ボーリングの玉を捨てたい
パート先の同僚たちとゴミ回収の話になった。
それぞれ住んでいる地域が違うから、少しずつルールが違って、そのことで昼休みのトークが盛り上がった。
一人の同僚が言った。
「うち、ボーリングの玉があるんだけど捨てられなくて困ってる」
家にボーリングの玉がある、とは?
「兄貴がボーリングに凝ってた時期があって、何点以上出したらもらえる記念のボールをもらってきちゃった」
お兄さんはもう家を出ていて、ボーリングの玉だけ置いていかれたと言う。実家というのはえてしてよくわからないものが置いていかれるのである。
確かに私の住んでいる市のごみカレンダーにも“ボーリングの玉”という記述はなかったように思う。そもそもボーリングの玉の素材って? 何を使ってどう作ったらあんなに重くなるの?
今その玉がどこにあるかと言えば、同僚いわく「狭い庭に転がしてある」。
黒光りする(色は黒である)めちゃんこ重い玉が、古い戸建て(たぶん)の狭い庭に転がっている。昔ながらの大砲の玉がタイムスリップして紛れ込んだようだ。
ドアストッパーとして使えば? & 漬物石として使えば? という私の提案は両者ともに却下された。
「市役所に電話して聞いたけど、ボーリングの玉は回収してくれないって。困ってるのよね~」
昼休みの時間は終わり、話はそれまでとなった。
気になった私は家に帰ってから調べた。どうやらボーリング場に持っていけば引き取ってくれるらしい。
後日そのことを同僚に伝えると「車がないからボーリング場まで持っていけない」と言う。タクシーを使ってまで持っていきたくはないらしい。
徒歩で持っていくとすれば、
①あの3つの穴に指を突っ込んでぶらぶら運ぶ。
②玉本来の形状を生かして、ゴロゴロ転がしながら運ぶ。
③頑丈なリュックに詰めて背負って運ぶ。キャスターバッグに詰めて運ぶ。
「えーどれもやだあ」
あー、どれもやだかあ。
つまり彼女はその黒いボーリングの玉を家から排除するためにお金も労力も使いたくないのである。そこまでボーリングの玉の排除に情熱を傾けることはできないのだ。
よってボーリングの玉はまだ彼女の家の庭にある。
そしてきっとこれからもボーリングの玉は彼女の庭にあり続けるのだろう、
永遠に━━
ではまた明日お会いしましょう。
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