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国立奥多摩美術館館長の 他の美術館に行ってきた!(Vol.04) 東京都現代美術館 『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』

他の美術館に行ってきた!(Vol.04)

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東京都現代美術館
『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』
会期:2021年12月20日~2022年2月23日
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2022年1月16日(日)晴れ。
「音楽とアートをつなぐ最重要作家の国内初の大規模展覧会」
と銘うたれた展覧会に行ってきた。その最重要な作家こそ、
クリスチャン・マークレーであるらしい。
行ってみて会場内を見回すと、そこには
いつもより多くのオシャレな人々が来ているように感じた。
その理由をぼんやり考えた。
ファッションに興味がある人と、
音楽との親和性が高いからかなと思ったり。
そんな先入観が僕にあるから、そう見えるのかなとも思ったり。
とにかく、音楽やアートやファッションなどの
カルチャー情報にアンテナを伸ばしている人は、
とりあえず見ておこうかなという類の展覧会だと思う。
マークレーという作家の一貫したコンセプトを
一言でいうならば、「音を見る」だろう。
言わずもがな、音や音楽は空気が振動し耳から伝わる。
しかし、この世界に溢れる音や音楽は、
耳からしか楽しむ事が出来ないものなのか。
視覚情報として目から受容し、楽しむ音楽は可能か。
そんな問への応えとして、
聴覚情報から視覚情報への「翻訳」を試みるのがマークレーである。
音楽は、時間を伴う連続性の中に存在している。
時が止まった瞬間に音は耳に届かない。
しかし、その瞬間に音を届ける方法。すなわち、
視覚的な世界の捉え方の中に、
時間をどの様に閉じ込める事が可能か。
そういう思考実験へのユニークな解答が彼の作品である。

少し大げさに言ってみたが、
ここに並べられている文字をあなたが読むという行為も、
時間という連続性を伴う。
文章を書くという事は、
視覚的世界に時間を閉じ込める1つの方法である。
よってマークレー作品に文字を用いたものも多い。
「音を見る」ことへの様々なアプローチが展示されている。

その中で、僕が最も興味を引かれたのが、
最後に展示されていた『ミクスト・レビューズ(ジャパニーズ)』という、
耳の聞こえないパフォーマーが
手話を用いて音を表現している映像作品だ。
耳では聞こえない音が、
確かに目から入ってくるような不思議な感覚がした。
音について思いを巡らせるには、とても良い展覧会だと思う。
【☆8.8】(佐塚真啓)
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「西の風新聞」2022年2月3日(1636号)掲載

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