今週の里山学舎通信【9/26放送】
国境の電波に乗せてお送りいたします、里山学舎通信。
本日は、先日、長崎県川棚町で実施された「川棚の未来を話そうカフェ~川棚の風景から学ぶこと~」の3回目に里山学者代表石川が出席し、登壇された水ジャーナリスト橋本淳司先生のお話に感銘を受けたそうで、先生の著書を僕も拝読しました。
水ジャーナリスト、橋本淳司先生のおはなし
水に関係する様々な事を危惧しておられる橋本先生。その中で地下水に関しても言及されていて。今までは世界の水の7割は農業用水に使われていたけれど、昨今は工業用水としての利用が急激に増え、その工場周辺の農家さんたちとのトラブルが続出していると。
当然、地下水はその土地のローカルな共有資源であり、地下水と一括りに行ってもその土地土地で地下水の容量というのは異なるので、汲み上げる量、使用量を大きく見誤ると、ある日突然枯渇してしまう。使用した水を戻したとしても、それが汚染されてしまうケースもあり、そうなるともうどうしようもない。水があっても使えない。というようなことを危惧されています。
最近では熊本県の半導体工場の近隣の地下水の水位が下がり。農業用水で使われていた方々が、今までのように使えなくなったというような話も聞いております。さらには、九州新幹線が敷設の際、やはり山を、トンネルを掘ることによって地下水脈が変わって、ずっと流れていた水が確保できなくなり、そこでは農業を今までと同じには行えなくなった。そのようなケースも伺っております。前回にちょっとお話した東彼杵町の工場誘致。お話を伺う中で、まさにこれからどういうことを土地に対してやっていくかということを、真摯に考えていく必要が、今まさに強まっているんだなと実感しました。
僕は東彼杵町にある千綿渓谷、龍頭泉と呼ばれるところの中腹でお店をやっているんですが、この橋本先生に千綿渓谷流域を見てもらい「水」にフォーカスしたサステイナブルツーリズムの企画提案などが今後できたらいいなと思い、今後勉強会ができればと企画しております。
最近は、大村湾再生プロジェクトという大村湾に対してポジティブな活動をしている人たちと繋がり始め、6月には大村湾に流れる河川十数カ所で淡水の調査をやったり。そのようなことを一緒にできる人たちとの繋がり、そういったものも始まっているので、水に対しての思いがいろんなところで高まり、水が流れる先、自分たちがどういう山を背景にした、どんな流域に暮らす人間なのか、ということを感じられる人間が増えるといいなと思いました。
ウォーターポジティブとは
工場誘致の件に少し話を移しますが、ウォーターポジティブっていう言葉があって。ざっくり言うと、企業が地下水を使ったら使った分、環境に返すという取り組みで、5トン使った
ら5トン返す。みたいなことをいろんな企業さんがやっていて。こういうような感覚を持って、工場をつくったり開発するとなれば、もしかすると今までの、工場を使ってそこの上でただ物を作って売る。そういう世界よりはより優しい世界に移行していくんじゃないかなと思いました。なので、東彼杵町工場誘致、まだいまは水田です。その水や雨水を涵養したりできるような設備であるその豊かな土壌が仮になくなって、大規模なアスファルトが敷設され、工場ができるとしても、その土地に降り注いだ雨水が健全に河川に、大村湾に流れ、地面に浸透する。そのような前提を意識した都市開発ができると、今までよりもよりデリカシーの高い、土地や環境との関係性になるのではないかと、県の担当者にお話しさせてもらいました。東彼杵町には水に引っ張られて移住してきたり、観光に訪れたりする人も多いのですが、僕もそのうちの一人で。長崎県内における位置付けとしても、例えば過去の大渇水の時に東彼杵と島原半島は地下水が豊富で取水制限などなく困らなかったという話もあり。このことは、これからの時代にかなり重要な項目になっていきますよね、ともお伝えしました。温暖化が進みつつある現状で、再び水が枯渇するようなことがあったら目も当てられない。例えば、今回の企業誘致で地面の下は繋がっていて、みんなの共有財産だということを無視して、地下水を自分たちだけのものと考えたり。ウォーターポジティブとは真逆な理念の企業さんだったら、自分たちの生活用水も脅かされる事態になってしまう可能性があるのでは、そんなことをお伝えしました。
いのちに直結する水に、わたしたちはどう向き合うか
世界中で、すでに淡水の奪い合いになっている中、日本は水が豊富。そのような環境の中、なかなかそこへ意識が向けられづらくなっている、というのも事実あるかと思います。何しろ水に関しては思ってる以上に命に直結する、暮らしや生活にダイレクトに直結するものなので、センシティブに付き合っていくしかないと思っております。
例えば企業誘致や工場誘致で土地をものすごく高い値段で買い取ってもらえると売りたくなるのは当然だと思いますし、二束三文の使わない田んぼや農地を子孫に残しては負担をかけるから、現金にかえて残してあげた方が、きっとそっちの方がいいんじゃないかと考える方も多いかと思います。しかしながら、東彼杵の場合で言うと、どんな業種の企業になるかは不明な上、ものすごく短期間に企業の募集をして選定を行うと伺いました。募集をしてから約一ヶ月以内の企画書で判断するということは、例えば土地のポテンシャルとかレイアウトとか地域性みたいなものを、そんなものをリサーチする時間を考えると、かなり無理がある感じがします。県の担当者さんの話ですと事業者の選定、企業さんが決まってるわけではないから今後どういうことが起きるか分からないとおっしゃってました。
土の中を想像する、むかしながらの土木造園業
僕は森林ボランティアクラブのフォレストマスターというのをやらせてもらっていて、山の状態、あり方がひどい、そんなところを触ったりすることがあるんです。
土の中の環境を気がけながら、仮に土木工事が行われたら、土中環境というそんなものを気にかけながら開発等々が行われたら、周りに与える環境の負荷が今よりも下がり、未来に対してポジティブに作用するのではないかと思っております。
今アメリカでダムの解体がビッグビジネスになっていて、すごい勢いでダムの解体が始まっております。20年30年、もう川の環境が戻らないと言われていたようなところでもダムを解体し、3年ぐらい経つと結構いい感じに回復しているそうです。
前提を変えて人間が眼差しを向け、ポジティブに環境に対して配慮したら思ってる以上にも速い速度で自然は回復するっていうようなことが今アメリカでは起きております。
今までの土木は、平らにして地面を固めて、水が表面を滑るような開発。でもそのような開発をほんの少し、必要なところは硬く、人がただ歩いたりするような所はあまり固めず、雨水が地面に浸透するような工夫を凝らすような制御ができるようになると良いかと思います。
水と空気が循環するように、土地の健全を保つために、人間が想像しながら次の世界を作っていく。そのようなことを考える中で、土中環境というフレーズがあり。高田宏臣さんという造園業の方で書籍も発表されているんですけれども、この本も県の担当者にご紹介させてもらいました。
先ほど出てきた橋本淳司先生の水の本に関しては、担当の方にもお渡しして読んでくださいとお渡ししたのですが、この高田さんの土中環境という本も素晴らしく、良い書籍なのでぜひ読んでくれとお伝えして、地面の下を想像するという作業と地面の下と上が相似形になっていて、それを理解することによって、空気と水の通り道、空気を水が一緒に移動するみたいなことを想起させてくれる本なのです。
それから矢野さんという方が大地再生というのをやっておられて、その方は山とか、土砂がつぶれたようなところ、その山や斜面の詰まりを山歩きをしながら、スコップで解消することをやったりしておられます。ささやかなこと、移植ゴテ1つでも、できることがあるということをやっていることをお伝えして。僕は矢野さんの映画や書籍を見て、素晴らしい活動だと思い、人力でもやれることがあると。もちろん大きな機械を使ってダイナミックにやることは素晴らしいですけれども、機会がないとできない、ではなくて、どんなにささやかなことでも人間ができることがあると言うことが素晴らしい。高田さん、矢野さんというお2人の存在と、土中環境、空気や水の流れ、そういったことを前提に土地を見立てる方々のことを企業誘致の担当者にお伝えしました。
小学生との「どろんこ教室」8年目の変化
僕は、毎週月曜日に長崎市内の私立学校の小学生たちと、泥んこ教室といって遊ばせたりするのをやってるんですけれども、そこでも去年、スコップとマイナスドライバーでその場で作った竹炭で、まず子供達にスコップで穴を掘ってもらって、穴を掘ったらマイナスドライバーでぐりぐりぐりぐり、穴をさらに深くこじ開けて、そこに竹炭を入れて落ち葉を詰めて、さらにざくざくざくざくさして、さらには拾ってきた枝をさしてもらう。
地面の下に水がしみる、染み込む拠点を作るワークショップ、そんなこともやったりしました。
もともと竹林で孟宗竹がひどく入り込んでいて、遊ぶのが難しいような場所だったんですが、今はそういうことをやりながら8年ほど経ったんですけれども、他の植物が戻ってきて。
竹しかなかったところに、ほかの種類の植物が5~6種類増えてきて。それだけでも、少しでも環境改善が行われたなというのを僕も実感したことがあります。
田んぼや農仕事でその土地の「水」を守ってくれているひとたち
みんなでこうそういう感じで、少しでも山を触っていくと未来が、少しだけでも未来が変わっていくんだなという気配を感じたことがあります。そのような感じ暮らしている僕なので、ここのところこの工場誘致の件が非常に気になるのです。
先日、東彼杵の役場でも、この企業誘致がどのように進んでいくかの説明会があったみたいなんですが、細かい内容等はいまだに発表されてないというのと、あとはその企業さんが実際に手を挙げて何がどうなるのかっていうところまで決まってないというのが現状とのこと。
僕が思うのは、その田んぼにずっと水を張ってくださっていた方々がいて、その土地を守って、それを続けてくださっていた方々がいたおかげで、目に見えない部分の地下水が保持されていて、環境に対してポジティブに作業していたこと。
田んぼに水を入れてくださっている方々へのリスペクトが、今まで以上に深まるといいなと思いました。そういった方々が、むかしからずっと、田んぼに水を張って、種を下ろして、その上になったものを収穫するという、農の営みを続けて下さったおかげで、地下水も守っていたこと。今まで守ってくださってありがとうございましたということが、正直、今回の件で僕が思ったことです。
畑や田んぼ、森林などを守っている方々への社会からのリスペクト、感謝の眼差しが今後さらに深まり、みんなが自分たちの命を支える背景の山や、その間の里山、それらを全てつなぐ川。そういったところにまなざしが向き、社会全体に感謝が深まることを願います。