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超関心ババアに救われながら関心領域を見た。

関心領域を見た。

各所で話題にあがり、友人達とフィルマークスでも『見たい』のスタンプが多く着いている。

すごく楽しみにしていた。
楽しみにしてたと言葉に出すのも少しはばかられるが楽しみだった。

気になる題材、舞台設定、見えない怖さ。
直接恐怖演出がなく一見すると普通の映像なのだけど、『あれ?おかしくない?』と気がつくと、チャンネルがあったように恐怖がおしよせてくる映画が好き。
近年盛り上がりを見せているモキュメンタリーも好きなので、イシナガキクエを見て祓除も見返したりしている。

先にあげた作品とは違い、関心領域はアカデミー長編賞も獲得してるし、ビッグタイトルなので映画の全体像を把握してから見に行く人が大半だと思う。

アウシュヴィッツ強制収容所の横に住むある一家の話。
話というか日常風景を切り取りただただ流す。
実際の人物、その人物が住んでいた家、一部の家具などを実際に使っている徹底ぶり。
そんな幸せな家族を写したホームビデオに見せ掛けた映画。
そしてその背景には、『処分』される音が終始流れている。

怖いわけ。
とにかくえぐいわけ。

靴を洗って何を落としてるの?
その服はどこから持ってきたの?

序盤はエグ味がチラチラと顔を出し、画面を見ながら何度も顔を顰めた。

その『おもちゃ』はなんだかわかってるの?
あ、温室に弟を『閉じ込めて』遊んでいるからやっぱりわかってるんですね...

鳥の声が聞こえるよ!

と言ってる場面でも私には悲鳴と怒号しか聞こえなかったよ。

救いがない。
とにかく救いがない。

きついけど、私の心を若干だが救った人物がいる。
話を映画を見る前に戻そう。

普段はTOHO系列で映画を見ることが多い。ポイントカードを持っているから。
しかし、関心領域は東京だと新宿池袋渋谷上野という私の活動範囲ではやっていない。
日本橋とか若干行くのがめんどくさい場所でしかかかっていないのだ。

なので、今回はとしまえんにあるユナイテッドを利用した。
初めて行ったのだが駅がハリポタ仕様なんですね。

ベンチ可愛いねぇ

駅が近くて、広くて、平日だから人も少なくてなかなかいい劇場だった。

私は映画を見る時、高確率でポップコーンを買う。
キャラメル味が多い。
映画館のポップコーンってめちゃくちゃ美味しくないですか!?ポップコーン食べになにか適当に映画を見に行く時があるくらいには好きなんですよ。

なので、今回もポップコーンとドリンクのセットを買って、入場時間を待っていた。

『あらまあ!そんなに食べるの!?1人で!?』

いきなり話しかけてきたババアがいた。
知らないババアだった。

ポップコーンだから容器は大きいの!これが普通なの!と心の中で思いながら

『食べるんですよー』

と返答する頃には、私が座っているベンチの横にババアが座っている。

『いいわねぇ〜若いから。』

と言いながらめちゃくちゃポップコーンを見てくる。
しかし、ババアの手には装備品の様にチュロスが握られている。
チュロスを食べる人は若い人のイメージだ。少なくとも私は選ばない。

『私はねぇ、チュロスを買ったの。初めて買ったんだけどね。大きいのね』

と聞いてもいないチュロスの感想を話してくる。
適当にあいずちを打つとババアは続ける。

『映画なんか久しぶりよ』
『何見に来たんですか?』
『あぶない刑事よ。ドラマから好きでねえ〜』
『あー、いいですねえ〜』

とババアがずっと嬉しそうなのだ。
小綺麗な格好に小さなカバン。楽しみにしてきたのであろう。

記憶を辿るとシルバークーポンの使い方を聞いている人が横にいた気がする。
あぶ刑事と関心領域は開始時間が近かったから、同じタイミングで劇場に続くエスカレーター登っていく

『今の映画館はとっても綺麗なのね』
『こんなにスクリーンがあるとは思わなかったわ』
『他にはどんな映画がやっているの?』

と話しながら、ババアが関心領域に一緒に入りそうになったので、隣のあぶ刑事の入口まで案内してあげた。

仮にも令和の仮にも都内。
こんなに関心を向けてくる人間は珍しい。
変なババアかと思ったら、映画をめちゃくちゃ楽しみにしているいいババアだった。

ババアが嬉しそうにしてると、こっちまで何故か嬉しくなった。

関心領域を見る前に、超関心ババアに絡まれ私は関心領域の方に入っていく。

映画はきつい、逃げたい、助けてくれ。
の約2時間。

劇中ではアウシュヴィッツが関心の外側にあり、無いものとされている。
しかし、ババアは他人が持っているポップコーンに関心を示して話しかけてきた。
超対極だ。いわば光と影だ。

2時間暗黒を見せられる絶望の中、ババアが若干心を救ってくれている気がした。

でも、ポップコーンは最後まで食べられなかった。

帰り道。
電車に乗って家路に着く。
電車に乗ってはいるもののイヤホンをしながら、関心領域を見た人の感想を眺めながら帰る。
乗り合わせている誰も私の関心の中にいないし、私も同じく乗客の関心の外だろう。

実際にあった過去の事を映画にして、フィクションとは割りきれない怖さもあるが、同じように人混みの中で生きていても、実は私の隣で事件が起きているかもしれない。
思えば、私は隣人の顔を知らない。

ペット禁止の部屋で犬をわんわん吠えさせて飼っていた人と、大きな声で笑い合うカップルが以前住んでいたのは知ってるが、今の人は知らない。

ナチスの怖さ、異常さにばかり意見を投げる感想や、『同じ地球上でも今は同じように』と情勢をかけて書いてあるレビューが目立つが、誰もが気にもとめない隣の部屋や、もっと近い場所が我々の関心領域『外』なのかもしらない。

ババア。
長生きしろよ。

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