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【ショートショート】鳥獣戯画ノリ 不思議の国のパンク編

 庭で遊んでいたアリスは、時計を見ながら走る白ウサギを追って走り出した。
 やがてウサギは横穴に飛び込んで姿を消し、その後に続いたアリスも穴に入って行った。
 真っ暗な闇の中でアリスは竪穴にはまり、真っ逆さまに落ちて行く。

 気がつくと、目の前で白ウサギが仁王立ちしていた。
 その手にはなぜかエレキギター。
「遅かったな!」
 声はウサギの反対側から聞こえた。
 そこには同じようにギターを抱えたカエルの従者が立っていた。
「今日こそ決着をつけてやるぜ!」
「望むところだ!」
 ウサギとカエルは、アリスの目の前でギターバトルを始めた。
 それはアリスが聞いたことのない、斬新なロックのノリだった。
 アリスは縦ノリ、横ノリが絡み合ったサウンドに身を委ねてビートを体に刻みつけた。

「アリス…? アリス…?」

 姉の声で目を覚ましたアリスは、興奮で刈り込んだ金髪を逆立てながら飛び起きた。
「姉さん! ついに見つけた! これが新しいノリよ!」
 アリスは芝生に脱ぎ捨ててあった革ジャンを引っ掴むと、母屋のホームスタジオに飛び込んでギターをかき鳴らし始めた。

 アリスが発表した曲はロックの復活を象徴する傑作として、世界中で大ヒットした。
 メジャーレーベルから発売されたアルバムのアートワークは、ギターバトルを繰り広げる白ウサギとカエル。

 そのサウンドが日本で「鳥獣戯画ノリ」と呼ばれるのはそれからほどなくのことであった。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
文字数、順調にオーバーして589文字。
ルイス・キャロル先生、ごめんなさい…てことで、よろしく(何を?)。
🙏

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