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おかえりモネ 12

ドラマは東京編パートの最終週。主人公の故郷気仙沼を竜巻が襲います。以前も触れましたが、物語では渦に象徴的意味を持たせているように思います。テーマが水の循環ですから。巨大な渦である竜巻が契機で新しくできた橋を渡り故郷に帰還する。


もうひとつの契機はおそらく楽器のホルン。ホルンも渦巻の形をしている。菅波医師の新人時代の挫折と関係する元ホルン奏者が登場しました。この人物が主人公と関わる展開になると思われます。ホルンの演奏に後押しされる形で地元に帰るのでしょうか。いよいよ番組タイトルの意味の伏線回収の局面です。


個人的にずっと気になっていることがありました。それは主人公が中学時代に吹奏楽部に属していたエピソード。父親はトランぺッターでしたし、登米には父親の友人のジャズ喫茶マスターがいる。音楽を学びたいための仙台での高校受験。島で聞く潮騒のリズムとメロディーが主人公の音楽の原点なのでしょう。実際気仙沼をはじめ宮城県北部から岩手県南部はジャズの盛んな土地柄。外国にまででかけた漁師が外国音楽を移植した背景もあるのでしょう。


しかし音楽のすべてを3.11をきっかけに封印してしまい、音楽などなんの役にも立たないと主人公に語らせるに至る。音楽に関するこれらのエピソードは全く回収されることなく宙ぶらりんでした。しかしここにきてホルン奏者がきっかけでおそらく地元で音楽にかかわる展開が待っている気がします。主人公の名前には漢字の「音」が入っているのですから。


ホルンのルーツとなる角笛は旧約聖書にも出てくる楽器です。歴史的には日中は戦いの合図に夜は祝杯に使われた時代もありました。夜と昼で違う用途。物語のホルン奏者も人生の昼と夜を体験したと言っていいでしょう。
ヨーロッパではホルンは郵便局のマーク。かつては手紙を運ぶ者はホルンを吹いて到着を告げたからです。郵便制度が整うまでは庶民の手紙を運ぶのは旅の大道芸人や教会の巡礼者でした。主人公もきっとホルンに後押しされて故郷に必要な天候情報を伝えるのでしょう。


元奏者が今はボイラーの点検をしている設定にも意味があるはずです。銭湯に必要なボイラーは蒸気を発生させます。蒸気すなわち水です。風呂の湯船という言葉ももともとは船で湯を運んだ江戸時代の習慣から。そう言えば現代では船にもボイラーは搭載されていますし、このシェアハウスはどこかで船や海を連想させる場所。実際、漁業を営む主人公の祖父が風呂を洗う音を聞いて、海を連想していました。ボイラーもホルンも縁の下の力持ちという点では共通。


汐見湯という場所で潮を待ち、主人公はいよいよ船出するということかもしれません。

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