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全国水族館の旅⑩相模川ふれあい科学館アクアリウムさがみはら

水族館にとって、研究・展示・保全活動と並んで重要なお仕事が教育です。学術施設であるため、一般の人々に質の高い環境教育を提供して、地球環境保全の輪を広げていくのです。
私たちがダイレクトに実践できるのは、小さな河川や水田などの近しい自然を守ることです。そんな身近な環境の大切さを教えてくれる相模原市の水族館に行ってきました。


未来の環境保全を担う若者は、相模原の水族館で育つ!

いきなり「地球環境の保全活動をしよう!」と言っても、我々一般人には海洋に漂うマイクロプラスチックを大量に除去したり、湖の汚泥を重機で取り除いて浄化したりなんてできません。しかし、身近な自然から少しずつ状況を変えていくことはできます。
アクアリウムさがみはらでは、田んぼの水路や溜池などの馴染み深い自然の大切さ、それを保全するためにはどのようにすればいいのかを教示してくれます。まさに、多くの子供たちに訪れてほしい学術施設です。

本館へのアクセスは、神奈川県相模原市の中心であるJR相模原駅からスタートです。駅前のロータリーで「水郷田名行き」バスに乗れば、水族館の手前まで行くことができます。

JR相模原駅前のロータリーは、初見の人には複雑です。バスのお乗り間違えをしないようにご注意ください。

バスで進むこと30分弱、アクアリウムさがみはらに到着です。水族館の周辺には水路が流れており、いかにも水の世界への導入、といった雰囲気がしてわくわくします。
いよいよ、私たちの周囲の水環境を理解するための学びが始まります。

水族館周辺の公園内に流れる水路。近隣住民の方々にとって、きっといい散歩コースになっていると思います。
アクアリウムさがみはら。水族館の周囲にも、ゆっくりと水が流れています。まさに相模原市のオアシスですね。

環境教育に最適! 身近な水域の保全を学べる学術施設

身近な自然環境への理解度が高まる見やすさ重視の展示 

まず、この水族館は内装がとってもきれいです!
水槽の配置にもこだわりが感じられ、展示空間のレイアウトが素晴らしいと思います。また、キャプションもカラフルかつ大型サイズで読みやすさ抜群。とてもリラックスした心地で観覧できる施設となっています。

メインの展示室。右手側にある円形水槽は、外側と内側から360度の方向から生き物を観察できます。
このタイプの大型水槽がフロア内にバランスよく配置されています。カバーの中には複雑な機械が入っていそう、と水族館オタクは気になります(笑)。

展示空間も水槽もきれいなうえに、多くの水槽は両側に窓があるので、とても生き物を観察しやすい環境となっています。キャプションも理解しやすい説明であり、各生物の特徴をスムーズに学ぶことできます。

カワアナゴ。アナゴではなく、ハゼの仲間です。夜になると活発に泳ぎ、川魚やカニを捕食します。
東北地方に分布するキタノアカヒレタビラ。神奈川県にも亜種アカヒレタビラが生息していましたが、現在では絶滅してしまったと考えられています。
ブルーカラーのサワガニ。地域によって、サワガニの色は異なります。相模川には茶色個体と青白色個体が生息しており、後者は江ノ島でも見つかります。

生き物の解説が一つ一つ丁寧であり、それぞれの独特な生態を詳細に理解できます。次々と現れる生き物たちの特徴や能力が気になって、どんどんのめり込んでいきます。

キャプションがカラフルかつわかりやすく、イラストや映像を絡めて解説してくれます。
こちらはムギツクの「托卵たくらん」という習性についての説明です。
托卵を行う魚ムギツク。他の魚の巣に自分の卵を産み落とし、世話してもらうのです。
ムギツクに托卵される魚ドンコ。巣に産みつけられたムギツクの卵を、自分の卵と同じように大切に守ります。

本館の大型水槽にはストーリー性が感じられます。河川を上流域から下流域に下るように、スロープを下へ向かって進んでいくと、水槽の中の生き物も移り変わってゆきます。水の流れを感じながら、じっくりと美しい淡水生物を見つめましょう。

スロープに合わせて設計された水槽。河川を上流から下流へ下るイメージであり、下方向に進むに伴って、水槽の中の生物も変わってきます。ゴールはもちろん川の先の海です。
上流域に棲むのはニジマス。食用目的にアメリカから移入された魚であり、神奈川県には複数の釣り場や養殖場があります。
下流域ゾーンにはスッポンやコイの仲間が展示されています。上流・中流・下流でそれぞれ異なる生物相を、体系的に学べる素晴らしい展示ですね。

きれいな館内でリラックスしながら水域環境を学べますので、子供も大人もしっかりと生物の生態や自然界の仕組みを理解できると思います。どういった魚がどういう生き方をしているのか、論理的なお話もわかりやすいキャプションで解説してくれるのでとても安心です。

夜行性の小型哺乳類カヤネズミの展示もあります。なぜ照明が赤いのかと言うと、カヤネズミには赤い色がよく見えないので、彼らにとっては真っ暗な状態と同じになります。夜行性の動物を展示するには、赤い照明は適切なのです。

水に棲む生命のために! 水域に隠された環境保全の工夫

筆者が本館で心から素晴らしいと思ったのは、身近な水域での環境保全工法の解説です。田んぼの近くにお住まいの方は目にすることもあるかもしれませんが、その仕組みを深く学ぶ機会は少ないと思います。

例えば、水路やダムなどに造られた魚道ぎょどう
魚たちの中には、繁殖のために海から川に戻ってくる種類や、湖から水田にやってくる種類もいます。しかし、途中に勾配の急な水路やダムがあると、魚たちは繁殖場所に辿り着くことができません。
その難題を解消するために造られたのが、魚たちの通り道ーーすなわち魚道なのです。本館では、魚道の構造と効果について、模型とキャプションを使って詳しく解説してくれています。

魚道の仕組みについての解説展示。魚の種類に応じて、様々なタイプの魚道が存在するのです。環境工学についてこれほど詳しく説明してくれるなんて感激の極みです。
模型によって、魚道の構造を視覚的に理解できます。筆者は感動しつつ、子供たちへの環境教育にとっても役立ちそうと考えておりました。

生き物たちに役立つ工学的な技術はたくさんあります。水槽展示においても、生物保全用の構造物を展示して、その効果を実演してくれています。

川に設置する木杭きくい。流速を緩やかにする効果があり、それによって生き物の棲みやすい流れができあがります。
階段式魚道の中の様子が水槽から見れます。構造物の間には魚のための休憩プールがあり、魚たちは階段を登るようにゆっくりと進みながら目的地へ向かいます。

ここで「魚たちは魚道があればいいけど、他の水棲生物はどううやって水路を登るんだ?」という疑問を持つ人もいらっしゃるかもしれません。でも、心配ご無用です。アイディア次第で、効率的な打開策は生まれてきます。
その一つが、カニのための移動用の足場です。素材には頑丈なロープが採用されており、カニたちは脚を使って難なく登っていきます。

こちらがカニロープ。カニたちの上流への移動を助ける橋として機能します。
1階の水槽から上階へと伸びるカニロープ。環境保全の現場において、どれほどの効果があるのかを実演してくれています。
上階の水槽にて、1階から登ってきたカニたちを確認。カニロープの効果は抜群です。これならば、野外においても、カニたちはダムを越えて豊かな河川へと移動できそうです。

そして、生き物たちの揺りかごとされている水田についての解説もあります。水田はとても多くの生物の命を支えており、農業のみならず生物多様性の面からも尊い環境です。その証拠に、水田から新種の微生物が発見されています。本館の展示によって、忘れがちな身近な自然の素晴らしさに改めて気づくことができます。

昆虫と水田の関係についてのキャプション。人工的な環境でありながら、水田は多くの生き物の成長と繁殖に大きく貢献しています。
水田は水生昆虫にとっても好適な棲家となります。こちらのクロゲンゴロウは日本の在来種であり、現在の生息域は限られています。
水田の外来生物の展示。水田においても、アメリカザリガニは在来種たちの脅威となっています。しかし、ザリガニたちはただ日本に連れてこられただけであり、そもそもの原因は我々人間であることを理解していただきたいと思います。

相模川ふれあい科学館アクアリウムさがみはら 総合レビュー

所在地:神奈川県相模原市中央区水郷田名1-5-1

強み:身近な自然の意義・工学的な保全の方法について説く環境教育型の展示内容、生息環境ごとの水棲生物の姿や保全工法の構造を見せる独特な展示工夫、内装がきれいで広々とした観覧しやすい展示エリア

アクセス面:水族館の周辺に複数の専用駐車場がありますので、関東にお住まいの方は自家用車の使用がベストです。JR相模原駅からバスが出ていますので、公共交通機関の利用も大いにありです。他の水族館にも当てはまることですが、帰りのバスの発車時刻を念頭に置いて、あらかじめ観覧にかける時間を設定しておきましょう。

筆者が思うに子供たちへの環境教育に最適な展示施設であり、多くの人々に来館してほしいと願っています。環境保全を訴えている水族館はたくさんありますが、身近な水域の保全の仕組みについて、これほど実践的かつ具体的に教示してくれる施設はそう多くはないと思います。
もちろん生体展示も素晴らしく、色とりどりの水棲生物たちは美しさ・かっこよさ満点で、純粋に水族館として楽しめます。水槽の見方には工夫が施されていますし、それに加えて展示エリア自体がとてもきれいですので、家族連れでゆったり観覧するのにもオススメの施設と言えます。

本館で保全技術を学んだら、自然環境のために自分にできることは何かあるだろうかと考えてみてください。魚道の展示を見ていただければおわかりだと思いますが、実践的な保全には工学系の技術が必要不可欠です。つまり、工学や建築学の力で生き物を救うことができるのです。ですので、環境保全に関心のある方は、ぜひ自分の強みや専門技術を自分なりのやり方で活用し、その力を地球のために役立ててほしいと思います。

ワークショップコーナーの壁面には、相模川の生き物探索マップがあります。水族館の観覧後に、野外で生き物を探しに行くのも楽しそうですね。

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