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ウルトラマンあれこれ

ファンの間では有名な話だがウルトラマンのシリーズ、特に初期の「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「帰ってきたウルトラマン」を考察しようとする時に、沖縄の存在抜きに語ることは難しい。なぜなら、メインの脚本を書いておられた方が沖縄県民だからだ。
ひとりは金城哲夫。南風原、現在の南城市出身。ウルトラセブンに出てくるロボット怪獣、キングジョーのネーミングの元になった人だ。金城哲夫の母親、金城つる子はペルーからの帰国子女でクリスチャンだった。沖縄は南米やハワイへの移民の歴史を背負っていることが金城家の背景にはある。移民の中には沖縄に帰る子孫もいた。
クリスチャン教育家だった小原圀芳が沖縄に講演に見えている。この人は教育講演で全国を行脚し、沖縄にも足を運んだ。会場には金城ツル子もいて、我が子に東京のミッションスクールでキリスト教に基づいた教育をと願い、金城哲夫は玉川学園の高校と大学を卒業している。もちろん、沖縄の本土復帰前の話で、小原の薫陶を受けている。
学生時代の恩師、上原輝男の影響で脚本に興味を持ち、母校の先輩だった円谷皐を紹介してもらう。円谷皐の父親が円谷英二で円谷家がカトリックのクリスチャンの家庭なのは知られた話だ。金城本人に信仰があるかどうかは知らないが、少なくともキリスト教人脈の中に位置づけていい環境なのは間違いない。
もうひとりは上原正三。この人は太平洋戦争中、台湾に避難している。台湾への避難や疎開を体験している沖縄の方は少なくはない。戦後、小学生時代はうるまや、南風原で過ごしている。那覇高校時代に出会った映画「シェーン」で脚本に興味を持つようになる。先祖に琉球王朝の政治家だった謝名利山がいる。この人は17世紀の薩摩侵攻の際に処刑された人物で、NHK大河ドラマ「琉球の風」にも登場した。
中央大学で学んでいる時代から、沖縄と本土の関係について常に考えている人だったようだ。この人は仮面ライダーの立ち上げの時にも企画に携わっていますし、ゴレンジャーの脚本にも携わっておられる。ウルトラマン、仮面ライダー、戦隊もの。日本の三大特撮は沖縄抜きに考えられないとも言える。
わたしは「帰ってきたウルトラマン」を世代なので現役で見ているが、ウルトラマン史上最大の問題作とも傑作とも言われる「怪獣使いと少年」というエピソードの脚本を担当したのが上原正三だ。何せウルトラマンが日本人の罪性に愛想を尽かし、怪獣と戦うことを一度は拒むという衝撃の展開。TBSが放送に難色を示したほど、重いテーマ、差別を真正面から扱っている。この件では監督が番組から離れるほどの騒ぎになっている。これはやはり沖縄ならではの視点による問題提起だったのではないかと思う。中心でも多数派でもない周縁へのまなざしがあった。今でも悲しすぎて直視できない。
リアルタイムで見ていたとはいえ、小学校に上がる前だったのでそこまで深いことは知る由もなかったが、いつものストーリーとは違う、悲しい話だということはわかって印象に残っている。大人になって背景を知り、子ども時代に実に深い作品を見せていただいたのだなと気づく。この時の怪獣ムルチのネーミングも沖縄由来だ。嘉手納に屋良ムルチという池があるのだ。このストーリーは平成ウルトラマンのウルトラマンメビウスで後日談が作られた。それくらい後のクリエイターに影響を残した。
ウルトラマンは、キリスト教とも切り離せないし、沖縄とも切り離せない。わたしは本土生まれだが、半分沖縄の血が流れているクリスチャンなので、このことを考えるとき、とても客観的にも他人事にもなれない。沖縄在住のクリスチャンなら尚のことかもしれない。


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