Saudade Books
瀬戸内国際芸術祭公式カメラマン、香川在住の写真家・宮脇慎太郎の旅行記やエッセイなどをまとめています。ローカルの風景、人、光。
知恵をひろい、歌をおくる。波のページに耳をすませる。 本の向こう側にひろがる、あこがれの風景へ。 サウダージ・ブックスは「旅」と「詩」と「野の教え」をテーマにする出版社です。2007年に神奈川県の海辺の町・葉山で活動をはじめました。いつも変わらず大切にしているのは、「小さな声を守ること」です。 わたしたちが作った小さな本を、小さな場所で、人の手から手へと受け渡していきたい。そして、ひとりひとりの行方を照らす小さな灯となるようなメッセージを届けたい。そんな想いを抱きながら、
中学の後半くらいから本を読みはじめた、と思う。いわゆる文学作品を読むようになったのがその時点で、それまでぼんやりとしか感じなかった言葉の重さや、その不思議、美しさが意識されるようになった。はじめは日本のものが多かったと思う。日本の近現代詩を読んで、エッセイと戯曲も少し読んで、あまり小説は読んでいなかった。 シェイクスピアやギリシャ悲劇が覚えているかぎり最初の、大きな海外文学体験だ。不登校のとき、市立図書館で全集を読んだ。中学から高校の前半の海外文学は戯曲が中心で、のちにフラ
サウダージ・ブックスより、文筆家・大阿久佳乃さんの文学エッセイ集『じたばたするもの』を2023年3月24日(金)より発売します。 【書店様へ】サウダージ・ブックスおよびトランジスター・プレスの本は、直接取引を中心に販売と流通をおこなっています。お取り引きをご希望の書店やショップの方は Contact よりご連絡ください。折り返し取引条件などについて返信いたします。また「一冊!リトルプレス」からもご注文いただけますのでご利用ください。 じたばたするもの 著者 大阿久佳乃
トランジスター・プレスは「今ここ」の視点に立ち、ボーダーレスな物語を発信する出版社です。 私たちサウダージ・ブックスは2023年1月より、故・佐藤由美子さんが設立したトランジスター・プレスの事業を譲り受けることになりました。尊敬する出版人である佐藤さんの精神を継承し、関係者のみなさまのご支援とご協力のもと、今後もトランジスター・プレスの本の発行と販売をおこなっていきます。 トランジスター・プレス創業にあたっての佐藤さんの挨拶文と、出版目録を公開します。 代表 浅野佳代
サウダージ・ブックスの本は、こちらの直接取引店でご購入・ご注文いただけます。店頭在庫には限りがありますので、事前にご希望の本の在庫の有無を確認のうえご購入ください。 (全国113店舗。2023.6.3 更新) 【青森県】 まわりみち文庫 【岩手】 BOOKNERD 【新潟】 ニカラ 【茨城】 PEOPLE BOOKSTORE 【千葉】 kamebooks ときわ書房志津ステーションビル店 本屋lighthouse 【東京】 Amleteron BOOKSHOP T
アメリカン・ブックジャム(ABJ)No.5 まで副編集長として活動していた佐藤由美子です。大変ごぶさたしています。 ABJ を離れた後、『12 water stories magazine』という文芸誌を創刊し、子どもの洋書を大人に紹介するブックレビュー集『キッズ(だけにじゃもったいない)ブックス』を4人の仲間で出版するなどの活動をしていました。 『キッズ(だけにじゃもったいない)ブックス』の表紙の絵を描いていただいアレン・セイ氏は、私たち4人に「ギャング・オブ・フォー」
episode 5 この原稿を九州、五島列島に向かう客船の中で書いている この原稿を九州、五島列島に向かう客船の中で書いている。半年前の屋久島への旅の意味は、時間が経つにつれ自分の内側で大きくなっていた。 2019年3月の終わり、数日後に新元号が発表される年度末、深夜便にもかかわらず博多港発のフェリー太古はほぼ満員だった。数年ぶりに訪れた博多の町は、世界中から多くの観光客が集まるアジアの巨大な交差点と化していた。道行く人々は一見日本人のように思えるが、話し言葉を聞くとほ
episode 4 「あー、雨降って来ちゃったね」 「あー、雨降ってきちゃったね」 アサノさんが空を見ながら呟く。一湊や宮之浦など屋久島の外周を走っている時は、空は抜けるような快晴だった。しかし安房を過ぎ、「ヤクスギランド」への山道に差し掛かったあたりから天気は急変。あっという間に暗くなってきた。 山上のドライブウェイは、小さな島には似つかわしくない立派なものだった。いつしか雨は激しさを増し、強烈なスコールとなってフロントガラスを叩きつける。豪雨のため自然とスピードは
episode 3 寝室は、まだ真っ暗だった 寝室は、まだ真っ暗だった。どうやら夢を見ていたようで、混濁した意識で見慣れない天井を見てもすぐには自分がどこにいるのかわからない。 隣で寝ていたはずのアサノさんは先に起きたようで姿が見えない。時計を見ると午前8時を回っていて、暗いのは窓にぶ厚い遮光カーテンがかかっているからだった。頭が少し重い。確か手塚さんたちが帰ったのは深夜だったように思う。調子に乗って焼酎を飲み過ぎたのがいけなかったかな……。 寝室から廊下に出ると、縁
episode 2 まぶたを開けると、すべては光の中にあった まぶたを開けると、すべては光の中にあった。 ついさっきまで水平線しか見えなかった高速艇の小さな窓から、頂に雲をまとう山塊が見える。それまで見たどの山にも似ていない、深い深い緑。間違いない、ここは屋久島だ。ついに到着したんだ、と安堵感に全身が包まれた。 港に降りると、まずその防波堤の巨大さに驚いた。高さ6メートル、壁の厚さも4メートルはあるだろうか、地元の瀬戸内のものとは完全にスケールが違う。台風の時などはそ
episode 1 「屋久島に行かない?」 「屋久島に行かない?」 記録的猛暑といわれたこの年の夏、突然スマートフォンに届いたメッセージ。今年、2018年は他にも大阪北部の地震から始まり、西日本集中豪雨や異常進路の台風など、災害に悩まされた年だった。 初めて屋久島のことを意識したのは、いつのことだっただろう? 世界遺産登録のニュース? それとも、スタジオジブリの映画『もののけ姫』を観た時だっけ? いやどれも違う、たぶんあの時だ——。 僕は大阪芸術大学の写真学科で学