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「知れば知るほど好きになる農家という生き方」飯田強司さん(2009年卒)

第15回目は、2009年に札幌大学文化学部比較文化学科(当時)を卒業され、2023年春より北斗市(文月・向野地区)にて「nonomama」として新規就農された飯田強司さんに、大学時代の思い出やお仕事についてインタビューしました。

札幌大学について


札幌大学在学中の思い出

Q:どんな学生でしたか?とくに心に残っていることなどがあれば教えてください。

▲nonomamaの飯田さん

ユニセフネットワーク(サークル)に所属

札幌大学では4年間「ユニセフネットワーク U-NET」というサークルに入り、定期的な街頭募金やイベントの企画運営などの活動に参加しました。当時海外への強い憧れがあったので、少しでも海外と繋がりのあるサークルを選んだのだと思います。サークル活動以外では、自主的に海外ボランティアの活動に参加したりもしていました。

サークルでは3年次に部長としてメンバーの意見を取りまとめる経験をしました。先輩も後輩もいる中で、しかも当時80人くらい在籍していた大きなサークルだったので、とにかく大変だった記憶がありますが、その分人間的に成長できたかと思います。

中国への短期語学留学

大学3年生になり周りが就職活動を開始した頃、もっと多くの人や場所との出会いの中で自分のやりたいことを見つけ、キャリアを考えてみたいと感じるようになりました。一般的な就職活動というものがその時の自分の価値観にしっくりこなかったのだと思います。それとは別の方法で模索している中で交換留学にチャレンジすることを決めました。

▲短期語学留学先の中国での川下りの様子

言語の選択科目で中国語を取っていたので、留学先は中国にしました。4年生の9月に出発し、広東省広州市にある広東外語外貿大学で学びました。現地では中国語の勉強のほか、近隣の観光地へ足を伸ばしてみたり、日本語を勉強している中国人に言語を教えたり。日本から離れて言語も文化も異なる異国で暮らしたことで、改めて日本の良さを感じました。そして、この先日本で暮していく上で何が必要になるだろうと思いを巡らせるようになりました。

キャリアについて

Q:大学を卒業されてから現在までのご経歴や、現在のお仕事の具体的な内容を教えてください。

▲現在北斗市在住の飯田さん。今回はリモートで取材させていただきました。

中国から帰国してすぐ卒業。まずは留学中に感じた「日本の良さ」をもっと自分の目で見て日本を知りたいと思いました。漠然と「食」や「農業」がキーワードとして頭に浮かんでいたので、とにかく自分が興味のあることを探し、人に会いに行き、話を聞き、イベントに参加するということを繰り返しました。最初はSNSなどで情報を探して飛び込みで行っていたのですが、そのうち、行った先々で人や機会を紹介していただけるようになり、人のご縁はまるで数珠繋ぎのようだと感じました。もちろん不安はありましたが、同時に「このやり方は絶対間違いではない」という確信のようなものも感じていました。

とくに持続可能な暮らしや食の安全ということに興味がありました。当時通っていた「無農薬野菜を提供するカフェ」の店員さんから紹介していただいたのが洞爺湖町の佐々木ファームでした。ちょうど佐々木ファームで人材を募集するタイミングだったこともあり、1年の模索期間を経て就職することになりました。

洞爺湖町の佐々木ファームでのこと

佐々木ファームは、当時14ヘクタールの土地を持つ野菜農園で、慣行栽培から無農薬での栽培に舵を切ろうというところでした。初年度はかなり虫の被害が大きかったと記憶していますが、試行錯誤しながらそれが次第に改善されていく様子を間近で見させていただきました。

また、同時期に販売方法の切り替えもありました。それまでは農協への出荷が中心でしたが、私が就職した頃からレストランや一般消費者へと販路を開拓し、ダイレクトマーケティング中心の販売方法へと変更しました。札幌のマルシェやイベントに出店させていただき、たくさんのレストランの方々とお会いして。そういった「つながり作り」をゼロから見ることができたのは、後に自分で新規就農する際にも大変役立つ経験となりました。佐々木ファームの社長ご夫妻はとても元気で明るい方々。人のご縁を大切にされるその人柄にも大きな影響を受けました。

大阪のそら植物園へ

佐々木ファームで8年間勤務した後、農業以外の視点から植物を見てみたいと感じ、大阪のそら植物園という造園会社へ。そこは「ひとの心に植物を植える」をスローガンとし、生産卸・輸出入・ランドスケープデザイン・造園工事・レンタルグリーン・街づくりや森づくり・イベント演出や空間緑化・植栽管理・商品開発などの幅広い業務をボーダーレスに行う企業です。1年間という短い期間でしたが、業界の慣習や古くからの考え方にとらわれない新しい視点を持つことの重要性を学べましたし、自分の仕事の見せ方、表現の仕方という部分について考えるきっかけにもなりました。

北斗市で新規就農

▲飯田さんのインスタグラムより。何気ない日常の風景ですが、「農業のある暮らし」の美しさが凝縮されたような写真がたくさん掲載されています。

一般的に、農業というと大変、儲からない、ご高齢の方が多いなどのイメージがありませんか?それが悪いわけではないのですが、もっと別のイメージで農業をしても良いのではないかと感じています。農業は日々の食を支えるものなので私たちの暮らしに直結しています。そういうところをもっと見せたいですし、「農業はカッコいい」と思ってくれる人が増えれば人手不足などの課題解決にもつながるかもしれません。美味しい野菜を育てるということは大前提ですが、それに加えて多くの人が農業に興味を持つきっかけ作りのようなことができたら良いなと思うようになりました。

そら植物園を退職してからは1年間の貯金期間と2年間の農業研修を経て、今年ようやく新規就農に漕ぎ着けることができました。北斗市を選んだのは、都市近郊型農業をしようと思っていたこと(函館近郊)、そして雪解けも早く、農業ができる期間が長いことなどが理由です。近くにはワイナリーや養豚場、チーズ工房などもありますが、同年代で無農薬野菜を栽培している農家はそんなに多くはいません。無農薬で美味しい野菜を育てることができればちゃんと生計を立てていけると思いました。

少量多品目&ダイレクトマーケティング

▲nonomamaにて
▲2年間の試行錯誤の末、大きく育った新生姜

「nonomama」は、無農薬野菜の栽培の他に、「少量多品目」「ダイレクトマーケティング」などの特徴を持つ農園です。現在は1.5ヘクタールの農園で100種類以上の野菜を季節ごとに栽培しています。収穫した野菜は、函館を中心に、札幌、東京など、現在約20店舗の飲食店が定期購入して下さっているほか、不定期で一般消費者へのインターネット販売も行います。函館の飲食店へは毎週水曜の朝に野菜を収穫し、配達に行きます。季節によって収穫する野菜は異なるのでおまかせによる詰め合わせがほとんどです。

▲マルシェの様子

飲食店に直接販売できるダイレクトマーケティングの良いところは、まず生産者も消費者もお互いの顔が見えるところです。自分たちが作った野菜がどのように調理されているのかが分かり、直接反応をいただけることは生産者としてこの上ない喜びです。また購入者にとっても生産者の顔が見えることは安心ですよね。お互いの信頼関係につながります。

また持続可能な農業を目指した時に、ダイレクトマーケティングと相性の良い少量多品目栽培はメリットが大きいです。もし市場に出すとなると、サイズや形などの規格をクリアする必要があり、味や品質に問題がなくても既定のサイズや形に合わないものははじかれてしまうのですが、ダイレクトの場合はそのようなことはありません。近年猛暑や豪雨などの気候変動が問題になる中で、多品目によるリスクヘッジができる点も有難いことです。

まずは今できることを一生懸命やって、「nonomama」を育てていきたいと考えていますが、今後、加工品の開発やワイン作りなどにも挑戦してみたいです。そのために、今でも色々なところに足を運び、人と会い、話を聞くということは大切にしています。

札幌大学の後輩に向けたメッセージ

Q:札幌大学の後輩や同窓生に向けてメッセージをお願いします。

ぜひ人とのご縁を大切にしてください。今はSNSなどで誰とでもすぐに繋がることができますし、情報も手に入りやすい時代です。だからこそ実際に人と会うことが大事です。興味がある職業や生き方をしている方がいれば、とにかく実際に伺って話を聞くことが大切だと思います。そこから広がることはたくさんあります。

人に会いに行く時は、ぜひ自分の状態を良くしておくよう心がけてみてください。明るく元気で良いエネルギーを放っている人に会うと、応援したり誰かを紹介したりしたくなるものです。自分の機嫌は自分で取る、どんな時も同じテンションでいる、ということが人とのご縁をつないでいくためのコツになるかもしれません。また、人だけでなく、自分の興味あるものに対して自分自身で取りに行くというイメージも持つこともおすすめです。自分が好きなものを大切にすることで、自分のモチベーションを維持できますし、共感できる人とも出会いやすくなりますよ。

TOPICS

飯田さんの農園nonomamaのインスタグラムでは、日々の農園の様子を発信するほか、不定期で産直野菜のインターネット販売のお知らせもあります!ぜひご覧ください。
nonomamaの公式インスタグラム

「わたしと藻嶺」について

「わたしと藻嶺」は、卒業生の皆さんが大学時代の思い出を共有し、それぞれの卒業後の活躍を応援する場です。さまざまな分野で活躍するサツダイOB・OGの皆さん、ぜひ取材させていただけないでしょうか?取材にご協力いただける方、また卒業生をご紹介していただける方は、札幌大学企画部入試・広報課までご連絡ください。本メディアに関するご質問やご意見、ご要望などもお寄せください。

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