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タトゥー 5

しばらく友達とKさんと私でお喋りをした。私たちは同じ店の友達だってことや、Kさんがブラジルやルーマニアにいた時の話とか、作品が盗作被害に遭った話とか。

「じゃぁ、そろそろ午後の部始めようか。なんかイラストとか持って来てる?」とKさんが友達に訊いた。
友達はバッグから紙を取り出して
「下手なんですけど、こんな感じで」と見せた。ある架空の西洋の生き物が鉛筆で描かれていた。
「いいね、大きさは?」
「腕に、15cmくらいかなぁ。あと下に梵字と蓮も入れたいんですけど」
「う~ん。統一感のないモチーフを一緒に入れるのは俺は勧めないなぁ。どうしてもって言うならそりゃ、商売だから入れるけどさ 笑」
「どうしよう……」
「入れるのはいつでも後から出来るから、まずこれ入れた後でそれでも入れたいならってのは?」と私。
「そうだよね、そうします」
「まぁ、この大きさなら3万で変わらないけどね」
「もう~!そういうこと言うと決心が揺らぐじゃないですか 笑」

友達の施術が始まった。私は床に座って煙草を吸いながらその様子を眺めていた。左腕にインクが入っていく。時折血が拭われる。痛そうな表情をする友達。ああ、こうやってタトゥーが完成していくのだなぁ。
「もうどのくらい入った?」
「3分の4くらい?すごくキレイだよ」
「早く見たい~」

「はい、終わったよ」
「うわ~!キレイ!最高!ありがとうございます!」友達がうっとりとしながらタトゥーの入った腕を見て言った。
ああ、いいなぁ、自分でタトゥーを眺めることの出来る悦楽。

「腹減ったなぁ、何か食べる?」
「作ってくれるんですかぁ?」
「まさか!近くに美味いサンドウィッチ屋あるからそれでいい?注文するよ。すぐ出来ないから30分くらいしたら取りに行ってくれる?」
「は~い」

タトゥーを入れたばかりの友達に行かせるわけにはいかないので私が取りに行くことになった。Tシャツを着て(そう、私はずっと上半身裸だったのだ)外に出た。初夏の心地いい風が吹いている。数時間前にはまだ私の身体にはタトゥーが刻まれていなかった。新鮮な空気、新しい自分?まだちょっぴり感じる痛み。

3人でカツサンドを食べながらまたお喋りをした。やっぱりこの人に頼んで正解だった。だって色々カッコ良すぎるんだもん。腕がいいだけなら私はこの人を選ばなかった。外科医だってならまた違うけど。ちなみにKさんはミュージシャンでもあり、ギターを弾く。某国営放送で某超有名演歌歌手と共演したこともある。
「ギターはさ、やっぱこうやって構えないとなぁ、今のガキは×××が見えるんじゃねぇかってくらい上に構えるけど」
部屋に置いてあったテレキャスを持ってポーズを取るKさん。
友達はロックを聴かないのでただ笑っていたけれど私はうんうんと頷いた。