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ラオス料理の革命前夜

小松さんという人がいる。淡水魚の研究でラオスに留学するうちにラオス料理に魅せられ、現在は小松亭タマサートという屋号で京都滋賀を中心に着々とラオス料理ファンを増やしていっている。心から尊敬できる料理人だ。
今回はラオス料理のプロ、小松さんのポップアップのメニューの長い解説と思い出話を書いていこうと思う。


小松さんにとって、四条大宮でのこのポップアップは大きな意味があったと思う。
なぜなら小松さんは1月にこれまで八年間勤めていた会社を退職したからだ。
勤めていた水産会社を辞めて、ラオス料理一本で身を立てていく決意を固めたのだ。会社勤めの安定を捨てるというのは勇気のいる決断だと思う。しかし、小松さんのラオス料理の美味しさに何度も感動している僕はその決断を英断だと思ったし、応援したかった。玄人はだしと玄人の間の谷を飛び越える勇気。
今回の田歌舎でのポップアップの背景はそんな感じだ。


タムマークフン


青パパイヤのサラダ。タイではソムタムと呼ばれる。ラオスの伝統料理で、大体どの食堂でもメニューにある。
この料理はオーダーが入ってから即興で生唐辛子、ニンニク、ライム、パデークなどで味を決め、パパイヤとすり鉢でざっとまぜて完成する。店や地域によって味付けが微妙に異なる面白い料理だ。特筆すべきはその辛さ。現地では容赦のない量の生唐辛子が使われるので、汗が止めどなく噴き出るほどだ。
ただ辛いだけでなく、発酵の旨味やライムの酸味が加えられているのでソースとして唸るほど完成度が高い。ラオス料理の凄みが端的に感じられると思う。


ラープグワン


鹿肉のラープ。
ラープを無理やり日本語に訳すなら、ハーブ和え、などになるだろうか。
鹿肉に限らず、牛豚鳥魚、大抵のタンパク質はラープになる。
大量のハーブがひき肉に混ぜ込まれて、それをカオニャオ(餅米)と食べるのがたまらない。小松さんのラープはハーブの荒々しさとジビエのエネルギーが調和して、とても説得力がある。フルサイズで提供するとき、小松さんはラオス基準のポーションで盛ってしまうのでハーフサイズがおすすめ。


琵琶湖の魚のモックパー


モックが蒸した料理、パーが魚だ。バナナの葉に淡水魚とハーブを包んで蒸し上げたものだ。ハーブはディルが主体で、ディルのいい意味での香りの尖りが淡水魚とよく合う。今回はウグイとライギョだった。どちらも美味しかったが、ウグイの苦味とゴリゴリした感じがよりラオスっぽかったと思う。ビジュアルが市場に売られているそれと全く同じで、ルアンナムターに行きたくなる。


サイウア


焼きソーセージ。これが本当に美味しい。破壊力が凄まじい。
今回は鹿の肉に猪の脂を混ぜて腸詰めにしたそう。中には餅米が入っていて、餅こめの風味がジビエの臭みを消しつつ丸く収めている。生唐辛子もいい役をしている。シャルキュトリー界隈に殴り込みをかけても十分勝てるのではないのかと思うぐらい美味しい。

https://twitter.com/BiwakoLaos/status/1552608682776870912?t=IOcqro9HpCAQD-F6HpNhjA&s=19

カオニャオ


蒸した餅米。ラオス料理の背骨、心臓、大動脈だ。カオニャオなしでは始まらない。カオニャオのないラオス料理なんて、琵琶湖のない滋賀県のようなものだ。
日本人のDNAに赤飯、おこわ、お餅の美味しさと『ハレの日のイメージ』は深く刻まれている。カオニャオを食べたら懐かしさと嬉しい気持ちが同時に襲ってくるに違いない。
小松さんは餅米の浸水加減と蒸し時間にかなりシリアスに拘っており、それがラオス流らしい。


オカドゥークグワン


鹿骨の煮込み。オが煮込み、カドゥークが骨、グワンが鹿だ。
美山でとれた新鮮な鹿の骨をぶつ切りにして3時間弱煮込んでとろとろにしていく。ぬるりと骨髄が抜けるぐらいに。煮込む途中にバイキフー(こぶみかんの葉)とレモングラスを入れ、スープに香りを足していく。
そこにもち米粉を加えてとろみをつけて味を整えてる。この料理は本当にラオスらしい。北ラオスの味がする。ラオス料理らしくていいよなーーーー!と小松さんと頷き合った。

フー


ラオス版フォー。シンプルにひねどりを煮込んだスープでツルツルのめんを啜る。ベトナムのフォーよりもミニマルに構成されていて、締めにぴったりの一杯だった。


賄い(カオニャオ、オ、モックパー)

まとめ


こう書くと全品美味しかったな、、、、としみじみ振り返ってしまう。
自分が美味しいと確信を持てるものをお客さんに出して、お客さんにもその美味しさが伝わって喜んでもらうというのは、純度の高い快感だ。
かっこいいバンドや、面白い漫才師がまだ売れていない、しかし売れる直前みたいな雰囲気が小松さんのラオス料理にはあると思う。革命前夜だ。
「早くバレろ!!!この美味しさが!!」と念じながら16、17日も出店を手伝おうと思う。ああ、賄いが最高に楽しみだな。


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