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小滝橋異聞その3

当時住んでいたこのマンションは少し変わった造りで、建物のすぐ裏に二階建て民家が隣接して、マンションの二階通路はこの民家の二階出入り口に橋渡しされ繋がっていた。
オーナーの家だったのか詳細は全く知らないが、そんな造りの為、密閉された建物のそこだけ壁がなかった。

ある大雨の夜、深夜だったと思うが、近くのコンビニに行こうとマンションの階段を降りていった。
その二階に差し掛かると、雨水が床に拡がっているのが見えた。
通路奥の民家と繋がるところから風雨が吹き込んでいるだ。
この通路はL字になっていて、階段からだと角の先になる奥は見えない。
通路奥の灯が切れているのか、角から先は真っ暗だ。
その角奥から墨のように黒く見える雨水が拡がっている。

角の水溜りの中で何かが動いた。

モップだと思った。
太いふさの連なりがべたりと水溜りの中で拡がっている。
モップ以外思い当たるものはない。
それは見た瞬間、ズルッと角の向こうに消えた。

風雨の音以外なんの気配もない、真夜中のことである。
確認はしなかった。

親しみを込めて、「モップちゃん」と呼んでいる。


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