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「土曜の朝は、いまだ晴れ」スピンオフ#1

(ヒスイ女史のページにリレー連載している小説のスピンオフ企画です)

「音痴なのに、ミュージシャンなの? それってあり??」

彼女は、あなたのような音痴があり得ない、という顔をした。
驚くのも無理はない。そりゃ、そうだろう。そんな危険な橋を渡るやつは世間広しといえどあまりいない。
僕は、話す順番を整理してから、ゆっくり話し始めた。

「実は2035年の法改正で、音痴でもミュージシャンになれるようになったんだ。
それまでは、もし見つかったらシベリア抑留だった。
ノルドヴィクの❝音痴の丘❞は、仲間の屍でいっぱいさ。聞いたことくらいあるだろう?
僕も2033年からの2年間はびくびくだったよ。何度も公安に尾行けられた。そのたびに裏路地の住人に助けてもらって何とか逃げた。

そんなある日、僕はまた尾行けてきた公安を撒こうとして裏路地に逃げ込んだのだけど、ヘマをして袋小路の行き止まりに追い詰められそうになった。
その時に出会ったのが、みどりちゃんだった。

彼女は僕の顔を見て間髪入れず、彼女の着ていたチェスター・コートを僕に着せて、僕の顔を引き寄せて長いキスをした。
公安は僕のことに気づかず、横をすり抜けて行った。

❝私、なかなか機転が利くでしょ?ロシアにスパイとして雇ってもらえないかしら?❞

みどりちゃんはそう言って、僕に着せたコートを脱がして羽織り、チェシャ猫のような笑顔の残像を残して路地裏に消えて行った。」

彼女は何も言わず、目で「それから?」と訊いてきた。

「それが僕が最後にみどりちゃんを見たときの記憶。」

そう言ってから、忘れないように付け足した。

「ガソリンスタンドで偶然、再会するまではね。」

本編はヒスイ女史のページで。

あと、ご参考資料!!


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