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【対談】20年書き続けるには何をすべき?——これからのライターの「生き残る力」



『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)の発売を記念して、「書く仕事」にまつわるテーマについて、さまざまな方と対談させていただいています。今回のお相手は、編集者で、コンテンツ・メーカー、ノオト代表の宮脇淳さん。全国各地で「#ライター交流会」やライター向けの講座を開催したり、コワーキングスペースの運営を行ったりと、「全国規模でライターとつながりのある編集者」とも言える宮脇さんとお話しをさせていただきました。原稿を書いてくれたのはライター仲間の塚田智恵美さんです。



相手は人気ラーメン店の店主。どんな依頼書を書けば取材ができるか


宮脇:
さとゆみさんの新著『書く仕事がしたい』を読んで、「こういう本が出る時代なんだなあ」と思いました。書く仕事の門戸が開かれていくような兆しを感じます。

さとゆみ:
「こういう本が出る時代」というのは?

宮脇:
ライターに憧れる人が出てくる時代、という意味です。

僕は20数年前、雑誌の編集部を経てフリーライターになったのですが、編集部に所属していたころは、ライターと言えば他の職業は務まらない無頼漢がやる仕事といったイメージがあったと思います。「お前は何もできないけれど、文章だけはいいから」と言われてやるような。

締め切りを守らないライターも多かったし、それが許される空気もあった。それは、書くことを数ある「仕事」の1つではなく、言葉を紡ぐことしかできない人たちの特別な「行為」と見ていたのかもしれません。 

いまは、きちんと「仕事として」書きたいと思う人が増えて、そのための技術やマインドが本になる時代になったんだな、と思って。最近の若いライターさんは締め切りを守りますしね。

さとゆみ:
なるほど。「書く仕事をしたい」と思う人たちの性質が変わってきたのかもしれないですね。最近は、ライターが「憧れの仕事」として取り上げられることも増えたと聞きます。

宮脇:
この職業を、「きちんと食べていける仕事」として発信し続けている、さとゆみさんの師匠である上阪徹さんや、さとゆみさんの功績も大きいと思います。

——今日は、これからのライターが「仕事として」ちゃんと生計を立てながら、書き続けていくための秘訣を伺いたいです。お二人は宣伝会議の編集・ライター養成講座などで講師もされていますが、講座生の方たちに、特に伝えていることはありますか。

さとゆみ:
なるべく「編集者目線」を身につけてほしいと思っています。長く、書く仕事を続けていくためには、編集者さんが何を気にしているかを知ったり、自ら提案ができたりすることが強みになる。だから私のライター講座では、書くだけではなく企画を立てるワークも行います。

宮脇:
原稿を書く「以外」のところまで、当たり前のように目が届くかどうか。長く仕事を続けていくためには、視野の広さが求められますよね。僕も宣伝会議の講座では、文章トレーニングだけではなくて、ネタ探しの仕方や、取材依頼書の書き方も教えているんです。

さとゆみ:
へえ〜! たしかに、取材依頼書はライターさんによって違いが出やすいかも。他にも原稿が公開されたあとにSNSで拡散するなど、書く前と後って意外と大事ですよね。

——「取材依頼書の書き方」は何を教えるんですか?

宮脇:
依頼書の型も教えますが、大事なのは、相手が誰かを想像して書くことです。

たとえば人気ラーメン店の店主に取材を依頼するとしたら、どう書くか。忙しい店主がなかなか時間を取れないことを想像して「取材時間にランチタイムあとの30分、何とかいただけないでしょうか」なんて内容が書いてあったら合格 。相手の事情まで考えが及ぶ人は、実はほとんどいないんです。だから取材アポがちゃんととれるライターさんって、優秀だと思いますよ。


ネガティブ投稿、ちょっと待った。SNSとの付き合い方

——ちなみに宮脇さんが編集者として、仕事をお願いしたくなるライターさんってどんな人ですか?

宮脇:
怒りっぽくない人(笑)。あと、これは言い方が難しいんだけど、TwitterなどSNSに書くことをちゃんと選んでいるといいなと思います。「不満を書いてはいけない」というわけではなくて、仕事相手が見ることも考えた上での発言ならいいと思うんですけど。

さとゆみ:
今回の書籍を書くために何人か編集者さんに取材をしたんですが、半分以上の方が「SNSで、仕事でのマイナスな話を書いてしまうライターさんとは仕事を躊躇する」と話されていました。夜中のネガティブツイートとか、注意しなければいけないですね。

宮脇:
もちろん何を書くのも自由ですし、僕も嫌なことをつぶやきたくなる気持ちはわかります。ただ最近、オウンドメディアなどクライアント企業のいる仕事では、僕らが「この人に依頼したい」とライターさんの名前を挙げると、念のため企業側がコンプライアンス的に問題ないか、候補に上がったライターのSNSを調べることもあるんですよ。そのチェックで、企業側からライターにNGが出たケースもあります。

——企業があらかじめライター個人のSNSをチェックするくらい、SNSを通じたトラブルが増えているんですね。

宮脇:
そうなんです。一方で、名前を出して書いているライターのSNSに、記事の批判が直接行ってしまったり、炎上させられてしまったりすることもあって、そちらも問題だと感じています。

さとゆみ:
過去に炎上した事例を見て「クレジットの入った原稿を書くのはこわい」と言い出したライターさんたちが、私の周りにもいたんですよね。中には、記事の中身は誠実なのに、編集者さんに煽るようなタイトルに変えられてしまうケースもある。そんな状態で、記事のタイトルだけを目にした人たちにライターが批判されてしまうのは悲しいですよね。

宮脇:
そうですね。煽り目的のタイトルをつけるような編集者は、ライターの立場を何も考えていない。ちなみにノオトでは、できるだけ編集者の名前もクレジットに入れてもらうようにしています。ともに責任を負う姿勢で、PV目当てだけの荒っぽい記事にしないようにしよう、と。


「中の人」から「品川のプロ」まで——書くことで転がる人生

さとゆみ:
ところでノオトさんは、コロナ禍以前は「#ライター交流会」を全国各地で開催されていましたよね。私も以前、イベントでお話させていただいたことがありました。宮脇さんがコワーキングスペースを運営されたり、積極的に地方まで足を運んでライターさんたちと知り合ったりされているのは、後進のライターを育成したいと思っていらっしゃるからですか?

宮脇:
結果的には育成に関わっているのかもしれないけれど、僕自身は「ライターさんを育てよう」と思っているわけじゃないんですよ。さまざまな場所でライターさんとつながりができると、その地方を取材する企画で依頼しやすいなあって。

さとゆみ:
それは宮脇さんが、全国各地のテーマを扱うお仕事をしていらっしゃるから?

宮脇:
逆かもしれない。地方のライターさんと交流会で知り合って、得意なテーマなども聞いているから、あえて自分から地方ネタの企画を媒体や企業に提案できる機会が増えるんです。企画が通れば、誰に執筆を依頼するかまで事前に考えているので、すぐに取材が始められる。

さとゆみ:
なるほど! 地方のライター交流会だからよく出る話ってありますか? 東京在住のライターと状況が違うところはあるのかな。

宮脇:
「地方では、PRのためにプロのライターに依頼をして対価を払う、という考えがない」と言っていた方がいました。広告の制作に費用を捻出するのは当たり前でも、「企業サイトの記事くらいなら、ちょちょっと書いてよ」みたいな(笑)。一方、東京では年々、企業側がライターに直接依頼して、企業サイトやSNSに載せる記事や言葉を任せるケースは増えていますね。

さとゆみ:
私も最近、企業の方から直接お声をかけていただくことが増えました。取材記事を書いたご縁で、企業の代表や広報の視点での記事も書いてほしい、とか。いわゆる「中の人」としてのライターの仕事は、これからどんどん増えていくんじゃないでしょうか。

宮脇:
そう思います。企業の経営者や著名人、ひいてはさまざまな人物、エリア、専門ジャンルなどについて、深く知り、切り口を考え、アウトプットする役割。そんなふうに広くライターの仕事を捉えると、面白い広がり方をすることがある。

ノオトではニュースサイト「品川経済新聞」を2007年から運営していますが、そうすると「品川」に関することで、メディア以外の仕事の声がかかったり、ビジネスの相談をされたりすることもあるんですよ。

さとゆみ:
書くことって鉛筆一本から始まる。でも、書くときに身につく編集力や企画力、見立てる力は、そのままビジネスにも活かせるんですよね。書くことから仕事がどんどん広がって、おもしろい人生の転がり方をすることがあるのが、ライターの醍醐味だなあって思います。


「なぜあの人は、仕事が絶えないのか」図々しく観察して


——最近はメディアの原稿料がデフレ傾向にあると聞きます。従来の「ライターの仕事」の枠から飛び出し、仕事を拡張していけるライターがいる一方で、「とにかくたくさん記事を書かないと生きていけない」と単価の低い仕事を受けすぎて疲弊してしまうライターもいますが、どのようにお考えになりますか。

宮脇:
難しい問題ですね。確かに、私と同じ時期にフリーライターになった人たちが、現在、ほとんどこの業界を去っていることは間違いないんです。だから、誰でも生き残れるよ、と簡単には言えない。どうすれば「仕事を受けるだけ」の姿勢にならず、生き残っていけるか……。これはもう、まっとうな編集者や、健康的に働いている同業の人と出会うしかない。

さとゆみ:
自分の5倍の原稿料で書いている人の働き方がイメージできるようになると、仕事の受け方が変わると思うんですよね。そういう人がどんな生活をしていて、どんな仕事をいくらで受けているのか。ライターの友人をつくって「あれ? 私、同じような仕事をしているのに、5分の1の原稿料しかもらってない?」と気づけば、自分を安売りすることはなくなるんじゃないかな。

宮脇:
言い方は悪いけれど、安く買い叩かれてしまっている場合もあるかもしれない。誠実に編集をしている人なら、ライターの苦労はわかっている。1文字何円なんて発注はしないですよ。僕らは、企業のオウンドメディアなどの仕事を受けるとき、ライターさんの原稿料をきちんと出せるように、逆算して見積もりを出しますから。

さとゆみ:
なんていい会社なの! 正しく情報交換できるように、同業者のつながりをつくっておくのはいいなと思います。たとえばここ(※取材が行われた、ノオトが運営する品川区のコワーキングスペース「Contentz」)に来て原稿を書くとかも、すごくいいと思う。自然とつながりが生まれますよね。

宮脇:
ぜひぜひ。月会員制で、土曜日はドロップインもやっています。

もちろん一概に「単価が低い仕事はしちゃだめ」というわけでもない。今が人生のどのタイミングかにもよりますが、たとえば若いうちなら「単価が低くても実績になる仕事を選ぶ」みたいな戦略もありですよね。

さとゆみ:
お金のほかにも「勉強になる」「実績になる」「この編集者さんと仕事がしたい」など、いくつか仕事を受けるときの軸を持っておくといいかもしれない。

宮脇:
うまくいっているライターは、どんなふうに仕事を受けているのか。自分はどのライターに近いかを調べてみるのもいいですね。なんなら、この人のように働きたいと思うライターさんに「話を聞いてもらえませんか」とお願いしてもいいんじゃないでしょうか。ライターという職業は、ちょっと図々しい相手の懐に入っていくくらいのほうが、長く仕事を続けていけるような気がします。

さとゆみ:
ひとりで内に籠って悩むのではなく、先輩や同業者とのつながりを生かしながら、仕事を広げていけるといいですね。世の中には「書くこと」から始まる仕事が、本当にたくさんありますから。



聞き手・構成/塚田智恵美


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