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【ショートショート】アメリカ製保健室と先生の幻想

 うちの高校の地元は、アメリカのとある地方都市と姉妹関係にある。

 なので、様々な相互交流の話が聞こえてくるが、この学校に関する話はとんとなかった。
 だが、新学期が始まった今日、はじめてアメリカからこの学校に来たものがあるという事実を知らされた。

 アメリカ製の保健室と、教師が一名来たという。

 保健室がアメリカ製というのは、設備の話だろう。
 だがその保健室の先生とは?
 男子は色めきたった。

 この学校は共学だから、女子の面倒を見るために保健室付きの先生も女性である。
 これまでは、迫田先生という定年間近の女性教諭……通称「おかん」が担当だった。

 だが、それがアメリカ人の女性教諭と交代となると……

「ブロンドのムチムチ美女だったりしてな」
 そんな期待が男子の間にわき上がったのだ。

 さて、そうなると何かしらの理由をつけて、保健室を覗きにいきたいところだが、何も問題のないまま行くわけにもいかない。
 仮病というのも、ちょっとおさまりが悪い。

 そんな時、俺に思わぬ幸運が舞い込んだ。

 柔道部の練習中、受け身に失敗した俺は肩をはずして保健室へ行ってこいと顧問に指示されたのだ。
「やった!」
 俺は誰にも聞かれないようひとりごちた。

 そわそわする気持ちを抑えて、アメリカ製保健室のアメリカ製ドアを開く。
「あれ?……おかん」
 中にいたのは、以前と同じ迫田先生だった。
「何、まだ私のことをそんなふうに呼んでるのか? しょうがねえな」
 先生はピカピカの新品に見えるベッドを指さした。
「怪我でもしたか? 横になりな。アメリカから来たばっかりの自動リクライニングベッドだよ」
 ひとしきり、アメリカから来た最新設備の自慢を聞いた後、おかんの有無を言わせぬ一発施術を、俺は悲鳴をあげながら受けた。

 失望とブロンド先生の幻想を引きずったまま体育館に戻ると、顧問が言った。
「お、戻ったか。ちょうどいい。新しいコーチを紹介しよう。ヘイ! カモン!」
 現れたのは、柔道着を着た屈強な白人男性だった。
 雲つく長身と短く刈り込んだ金髪は、親父の好きなボクシングの映画に出てくるロシア人ボクサーのようだ。
「今学期から赴任された、英語教師のラングレン先生だ。柔道部のコーチも務めてもらうことになった。アメリカ人でも黒帯だぞ。ビシビシ指導してもらうから覚悟しろ!」

 俺は早速ラングレン先生との乱取り稽古に取り組まされ……

 またしても受け身に失敗して肩をはずした。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「アメリカ製保健室」。
最近の高校生は「ロッキー」なんか観ませんよねえ……
🤔

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