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【掌編ハードボイルド】たったひとつの親切な暗殺

 「レオン」という映画にこういうシーンがある。
 暗殺者志願の少女に、プロ暗殺者の男が言う。
「女と子供は殺すな」
 ほとんどの観客は、このセリフが彼の優しさや親切心から出たものだと思うだろう。
 だがそれは誤解だ。
 彼の真意はこうだ。
「女子供を殺すと、社会からの追及が厳しくなり仕事を続けにくくなる」

 俺も同じ理由で、女子供には手を出さないようにしてきた。
 だが、その信条もついに曲げざるを得ない状況になった。
 今回のターゲットは、とある母親と年端もいかぬその娘。
 政情不安なこの国にあって、その暗殺にはとある勢力へのメッセージの意味があった。
 しかも、この仕事は絶対に断れない義理のあるスジからのものだったのだ。

 問題は、この母娘と俺とは面識があり……いや、面識以上の恩義があるということだった。

 依頼主と標的。
 どちらにも親切な暗殺などあり得ない……はずだったが、たった一つだけ方法があることに俺は気づいた。

 俺はいつも通りプロとして綿密な計画を立て、仕事に臨んだ。

 完璧な時間に、完璧な場所で待機する。
 完璧なタイミングで、眼下に母娘の姿が現れた。
 二人の姿をスコープの中に捉えたその時、これも完璧なタイミングで背後のドアを誰かが叩く。
 トリガーに指をかけた瞬間、サブマシンガンの銃声と共にドアが弾け飛ぶ。
 突入して来た警官を振り向きざまに仕留める。
 すかさず背後に控えていた私服警官のグロックが火を吹き、9ミリ弾が俺の胸に叩き込まれる。

 全ては完璧に俺が描いた通りの段取りだった。
 義理も恩義も欠くことなく、俺の最初で最後の親切な暗殺は終わった。

 明日の新聞には全てが載るだろう。
 密告者の通報により、上院議員親子は暗殺から守られた、と…

 だが、密告者の名は誰も知ることなく俺の墓に刻まれるのだ。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「親切な暗殺」。
実はこのお話「レオン」のほかにもう一本、映画が元になっています。
何の映画でしょう?
コメントで最初に正解をお寄せいただいた方には……拍手を差し上げます。
😊

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