閃いたように言ってくれた。

「ここに、置いておくのがいいんじゃないかしら」

自分で読んだ本はきっちり元の場所に戻すタイプの彼女から、あまりに聞き慣れない言葉が出てきて私は戸惑った。

「前より日に焼けた表紙が、なんだか綺麗に見えるのよ。この子、こうやって光を浴びているのが、とても心地よさそうよね。もしかして、太陽がこの子を気に入ったのかしら、それとも、この子が太陽を気に入ったのかしら」

彼女は時々、そうしてふふっと微笑んで、まるですべてのものに生命が宿っているような言い方をした。

ポンポン、と彼女が軽く手を触れたそれは、ずっとずっと昔、祖父が私のために買ってくれた本だった。

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