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苦痛を望む者たちの理想の住宅。周藤蓮『バイオスフィア不動産』第1話「責問神殿」を読む

早川書房さんの公式note、Hayakawa Books & Magazines さんで試し読み用として公開された、周藤蓮さんの作品「バイオスフィア不動産」第1話の感想です。

舞台は、内部で資源的、エネルギー的に完結している…すなわち、そこから一歩も出ることなく不自由ない生活が送れる建築物が普及した未来社会。
そのバイオスフィア建築を扱う不動産業者の物語です。
現代でも、住人の消費分より大きいエネルギーを生み出すZEH(net Zero Energy House=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という住宅が販売されていますが、それがもっと進化したものといえるでしょうか。
コロナ禍で社会全体が引きこもり指向になったことを受けての設定でもあるようです。

第1話に限った話ですが、二人組の探偵的人物が、修道僧だけが住む宗教施設に乗り込み、とある事件の謎を追う…という、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」を彷彿とさせる物語でした。
最後に、謎の真相を明かすのが最高位の修道僧という部分も似ています。
「薔薇の名前」自体も「シャーロック・ホームズ」のモデルを基にして書かれた小説なので、つくづくコナン・ドイルは偉大ですね。

完全に閉鎖されたバイオスフィア建築という環境の中で、特殊な価値観の元につくられた異常な社会性のおぞましさが過剰なホラー描写と共に描かれていて、読み応えがありました。
読者の目であり耳であり、主人公というか狂言回しとも言えるアンドロイドがユキオという男性的キャラクターでありながら、セーラー服を着てたり、ラストでやっと姿を見せる相棒のアレイが意外性のある身の上だったりと、人物描写はかなり凝っているというか、歪んだ趣です。

しかし、正視できないような状況で苦痛に身を食ませる僧侶長をはじめ、異常な人間たちを描いているようでありながら、どこか現代社会でも普通に存在している、普通の人間たちに通じるものを感じさせるものがあるので、物語には実在感というか説得力があります。
「信仰の最大の敵は何か」という禅問答も決して浮いておらず、ストーリーと有機的に繋がってます。

 周藤さんの作品は初めて読みましたが、第2話以降も読んでみたいと思います。
 今後、主役コンビの関係性にも意外な展開が待っているような気がするので、楽しみです。

苦痛を望む者たちの理想の住宅。周藤蓮『バイオスフィア不動産』第1話「責問神殿」|Hayakawa Books & Magazines(β) @Hayakawashobo #早川書房 
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