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オオカミの再導入についての所感

ここ数日、オオカミの再導入についての話題が盛り上がっている気がします。(Twitterの仕様が変わってしまい一つの話題を調べると延々関連ツイートが流れ続けるのでいまいちどの程度話題になっているのか客観視しにくいですが)
このことについて結論だけ述べると私は再導入に反対ですがなぜ反対なのかということをまとめていこうと思います。

野犬からオオカミを見る

今はそれほどでもないですが、僕が住んでいる地域やその周囲には野犬が存在し、昔から親やほかの大人から野犬がいかに恐ろしいかということを教えられてきました。彼らは人間を殺せるだけの力を持っています。野犬が問題視されるのはその力が人間に向くが故です。
当然、彼らとて人間を好きで襲っているわけではないでしょう。食料となっているのは餌付けを除けばいわゆる害獣を含めた動物たちであると思います。(地域にもよるとは思いますが野犬が集団で狩りをするという話はよく聞きます)
オオカミを再導入しても住み分けをしていれば大丈夫だという主張も見かけますが、餌となるはずの害獣が山にあふれているにもかかわらず、野犬が人里まで下りてくるという現状があるなかで、どのようにしたら住み分けが成立するのかという疑問があります。
現代では自然の中に立ち入る人が減り、人と自然の間に遭った緩衝地帯のようなものが薄くなっています。この現状を大幅に改善することは今のままでは難しいでしょう(というかそれができるなら獣害もここまで酷くなっていないです)この点が解決できなければ住み分けなど夢のまた夢だと思います。
また、餌付けも懸念されます。もし、上のような緩衝地帯を再び作ったとしても野犬やクマにさえ餌付けを主なっている人がいる現状を見ればひょんなことから人間を襲うオオカミが出かねません。

オオカミと害獣の個体数の関係

そもそも、オオカミを導入したら獣害を防げるという思想が幻想だと思っています。

https://www.kazawa.jp/fieldnote/2017-06-18-06-52-43より引用

上のグラフは鹿の個体数の変動を表したものですが、実は鹿が増え始めた時期は40年ほど前とされており、オオカミは全く関係していません。それまで鹿が少なくなっていたのには森林伐採をはじめとして様々な要因が考えられますが、なんならオオカミが絶滅した時期に鹿は減っています。
イエローストーンではエルクの個体数抑制に効果があったという話もありますが、日本で効果があるかは不明です。もし、導入するとしても慎重かつ綿密な実験の後でなければならないと思います。
それよりも、耕作放棄地を含め緩衝地帯となってきた中山間地域、農村部の管理を行い、害獣の増加の要因となったと考えられる部分を排除するのが先ではないでしょうか。

日本人はオオカミがいない世界に慣れすぎた

正直、僕自身の思想としてはどこかにニホンオオカミやエゾオオカミが生き残っていて、今後増えるといいななんてことを昔から思っています。一方で、現実は厳しいのではないかと思います。
この厳しいというのは希望が持てないというだけでなく、オオカミがいる世界にもはや対応できないのではないかという意味も含んでいます。
あの広大な敷地を持つイエローストーンでもオオカミによる家畜の被害は発生しています。現在の日本の中山間地域の管理にオオカミを活用しようとした場合、ほぼ確実に獣害が発生するのではないでしょうか。獣害を防ぐための様々な対策をただでさえ困窮している畜産家、酪農家に強いるのでしょうか。例え補助金などによるサポートがあってもなかなか厳しいものがあるように思います。
もし、牧場内への侵入を許し家畜の味を覚えてしまった場合は悲惨です。家畜は食い荒らされますし、病気を持ち込まれる恐れもあります。家畜の味を覚えたオオカミを駆除しようにも猟師も不足しています。現実的に対応できるのでしょうか。
また、日本は狂犬病清浄国とされていますがそれはあくまでも人間視点での話です。どこかに狂犬病が残っていたなんてことは十分あり得るわけで、オオカミにそれが感染した場合、あるいは外部から持ち込まれてしまった場合には清浄国の地位を失う可能性があります。
せっかく狂犬病清浄国となっている日本でオオカミの再導入を検討するうえで絶対に無視できないと思います。

まとめ

オオカミの再導入については個人的には上で挙げたような理由であまり効果も期待できなければ、そもそも現実的に厳しいと考えています。
獣害の抑制だけを見るなら中山間地域の利用を促進し、一昔前の状態に戻したうえでまだ抑制が必要であるとなった場合に初めて選択肢に上がる手段であると思います。
願わくばニホンオオカミやエゾオオカミがどこかに生き残っていますように。

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