恋するガムてーぷ(サブストーリー)
“今日こそ伝えよう”
いつも、そう思いながら、彼女を想っている。
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彼女は知り合いの知り合い。
ある飲み会で出会い、そのまま一緒に帰った。不健全な出会い。
飲み会終わりの朝。彼女の隣で目を覚ます。先に目を覚ましてしまった。順番を間違えてしまった後悔が襲ってくる。
一線を軽く越えてしまうほど、僕らの線はゆるい。その事実から目を背けるように寝たふりをしていた.
「おはよう」
「あ、うん」
僕は”おはよう”とか”ありがとう”とか当たり前のことを人に伝えることができない。
人と向き合うことが気恥ずかしくて、”うん”とか”どうも”という言葉で済ませてしまう。
生ぬるい空気が流れる。
不健全な朝。僕たちの関係など無視するように、強い日差しが部屋に差し込んでくる。
あの朝から僕たちの心は貼り合わさった。
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それから、彼女と頻繁に会うようになった。あの朝のような気まずさはぬぐいきれていなかったけれど、彼女に会いたかった。
二人で初めて見た桜は綺麗だった。白い肌と幅の広い二重。
桜は彼女に似合いすぎる。彼女に見惚れていると、想いを伝え損ねてしまった。
二人で浴衣を着た花火大会。夏は彼女に似合いすぎる。僕だけに見せる非日常。優越に浸る。
今日こそは伝えよう。
彼女の手を握る。緊張と不安で全身の汗が吹き出していくのがわかる。何もなかったように夜空を眺める。彼女は少し驚いたような表情を浮かべているのだろうか。
”好きです…”
同時に花火が打ち上がった。花火の音に、僕の音がかき消される。真っ暗な夜空に堂々と咲いた、赤と青のコントラスト。
僕の想いと勇気は夜空に咲いた花びらと共に、真っ暗闇に散っていった。
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「離さない」
そう言って、僕は彼女を抱きしめる。
彼女も
「離れたくない」
そう言って、お互いを求めあっている。
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木枯らしに吹かれた散歩道。赤や黄色のコントラスト。落ち葉は彼女に似合いすぎる。
想いを伝えたら彼女はどんな反応をするのだろうか。そこまでは求めていないのだろうか。本当のことを伝えたらこの関係は終わってしまうのだろうか。居心地の良さに甘えてしまう。
冬は二人でこたつに包まった。外は真っ白な世界が広がっている。きっと彼女は雪も似合うのだろう。僕はずるい。その頃には現実と向き合うことから諦めていた。
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僕は彼女に隠し事をしている。不誠実なことはわかっている。伝えなくてはならないこともわかっている。本当はあの朝、気まずくて眩しい朝に伝えなければならなかったんだ。
僕には貼り付いて離れてくれない人がいる。
別れてくれない女性がいたんだ。
別れようと切り出すといつもあの人はヒステリックを引き起こす。別れたら死ぬとかいうんだ。あの人なら死にかねない。それくらい拗らせている。ましてや、僕が好きな人がいるなんて伝えようものなら僕は人殺しになってしまうかもしれない。
恐怖と後悔が混じり合った日々。そんな時期に彼女と出会った。
透き通るような白い肌に、幅の広い二重。ワンサイズ大きいpopのパーカー。控えめな言葉遣い。屈託のない笑顔。
”僕の心が響いた気がした”
「もう少し二人で飲みませんか、こっそり」
飲み会終わり、5分前に交換したLINEに連絡を入れる。
スマホが彼女からの返信を知らせる。あんなに長い3分間、今までにあっただろうか。
「こっそりなら」
僕たちの戻れない日々が始まった。
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”今日こそ伝えよう”
そう思いながら彼女を抱きしめる。今日は彼女の表情が冴えない。彼女も何か思うところがあるのかもしれない。不自然すぎる関係。当たり前だ。
意を決して想いを伝えようとした、その時
「スキ」
一番聞きたくて、一番聞きたくなかった言葉が飛んできた。突き刺さる。
僕は二人の女性と時間を共にしている。そんな人間が彼女の想いに応えていいわけがなかった。
”好きだよ”
言いたいに決まっている。でも、彼女の気持ちに応えてしまったら彼女に真実を伝えなくてはならない。彼女を傷つけなければならない。僕と彼女では「スキ」の意味が違いすぎる。
「...うん」
世界で一番不誠実な言葉。何もかも誤魔化すために生まれた二文字だった。
彼女が唐突にベッドから立ち上がる。
「私、あなたの玩具じゃないから。都合の良い女じゃないから...!」(そんなつもりじゃなかった)
気づいてるくせに。気づいてたくせに...!(意気地なしでごめんね)
ずるいよ。どうせ私に対して何の思い入れもないんでしょ。都合よく遊べればいんでしょ...!(大好きだよ)
付き合ってもないくせにお互いの位置情報確認しあったりしてさ...!それで落ち込んで見たり。バカみたい。(バカなのは僕の方だ)
メンヘラとか思われてもいいから!メンヘラが悪いとか、メンヘラにさせる男が悪いとか、そんなのどーだっていいから!(無茶苦茶だ)
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全て吐き出し切ったかと思うと、彼女は部屋を出て行った。彼女がいなくなった部屋には後悔と罪悪感しか残っていなかった。
もっと向き合わなければならなかった。彼女の想いに向き合わなければならなかった。いつだって伝えられたじゃないか。見とれてる場合じゃなかった。花火のせいにしてはいけなかった。甘えている場合じゃなかった。諦めてはいけなかった。不健全でもいい。今は彼女を失いたくない。二本の傘を持って家を飛び出す。
ずぶ濡れの彼女を追いかける。
「待って!待ってってば...!◯◯!」
あと数十メートル先に彼女がいる。あと少し、あと少しというところで手が届かない。僕は足が遅い。
雨脚が強まる。
走り続け、やっと、二人の想いが貼り合わさる。彼女を引き寄せ、抱きしめる。
「ごめん」
どこまでいっても僕は想いを伝えるのが苦手だ。
彼女の甘い匂いと雨の匂いが混じり合う。
淡くて切ない、幸せな匂い。
雨は彼女に似合いすぎる。
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