「本と音楽の映画祭」の通知表〜未来の上映者のための収支報告と所感〜
日本未公開でソフト化もされておらず、いままで容易に見ることができなかった作品がインターネット環境さえあれば日本全国どこでも見ることが可能な配信である期間ご覧いただける。そんなナイスなイベントがあったとしよう。
さてでは、みなさんはこのイベント配信、どのくらい見られるとお思いでしょうか?
例えば(東京の)映画館で上映した場合、100人に来てもらえる映画『100人』という映画を配信したとする。
すると日本には一都一道二府四十三県、つまり47都道府県あるのだから、単純計算で「100×47=4700人」くらいは見てもらえるんじゃないか、とひとまずあたりをつけることだろう。
東京が一番映画館に人が入るとはいえ、それは「映画館が多い」とか「アクセスがしやすい」、「色々な映画が上映している」などの要因が大きいはず。配信ならばそういった地理的な差はあまり考えないくていい、とも考えるかもしれない。
それに各都道府県に100人くらいは見たいという人がいてもよさそうだ。人口が一番少ない鳥取県でさえ55万人強いるのだから、鳥取県民のうち0.018%の人が見てくれれば100人に到達するしね。と、人口統計に詳しい者などは頭を働かせた。
まあでも少なく見積もっていたほうがダメージは少ないと考え、4700人の半分つまり「2350人」くらいが良いところだな、と思った聡明なあなた! 絶望的にセンスがありません。
ちなみに私もほとほとセンスのない人間です。もし2350人が見てくれれば僕は一生遊んで暮らそうと思います。でも遊んで暮らせません。なぜなら2350人も見られないからです。
そのため極力無駄な体力を使わないように基本的に家でじっとして暮らしてます。まずはこの現実を受け入れることが肝心です。
それでは実際に【日本未公開でソフト化もされておらず、いままで容易に見ることができなかった作品がインターネット環境さえあれば日本全国どこでも見ることが可能な配信である期間ご覧いただける。そんなナイスなイベント】であった「本と音楽の映画祭」の収支報告を見て、失敗のない未来の上映者になるべく一緒に学んでいきましょう。
収支報告
ズバリ、平均90人(ほど)。
これが「本と音楽の映画祭」の視聴者数だ。大体、映画『100人』を劇場公開したときの入場者数と同じである。そんな映画ないけれど。
ちなみに、本イベントがどれほど知られていたのかの目安として参考までに告知ツイートを見てると、最初の告知ツイートがRT数が93、いいね数が173件となっている。
配信本数は全3作品、そのうち2本は完全に未公開未ソフト作品で、1本はソフトは出ているが廃盤のため円盤レンタルのみで視聴可能という布陣。視聴期間は2~4日間であった。
配信料金は平均1本1,600円(20%割引あり)であったため、ざっくり計算すると1600×90=144,000円が1本あたりの売り上げである。
今回のイベントにはvimeoを使用した。プラットフォームであるvimeoには終始の10%を手数料として支払うので、90%の129,600円が配信元に入る金額だ(書くのが面倒なので約13万円ということにしておこう)。
1本あたり13万円なので、3本でおよそ42万円を売り上げたという計算になる。
映画1本の配信料
さて、洋画を配信するためには、海外の権利元から日本で配信してよい権利である「配信権」を購入しなければならない。この「配信権」の金額は作品によって一桁も二桁も違ってくるので一概には言えないが、今回のイベントのように数日間の配信であり、知名度(の低さ?)であるならば、5〜10万ほど出せば十分に交渉はできる(ちなみに劇場などで上映してよい権利「上映権」も同じくらいの金額だと思っていただいて大丈夫だ)。場合によってはもっと安く権利を購入することも大いにありえる。
もしあなたが今この記事を読んで「5万円で権利を購入し、約13万円売り上げたから、8万円儲かった、やった〜」と思ったならば、その純粋な気持ちをずっと忘れずにいてほしい。
なぜなら儲けることは決して悪いことじゃないからだ。むしろ上映者は儲けなくてはいけないとまで思っている。なぜなら儲けなければ、【儲からなくても上映を続けられるようなお金に余裕がある者】か【映画のためならお金など関係ない精神(それはそれでとても素晴らしいが)の持ち主】という【】のごとく閉じられた者たちだけの行いになってしまうから。
ただし「5万円で権利を購入し、約13万円売り上げたから、8万円儲かった、やった〜」ということにはならない。残念だ。
絶妙な金額
というのも、おそらく字幕をつけるために字幕翻訳者への支払いがあるだろう。
そして告知用のビジュアルを作ったとしたらそのデザイナーにもデザイン料を支払う必要がある。
はたまたトークイベントを開催するとしたらゲスト登壇料だったり、場所代や機材などもかかるかもしれない。
そもそもvimeoを使った時点で6万円(Vimeo Business Unlimitedプランの場合)ほどかかっている。
こうしてみると、約13万円の売り上げはかなり絶妙な金額だ。
なんというか「もしかしたら黒字かも……ただきちんと計算すると赤字かもしれないからきちんと計算せず黒字ってことにしておくか……」くらいの絶妙さである。
もちろん、一般的な映画会社さんが字幕者やデザイナーさんに支払うオーソドックスな金額を支払っていたら完全に赤字なはずだ。
なので、こちらが大幅に赤字にならない程度の字幕料やデザイン料で了承をもらったり、もし大幅に映画の売り上げが伸びた場合には追加料金を歩合で支払う約束をしたりするのが実情だ。
無料でお願いすることはないけれども5万も10万も払うことはできない、という金額。
ちなみに、字幕作成から字幕つけ、さらにはビジュアル制作もすべて一人で行ってしまうスーパーな人もいる。そうなるとこのあたりの経費は大幅に削減できる。その分、自分が働くわけだが。
所感
結局、収支の話に絞った場合、配信イベントは「儲かりそうで、儲からない」というのが率直な感想である。
しかし上映活動初学者にとっては、最初のステップとしてはかなり良いフォーマットなのではないか、とも感じる。なんだか先輩上映活動者っぽい感じで偉そうだが、配信というフォーマットは大きく赤字になるというリスクがかなり低いように思えるのだ。
配信ではなくどこかの劇場で上映するといった場合、そこには箱代がかかってくる。それなりの上映設備が整っていて、客席数がある場合、都内ならば安くても10万円程度はかかってくるだろう。
まさにユーロライブは「土日祝日の夜間17:30-22:30」を10万円で借りることができる。
10万は厳しいという人は、市民ホールのような公共施設がリーズナブルなのでおすすめだ。
例えば座・高円寺2はフルキャパ298席もありながら「土日祝日の午後帯13:00~17:00」で22,000円という驚きの安さである(ただし抽選だったり申込資格に条件がある)。
ちなみに、いま私の家の近くの施設でいいところがないかなと調べたら、客席全1,712席という、とんでもないバケモノ施設を発見してしまった。
爆裂に人を呼べる自信ありという猛者はぜひチャレンジして欲しい。私も見に行きます。
もちろん馴染みや憧れの映画館さんに「貸し館」を打診する手もあるかもしれないし、ライブハウスで上映活動を行なっている人たちもいる。
プロジェクターやスクリーンをレンタルして、オリジナルの上映会上を作ることも可能だ(めちゃくちゃ大変だし、お金もかかるし、画質音響等のクオリティの確保は大変だが……)。
それぞれがそれぞれのスタイルで、お好みのスポットを見つけてくれればよいと思う……のだが、どう転んでも箱代からは逃れられない。
そうであるならば、この箱代のリスクがかからない配信(プラットフォーム代がかかったり、手数料が取られたりはするが)というのは非常に大きいメリットだ。
また、上映スケジュールも、映画館や上映施設で行う場合と違い、事前に予約しておく必要がないため、自分のペースで余裕を持って準備もできるだろう。
初めてのことはなにかと不意のトラブルに見舞われるし、慣れていても映画のオリジナルロゴがどうとか……↓
画面サイズがどうとか……↓
結局はトラブルに見舞われるので、時間的余裕はあればあるほどよい。
そして、もちろん密にもならない。
以上のことから、金銭的なリスクと時間的なリスクと健康面のリスクという3大リスクをケアできる映画配信イベントは上映初学者にとってうってつけであると言えるだろう。
「見せたい映画がある」という未来の上映者諸君は、まずは配信イベントという形でチャレンジしてみてはいかがだろうか。
これからの配信について少し真面目に考える(次回)
今回は主に収支という観点から「本と音楽の映画祭」を振り返ってみたが、配信というフォーマットは(金になるかは知らないが)まだまだ色々と面白いことができそうだ、という振り返りも次回してみたいと思う。
例えば、配信は劇場上映とは違い、比較的自由に上映スケジュールが立てられるため、配信イベントならではの面白い上映のラインナップやトークなどの関連イベントの組み合わせ方があるかもしれない。
または、ウェブサイトという場所性が希薄な場所と思われがちだが、配信のリンクをほかのHPに埋め込んでもらうことで劇場空間とはまた違ったウェブ空間ならではの場所性を獲得できるかもしれないということなど、なにか今後のヒントになるようなことが書ければと思っている。
↑の「配信イベントを考えるトーク配信」でも最初の1時間くらいはこのような話題を扱っているので、もしよろしければご覧ください。
それではまた次回。
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