ミクロの集合体とダメ出し辞典を作る試み

演劇の世界へ入っておよそ12年程たちました。俳優として舞台に立ったり、制作として助成金の申請ををしたりしていますが、正直なところ演劇のことや演技のことはあまり"わかりません"。

勿論、自分の(自分たちの)観点は持っていますが、それが"一般的に通用するか"わかりません。当然、通用するつもりでやっていますし、自分たちの周囲をみれば通用していると言えるのですが、"一般的"にはどうなのかさっぱりです。

何故なら、演劇の世界は個々独立したミクロな主体の集まりでしかないからです。スポーツのようにリーグがあって、シーズンがあって確実に翌年もあるという大きな枠組みのある世界ではないのです。

劇場のような中間団体もありますが、創作の主体は、あくまで独立したミクロの集合体なのです。その中で、何らかの理由で継続的に注目されている集団や個人が目立っていく……そういう構造です。

この構造は新規参入が簡単であるという利点もあるのですが、一方で個人が演劇界に焦点を当てたときどうみれば良いのかという難しい点もあります。

さて、今回はその中でも面白いと思われることをあげていきます。

それは、"ダメ出し辞典"です。

"ダメ出し"という言葉。今では一般的に使われていますが、本来は演劇などの業界用語です。日本の創作現場では毎日のようにこのダメ出しが飛び交い、僕も随分と泣きました。だから、僕はこの言葉が嫌いです(笑)。一方でこのダメ出しのおかげで、自分が役者をやっていられるという側面もありますから、個人にとっても良し悪しと言えるでしょう。

この"ダメ出し"には"悪いところを指摘する"という意味もあれば、"創造性を呼び起こす"、"客観性を与える"、"モチベーションを刺激する(ネガティブな反応も出る)"という効果もあり、つまるところ、個人の(集団の)芸術観が色濃く現れるものです。

ですが、先程も言ったようにミクロな主体それぞれが独立して創作しているわけですから、そこで使われる"ダメ出し"も個々人によってばらつきがあり、同じ言葉でも違うことを指摘していたり、違う言葉でも同じものを求めていたりします。シチュエーションによっても変わりますし、文脈を共有しなければ意味不明なものも多々あります。僕自身、ダメ出しをどう理解すれば良いか悩むことがありました。『テンションをあげて』と言われても、そもそも"テンション"って何? という話。

似た悩みを抱えている人はいるのではないでしょうか? こういった言葉はやはり現場でも変わります。

そう考えて思い付いたのが、"ダメ出し辞典"です。様々な現場の様々なダメ出しを隠された文脈と共に記載していく……仮に完成されたとしたら、社会学、演劇学的にもかなり価値が高くなるでしょう(歴史に名前が残るかも?)。

勿論、僕は作りませんし、作れません。誰かこのアイディアをパクって欲しいと思いながら、僕はこれを書いています。今回はこれでおしまい。

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