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空襲の記憶⑦(終)

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  平成18年(2006年)、夏。
  この話を初めて聞いて、安原愛は言葉を失くしているが、やがて
安原愛  「そんな……ひどい……」
安原智史 「だから戦争はおきてはいけないんだよ。」
  ややあって、
安原愛  「それで、よし恵先生とその友だちは助かって、もうひとりの
     お友だちはどうなったんですか?」

  安原智史と内田かず恵の表情が変わる。

  翌昭和52年(1977年)夏、よし恵の病室。

美奈   「……それで、もう一人の友だち──町子さんはどうなったん
     ですか?」
  よし恵、首をゆっくり横に振る。
よし恵  「終戦後、何年かしてから町子ちゃんの妹は結婚して、女の子を
     生みました。その子が生まれたとき、みんなで相談して、死んだ
     町子ちゃんの分まで幸せになるようにと同じ名前を付けたの。」

  よし恵、伊佐治町子を見る。
よし恵  「 *私の* 町子ちゃんのお父様は勇次郎。お母様はウメ。妹は
     小百合。」
町子   「え?」
よし恵  「そうよ、伊佐治町子さん。あなたの おじいさんとおばあさん、
     お母さんよ。私の友だちだった町子ちゃんはあなたの伯母さん
     です。」

  伊佐治町子の体がくずれかかり、とっさに智史が支える。
  小百合が泣き崩れる。

  一年後。神明社の境内。
  よし恵と かず恵が拝殿の前の階段に腰をおろしている。よし恵は杖を
  持っている。

    「内田先生!」

  四人と南がやって来る。南は花束を持っている。
  町子は智史の手を引いている。

    「今、お宅へ伺うところだったんです。」よし恵に花束を渡し
     ながら「退院、おめでとうございます。」
よし恵  「みなさん、ありがとう。」
町子   「もう、よくなったんですか?」
よし恵  「ええ。あとは、毎日散歩して体力を戻すだけよ。」
  よし恵、手すりに手をかけて立ち上がる。町子と智史が手をつないで
  いるのに気づく。
よし恵  「──おや。」
  二人、あわてて手を放す。
  よし恵、ふふっと笑い空を見上げる。
よし恵  「空が青いわねえ」
    「はい。」
よし恵モノローグ 「ずっと平和な空であってくれたら」

  中学校の職員室の前。M69の抜け殻の展示。誰かがガラスケースを
  開け、中に説明の紙を追加する。そこにはこう書かれている。
  「……多くの人が命を落とし、街は焼け野原となりました。どうか世界
  から戦争がなくなりますように」。

                             (完)


あとがき
 この作品は以前、ある賞に応募したものをnote用に書き改めたもので、いわば改訂版です。もちろん、賞に応募した際には空襲の描写について出典を明記しました。そして、誌面に載ることになったら了解をとる手続きが要るなあ、と考えていたのですが結果は落選、奨励賞にも届きませんでした。
 それはさておき。近年、第二次世界大戦の体験談を読む機会が増え、戦争の現実を知ることが多くなりました。今までに自分がTVドラマなどで見て来たよりも現実はずっとひどかったと知りました。だから、戦争のニュースを視る度に戦争が早くなくなって欲しいと思わずにはいられません。
                         天乃原智志

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