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呼び捨てのときめき

大人になってから知り合った人に名前を呼ばれるときは名字で「○○さん」がほとんどだろう。

青春時代の名字の呼び捨てコミュニケーションに今でも憧れがある。大人になってからもぎりぎり親族からは下の名前で呼び捨てされることはあるけれど、名字で呼び捨てられることはまずない。親族で名字の呼び捨てをしあったら混乱する。「佐藤ー!」「佐藤ー!」「どの佐藤よ?!」

名字の呼び捨て。じつは私、未経験である。
男子から名字で呼ばれる女子には傾向があって、運動部で声がでかくて男子ともけんかしちゃう生意気ざかりタイプが名字で呼ばれやすい。背はクラスで1番か2番目くらいに低いけれど学年一走るのが早くて、声がハスキーでほっぺにそばかすがあって正義感がある沢田さんは「沢田ーー!」とよく呼ばれていた。可愛いかったり、おとなしいと「ちゃん」が付いたり「さん」が付いてしまう。私は名字のさん付けであった。平民中の平民である。

中には特殊例としてあだ名呼びもある。

後藤さんという女子は「ごとぱん」。そこから派生して伊藤さんは「いとぱん」。なぜか小学生当時名前にぱんを付ける呼び方が流行した。由来はよくわからない。そんなものだ。

佳代子ちゃんという名の女子は「かよべん」と呼ばれていた。これも由来はわからない。べんは便の意味ではなく、部首のにんべんとかのべんだったと思う。それとも大阪弁かな。いや弁当だったかな。もう今となってはその真相を知るにはナイトスクープに頼むしかない。

それにしても男子が命名する女子のあだ名はじつに可愛くない。

ちなみに竹内という頭のいい男子はエジソンをもじって「たけそん」と呼ばれていた。工夫がある。ほかの頭いい人にも応用できる。将棋の藤井君なら「ふじそん」、小島よしおなら「こじそん」だ。

こうしてみるとすべて語尾に「ん」が付いている。ひふみんみたい。あ、それで今思い出した。私の名前「千香」というんですけど「ちかん」てあだ名つけられたことありました。ぜんぜん嬉しくないぞ。

いまどきは小中学校でも男女関わらずさんを付けて呼ぶのがトレンド(?)だが、先生の見ていないところでは呼び捨て文化は脈々と息づいているだろう。現に運動部に所属していたうちの娘たちも名字呼び捨てをする仲の友達や先生がいる。どこか乱暴で、だからこそ親しみの象徴のようで気恥ずかしくも甘酸っぱい。たいがいのことは何歳になっても挑戦できるけれど名字呼び捨てチャレンジはもう無理だ。ああ呼び捨てられたい。夫婦で呼び捨て合うか。だめだ、同じ名字だ。

そういえばこの前やってたドラマ『ドラゴン桜2』ではバンバン名字が呼び捨てされていた。こんなに捨てちゃってSDGs的には問題ないのかと心配になるほど捨てている。東大を目指す仲間同士でも呼び捨て。阿部寛演じる桜木先生は生徒のことはもちろん元生徒である長澤まさみのことも呼び捨て。それか、もっとレアな「あんた」呼び。きっと桜木先生ならこんな年齢になってしまった私のこともスカッと呼び捨てにしてくれるだろう。名字呼び捨てられチャレンジに挑戦するためには桜木先生的な人を現実社会で探して入塾すればいいのか?

失われた青春をとりもどすのはなかなか難しい。

おしまいです。

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