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【戦国ショートショート】生き写し返し
昼なお暗い森の中…
一人の落武者が巨大な鬼に出会った。
「そなたを喰らって、その姿を生き写させてもらおう」
鬼はそうして人の姿で人の世に潜み、何年もの間、人を喰らって生きていくのだという。
「大人しく喰われはせぬぞ!」
襲いかかる鬼に刀を振り上げ、落武者は果敢に抵抗した。
鋭い爪と刀がぶつかりあい、火花が飛び散る。
だがついに鬼の手が落武者をとらえた。
落武者を頭から丸呑みにした鬼は、すぐにもその姿になるはずだったが……
「こ……これはなんとしたこと……」
体の急変を感じた鬼は、たまらず喰らったばかりの落武者を吐き出した。
と、次の瞬間、鬼の意識は落武者の中にあった。
望み通りその姿を手に入れたわけたが、何かおかしい。
目の前にはかつての自分であった鬼が仁王立ちしているのだ。
鬼が落武者の声でしゃべった。
「不思議か? 実はわしもかつては鬼だったのじゃ。お前はまだ若い鬼だから知らぬも道理。人の姿になった鬼が元に戻るためには、別の鬼に己を食らわせ、生き写し返しの術をかけるしかないのだ」
「なぜ、鬼に戻る? 人の姿の方が都合が良いではないか」
「わしは、この戦国の世で人であり続けることに嫌気がさしたのだ。同類と殺し合い、無力な者を蹂躙し、下剋上などと己の主も謀殺する……鬼よりも酷いものよ。山奥で鬼として潜んでいた方がましだわ……」
鬼に戻った落武者は、一飛びで森の奥へと消えていった。
「おぬしもその内わかるだろう……それまでその首、大切にするのだな……」
消えゆく声と入れ違いに、落武者となった鬼は背後に人の気配を感じた。
数人の雑兵が、自分を取り囲もうとしている……
ほどなく、鬼ならぬ落武者の首を獲った雑兵たちの勝ち鬨が森の中にこだました。
「明智光秀、討ち取ったり!」
完
たはらかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「生き写しバトル」。
はじめて時代劇を書いてみました。
一応、「バトル」は描いてますが、雰囲気にそぐわないのでタイトルからはずしちゃいました。
実はこの後がありまして、鬼に戻った光秀はちょっと小腹が空いていたので、引き返して雑兵どもと鬼の死体を食っちゃいました。
なので、光秀の首は見つからないままその死に謎が残されたというお話です。
無茶ですね。
😓
さて、恒例の宣伝です。
noteさんで開催中の「創作大賞2023」に、長編SF小説「銀河皇帝のいない八月」で応募中です。
いよいよ、応募締め切りならびに読者応援期間終了となる7月です。
どんな反応でもいいので、コメントいただければ幸いです。
よろしくお願いします!
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