見出し画像

誇るべき息子の存在

今年26歳になる息子がいます。
こないだまで自分が17歳だったのに不思議でなりません。息子はダウン症候群という症状(病気とは書きません)を持って生まれてきました。おかげで彼が生まれてきたときのことはものすごくよく覚えています。

その朝は妻の誕生日で「同じ誕生日になるんじゃないか」と大きなおなかをした妻は言っていました。午前中から病院に向かうと「もう生まれますね」なんて言われ、妻はそのまま分娩室(分娩準備室?)に向かいました。こんなとき男は何もできないなあなんて思いながら、痛がる妻の腰をさすったりしていました。数時間経って看護師さんから「もうちょっとかかるようなので一回家に帰ってください」と言われました。何するでもなくそこにいただけの僕が邪魔だったのか、申し訳ないと思ったのか。

俺、お父さんになるんだ!なんてことは全然実感できず、一旦帰宅したものの何もするわけでもない。ただただ手持無沙汰に時は流れ、電話が来るのを待っていた気がします。

息子が生まれたのは翌日の午前2時過ぎ。妻の誕生日の翌日でした。妻は自分の誕生日、一日中ウンウンうなっていたということになりました。そんなに長く苦しんだのに、挙句の果てには帝王切開。何はともあれ無事に息子が生まれてきた。分娩室から出てきた息子は保育器の中に入れられていましたので触ることもできませんでしたが、初めて見た我が子を見て思ったのは「うちの親父そっくりだな」ということ。看護師さんは「お父さんによく似ていますよ」なんて言われた。保育器の中の息子は足をバタバタとしながら見えていないはずの瞳で僕を見ていたような気がします。

翌日。
お医者さんから呼ばれ、小さな小部屋に案内された。
「お子さんはダウン症かもしれません」
「ダウン症?」
「検査をしてみないと分かりませんが、ダウン症児の特徴が見受けられます」
その後、ダウン症児の特徴とやらを先生は色々話し始めて、その特徴が僕の子供に当てはまるように思うと。僕はそのひとつひとつについて全否定をし続けていました。
「それって普通の子にはない特徴なんですか?」
「そんな風には見えない」
とにかく全否定。それでも先生はまるでムキになったかのように説明を続けているのが妙に腹立たしかった。

・・・と、こういう感じで息子を迎えたわけです。
全然幸せじゃない。という感じでのスタートでした。

息子が18歳になったとき、このときの実体験をベースにした舞台「ありふれた愛、ありふれた世界」を作った。息子はこの話が自分の物語だと分かったんでしょうね。自分の物語を役者たちが芝居をしていることが嬉しかったみたいです。本番を何回も見に来て「面白いね」を連発していました。初日のお客様のアンケートには「何も分からないくせにこんな物語を書くことが不愉快」などと書かれたこともあって、急遽この物語が作家・佐藤雀の実体験に基づくフィクションであることを前説で言ってもらうことにした。するとお客さんの反応はまったく別物になった。連日SNSは感動の嵐。正直大絶賛されました。ある回ではカーテンコールのときに観劇していた息子が舞台に上げられて、何故か息子が大拍手に包まれた。サービス精神旺盛な息子は主役を抱きしめた。主役自身が涙腺崩壊。お客様も涙腺崩壊。

何が言いたいかというと
障害者っていうのは「社会」が作るものだという事実。
うちの子は健全で愛情と正義感に溢れ、困っている人を助けずにはいられないような大人に育った。いわゆる頭がいいわけでは全然ないけど、日々思うのは「息子には敵わないところがたくさんある」ということ。そういう息子に対して「障害者」のレッテルを貼りたがるのが「社会」であり、息子を育ててこなかったら分からなかったであろう僕自身である。

実際に出会ってみなければ分からなかったことは沢山ある。思い込みの正義、脳内で分かった気になって誰かを責める気持ち。SNSで綴られていくマウントだらけの社会。実際、情報は溢れていて分かった気になってしまうのはよくわかる。それは仕方ないと思う。ではその分かった気になっている人は、盲目の人を見かけたら手助けをしているか?電車で老人が立っていたら声をかけて席を譲ろうとするか?

きっとあなたも将来老人になりますよ。体感にすると半年くらいまでには。身体が思うように動かなくなったり、目がかすんだり、耳が遠くなったりする。そのとき、この国の優しさや心配りの文化はどうなっているんでしょうね・・・。

知らない人に声をかけることは勇気がいる。良かれと思って席を譲ろうとしたら断られるかもしれない。だから席は譲らない、ではないと思いますが、いかがなもんでしょうか。少なくともうちの息子はそういうことが平気でできる。それだけでこの息子は誇るべき息子で、少なくとも僕にそういうことが当たり前になる社会を目指したいと思わせてくれる大切な存在です。

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは劇団活動費などに使わせていただきます!