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エモ喫茶

僕は地方から出てきた田舎者だ。
出身を聞かれ、福岡ですと答えると決まって「ああ、わりかし都会の方じゃない?」と関東出身の奴らに高評価を頂ける。
しかし皮肉にしか聞こえない。
僕の実家から東京まで約1000km離れていて、歩くと8日半かかる。
だけど君たち生まれながらにして電車で日帰りで行けるじゃないか!!!と、いつも怒りが湧いてしまう。

それはさておき。
僕は関東に来たばかりの頃、
とにかくお金を使いたがらなかった。
大学の飲み会にも参加せず、出かけず、毎日毎日学校と家の往復。
当時のバイト先も家から10分だったので余計に行動範囲が狭かった。

何故なら、金がかかる場所が怖かったから。

例えば原宿。
僕がとても苦手な場所のひとつだ。
なんであんなにギラついているのだろう。
高級そうな時計、派手な配色の服、バカにでかい厚底の靴、ピンクの髪、タピオカ、パンケーキ、猫カフェ、なんの店だかよく分からないイカついビル…

こ、こわい。

とにかくこわいのだ。
そしてそこに行ったとしても何一つ買えない自分の貧乏さに悔しさを覚えた。
しかし僕ももういっぱしの東京もん(今年の頭まで神奈川県民だったけど)だと気合を入れて足を運ぶが、
怒涛の情報量にひっくり返りそうになる。

そしてその次に苦手なのが、喫茶店だった。
たかがコーヒーに600円も700円もしやがって、一体何代なんだよ、と思っていた。
おしゃれなカフェも、純喫茶ももれなく苦手。
なぜなら金がかかるから。

そんなこじらせた金銭感覚を持ったまま就職活動をしていた最中、
たまたま面接と面接の合間に時間が半端に空いたため、ふと目に止まったある喫茶店に入った。

異空間だった。

ヨレヨレのおじいちゃんが、大量のティーカップとサイフォンに囲まれ、経年劣化して渋みを増した建物、もはや何色だったのかわからないくらい日焼けしたドラえもんの置物。
祖父の家より激しく年季が入っていたので、キョロキョロしながら確かに高揚していた。

東京にもこんな田舎くさいところがある。
そうか、純喫茶は都内の田舎だ。
こんなところにコーヒー一杯で何時間もいさせてくれるからのあの値段か。
最高!むしろ安い!ていうかもっとお金が払いたい!

そして僕は喫茶店狂いと自称し、喫茶店のために出かけるという本末転倒な遊び方をし始め、さらにそれをSNSで記録していった。
そのおかげで、普段あまり話したことのない人から
「今度〇〇に行くんだけどここあたりでオススメの喫茶店知らない?」と聞かれるようになった。
とっても嬉しい。

何事も決めてかかってはいけないのだと強く思った。
…でもやっぱり原宿は怖いし、やたらギラギラしたおしゃれなカフェは嫌い。
タピオカもやっぱりカエルの卵だということは変わらない。

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