スモール研究室のすすめ?

研究室を主催するようになると、どのようにして運営していくかについては否応無しに考えることになる。
日本の研究室の多くは講座制をとっているから自然と在籍人数は多くなりがち。多いところでは1人で50人の学生を見ている(見れているのか?)と聞いたことがあった。学生が増えるとどのように指導していいか、というだけでなく、研究に使う資金も多くなる。実験系の感覚では学生1人につき100万円くらいといったところだろうか?
一方で、外国の研究者の話を聞くと、そんなに多くの学生はいらない、という話も聞く。そこで、今回は少人数の研究室体制について考えてみたい。


ビッグ or スモール

小講座制と大講座制

 まずは何がスモールか、ということ。単純に在籍人数だ。

 大抵の日本の研究室は小講座制をとっている。大学の基幹学部であれば毎年学生が配属される。理系の学部で上位の大学なら100%近く進学すると思うのでおのずと10〜20人程度になるだろう。教授、准教授、助教が一人ずつの研究室でおおよそ一人あたり5人程度をみることになる。名前と制度が変わってそれぞれの指導教員が独立して研究をする、ということになっているがシステム的には運営費交付金が研究室一括管理だったり、教育面では階級制度になっていたりして、研究室内では結局上下関係が存在していることが多い。准教授、助教はもちろんのこと、教授も(人間性がある程度備わっていれば)自由に研究室を運営できるとはいいがたい。また、自然と在籍人数も増えてしまう。

 一方で、大講座制をとっている大学もある。その研究室では教授だけでなく、准教授、さらには助教がワントップで研究室を主催している。この場合、指導教員はもちろん、自由に研究室を運営できる。今回の「スモール研究室」はこの大講座制での話。

 大講座制をとるところは、雇用資金面の問題から研究室を維持するために研究室に一人の指導教員を割り当てることを選択するところも多い。その場合は多くの学生を一人が見ることになる。聞いたところによると私大では1人で50人を見ているところもあるらしい。今回の「スモール研究室」はそのようなところ以外の、単純に小講座制を分割して研究室を増やしたような、アメリカ型の研究室を想定している。研究室の数が単純に2〜3倍になるので、学生の在籍数が少なくなりがちだ。もちろん人気研究室だと学生もいっぱい志望するので、人数も多くなる。
 このような状況の中で、あえて学生の人数を制限して「スモール研究室」にしておくことを考えてみた。まずはスモール研究室の考えうるデメリットを見てみよう。

スモール研究室のデメリット

スモール研究室のデメリットは主に学生が少ないことによるものだ。

研究成果の出にくさ

 学生の人数が少ない場合、ビッグラボでたまに実施されているように、グループで一つのテーマを進めるようなテーマの振り方はできない。一人ひとりがそれぞれ独立したテーマを進めることになると思われる。そうすると、複数で研究を行う場合に比べて研究の進度がゆっくりになる。そのため、研究一つ一つの成果ができにくくなることが考えられる。また、人数の多いラボと比べると振れるテーマも限られるので、自ずと成果の数も少なくなる。少なくともマンパワーに頼るような研究はできない。そういう研究スタイルだといわゆる「数」の研究成果はでにくくなる。

研究室内の指導環境

 先ほど示した研究テーマの振り方を考えると、ビッグ研究室で多くみられるような、いわゆる徒弟制度ともいうべき、教授 - 准教授(もしくは助教、PD)- 上回生 - 新人 のような制度は作りにくい。この制度のいいところは、指導教員の管理のしやすさが第一だと思う。学生側からしても、立場が近い学生に直接いろいろ聞けるので、研究だけでなく生活の仕方などいろいろな面で相談できるのがメリットになる。一方で、管理側からは直接に指導学生の状況が見えにくくなる。また、つく学生との人間関係に左右されがち、というデメリットがあるだろう。

研究室イベント、学科イベント

旧来の研究室では、歓迎会などの飲み会やスポーツイベント、研究室旅行など研究室内の交流を深めるイベントが実施されてきた。スモール研究室では、イベントを行うときに注意が必要になる。例えば、飲み会や旅行などは、人数が多い場合、一部の人が欠席しても成り立つが、人数が少ないラボでは誰かが欠席すると成り立たなくなる。学科イベントで野球大会やサッカーなどを実施するところもあるが、人数が足りないので参加できない。必然と実施できるイベントが限られてくる。こういうイベントが好きな人には、微妙な研究室生活になることは避けられないだろう。

スモール研究室のメリット

上で示したデメリットがそのままスモール研究室のメリットになる。

指導環境のスムースさ

ビッグラボでよくとられる徒弟制は、指導教員が一人ひとりの学生をとても管理できないことからとっている面もある。スモール研究室では、一方で、指導教員が直接学生を見る体制がとりやすい。指導教員が直接学生を指導できるメリットは、研究の方向性の判断が早いことにある。研究室の指導方針や些末な雑務など、やはり研究室の主催者(PI)が責任をもつため、判断が早い。助教や准教授も、結局PIでなければ、研究室の方針を伺うためにPIに判断を仰ぐという"ラグ"が存在する。そのため、直接指導教員とコンタクトがとれる環境が構築できれば、スムースにことを進められるようになると期待できる。指導教員側としては、学生一人ひとりと向き合わないといけなくなるため、それに時間がとられるが、人数がある程度限られると、学生が何を考えているか、何をやっているかが明確にできるため、それを考えている時間が節約できるメリットがあると思う。

一方で、学生と教員の相性がとても効いてくることはメリットでもあり、デメリットでもあるだろう。

研究の進め方

スモール研究室ではマンパワーに頼ったような研究ができない。トレンドの乗ったような、競争の激しい研究はできないだろう。そこで、重箱の隅をつつくようなマニアックなものに走るか、突拍子もない研究を始めるか、になると思う。研究者としては後者を選びたいものだが、これは博打みたいなもので、コケれば潰れてしまう、という大きなリスクがあるだろう。どうするかは環境とその研究者の考えによるかもしれない。

研究に必要な経費

学生や博士研究員が多く在籍するビッグラボでは必然と消耗品にかかる経費が増えてしまう。有機系の研究室では湯水のごとく有機溶媒は消費するだろうし、研究に必要な試薬や器具も少なくとも人数分は必要だろう。分野にもよるが、学生一人あたり年間100万円程度は必要となるという感覚だ。

 この点、スモール研究室は人が少ないのでそこまで消耗品費はかからなくなる。単純な計算ではあるが、研究者が申請できる研究費の多くは数百万円の規模のものなので、年間1000万円以上かかるような運営形態であれば、複数の研究資金を集める必要が出てくる。実際、独立する前は、大ボスに年間2000万円くらいは安定的に確保できるようにすれば大丈夫、と言われたくらいだ。

 この観点からいくと、研究資金の収集にもそこまで躍起にならなくてもよいようになる。これは割と時間の確保の観点からも重要な点だ。
 現在の研究環境では、単年度もしくは長くて2年の研究助成が多く、短期的に研究成果を出さなければいけないばかりか、毎年申請書を書かないとやっていけない状況にある。この労力が少しでも削れるならば、研究に割ける時間がより多くなるだろう。また、毎年研究費をとらねば…!というプレッシャーから解放されるところが、大きいかもしれない。

まとめ

スモール研究室の特性について思うところを色々書いてみた。ただ、意図的に自分の研究室をビッグにするかスモールにするかは結局は所属している学科によるところが大きいと思うので、置かれた環境でどういうふうにするか、考える参考になればと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?