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紙ひこうきと保健福祉センターのおふろ


実家から歩いて5分くらいのところに保健福祉センターがある。
昔はここで日帰り入浴ができた。

温泉ではないが、広い浴槽があり、ちょっと熱めのお湯。
よく町の人に利用されていた。

脱衣所も休憩所も広い。
公共施設ということもあり、入浴料はとてつもなく安かった記憶がある。
我が家もよく利用した。

何年か前に日帰り入浴は出来なくなり、
単なる保健福祉センターになった。
選挙の投票に行くくらい。
合併と共に予算削減の対象となったのだろう。




熱めのお湯には5分入るのがやっとだった。
湯上がりに好きなジュースを買ってもらえた。
いちごミルクかマッチでいつも迷い、結局マッチを買ってもらった。


そんな保健福祉センターのおふろが私はわりと好きだった。
理由はジュースを買ってもらえるからだけではない。

受付に
「紙ひこうきのおじいちゃん」がいるからだ。




湯上がりにジュースを飲み終えると
広いセンターの中を弟と走り回って遊んだ。
遊んでいると紙ひこうきのおじいちゃんが声をかけてくれる。


受付のおじいちゃんは日替わりで交代するのだが
紙ひこうきをくれるおじいちゃんがいたのだ。

チラシで作った紙ひこうきを
私と弟に一つずつくれた。

保健センターの高い天井に向かって
勢いよく飛ばす。

高く上がった紙ひこうきは
ゆっくり長い距離をよく飛んだ。
二人とも大喜びした。


たくさん飛ばしすぎると飛行距離が短くなり、
うまく飛ばなくなる。
そんな時はおじいちゃんに渡す。

おじいちゃんは羽の後ろの部分をちょこちょこと指で撫でて渡してくれた。
返された紙ひこうきは息を吹き返したかのように
よく飛んだ。


受付が紙ひこうきのおじいちゃんではない日はがっかりしていた。
もう一人のおじいちゃんはいつも新聞を読んでいて
ちょっぴり怖かった。


逆に紙ひこうきのおじいちゃんの日は
「やった!」と心の中で喜ぶ。

弟はたぶん喜びとがっかりをそのまま
口に出して伝えていた気がする。

失礼なガキどもである。



町のおふろが無くなっていくのは
やっぱりさみしい。

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