見出し画像

『夢の国かのように表現されたかと思えば、地獄かのように表現されたりする、日本のデンマークですが、どちらもだいたい誇張されています。私にとっては日本より住むのがラクな国ですが。』② ー徴兵制の話

表題は、Twitter(X)のトップに魔除け代わりにピン留めしている私のツイートです。

日本(のTwitter)でしばしば話題になるデンマーク。
好意的な話題(「幸せな国」「医療費・教育費無料」「残業無しで生産性高い」などなど)を起点にして、ネガティブな返信(「所得税高い(55%)」「消費税高い(25%)」「物価が高い」「徴兵制ある」「移民問題」「犯罪率高い」などなど)がついているのが、お決まりのパターン。

まぁ、どちらも「日本のデンマーク(※1)」だなーと思って傍観しているのですが、もしかしたらニーズがあるかなと思い、私が見聞き・体験している範囲で現実を少し紹介します。

シリーズ2回目。
前回「おかねの話」はこちら。


※1.日本のデンマーク:長期滞在や旅行はおろか、資料を調べてもいない人が、主にネット上で流れているウワサ話に基づいて持っているデンマーク観。同様に「日本のアメリカ」「日本のヨーロッパ」などがある。



徴兵制の話

最近、「2026年から女性も徴兵することにした」で話題のデンマークの徴兵制。

といっても、自分で経験したわけではないので、あくまで調べてみた現時点でのお話。

はじめに書いた通り、「日本のデンマーク」的に、
A『デンマーク、いいなぁ』
B『じゃあ、移住しろよ。徴兵制あるけどな!www』
という文脈で出てくるのをよく見るので、それに対する反論っぽくなります。

徴兵人数

まずは、これでしょう。
上記の文脈で出てくるのって、基本的に韓国のように「すべての成人男子に兵役の義務」(「国民皆兵制度」というそうです。)を想定しているように見えるんですよね。
「芸能活動を中断して、〇年、兵役に行ってきます!」的な。

もう少し直接的に言うと
『デンマークに行って、兵役に就く覚悟があるのかよ?』的な。

ところが、現実のデンマークの徴兵制度はというと、、、
(「ニュース記事はちゃんと読みなよ」、あるいは「Wikipediaでも調べなよ」というお話ですが、)
兵役に就くのは、年5000人程度(2023年は、うち約25%が志願した女性)だそうです。

下記のように健康診断、身体測定等を経たうえで、さらにくじ引きで選ばれる必要があります。

デンマーク国籍の男子は、18歳になると徴兵検査に応じるように求める書類が届き、医師による健康診断と身体測定、筆記試験、面接を受け、不合格だと訓練免除、合格すると番号札を引いて若い番号順に訓練を受けることとなる。年度ごとに必要人員数というものがあるので、それ以上の番号を引いた人は訓練が免除になる。

Wikipedia 「デンマークの軍事」


そして、徴兵対象である18歳から32歳までの男性の人口を見てみると、
だいたい各年齢3ー4万人います。(リンク先↓の真ん中あたりに一歳毎のピラミッドあり)

ということは、すごく雑に言うと、各学年の男性10人にひとりくらいの割合で兵役につくわけです。
(上述「毎年5000人」のうち75%(3750人)が男性。これを3-4万人で割ると、9-12%なので。)

ちなみに、総人口がデンマークの約20倍の日本で、毎年新たに自衛隊に入る人数(もちろん徴兵ではなく、志願ですし、就職です)が、男性約6000人、女性1000人弱なので、それに比べるとデンマークで年5000人というのは、はるかに多いです。
が、「みんながみんな兵役」というのとは、だいぶ感覚が違いますよね?

実際、私の周りを見ると、、、
あくまで明確にわかっている範囲(話題になったり、軍服で会ったことがあったり)で、クライミングジムの友人(女性)1名と、大学の学生2名が兵役経験があるようです。

良心的兵役拒否と兵役志願

「割合が多少低くても、やっぱり徴兵されてるじゃねーかよ」

ええ、まぁ。でもね…↓

なお、良心的兵役拒否が認められており、代替役務が制度化されている。

Wikipedia 「デンマークの軍事」

そう。
「いやです。」が通じます。
代替役務は、消防や救急(↓)、その他の行政関連の役務があるようです。


またその反対に兵役にvolunteer (志願)することも可能です。
まぁ、そうですよね。

では、実際に強制的に徴兵された人と、志願した人の割合がどうなっているか?
英語版Wikipediaには、

In 2006, 76% of conscripts were volunteers, a number which rose to 99.1% in 2014. The other 0.9% (19 individuals) were forced to serve in the military.

Wikipedia ”Conscription in Denmark”
(https://en.wikipedia.org/wiki/Conscription_in_Denmark)

とありますね。「2006年は76%が志願だったのが、2014年には99.1%が志願、0.9%(19人)が強制。」

もう少し最近の情報だと、

While the law permits the Armed Forces to forcefully enlist soldiers, fewer than 1 percent are conscripted in this way.

Copenhagen Post
(https://cphpost.dk/2023-01-26/news/government-could-shake-up-military-enlistment-with-more-female-recruits-and-forced-conscription/)

具体的な数値がないですが、近年は1%未満を推移しているように読めますね。

ということは…(中締め)

「おめぇ、デンマークに行って兵隊やる覚悟あるのかよ?」
という「日本のデンマーク」感に関しては、

自分が、兵役拒否できない約20人に選ばれる可能性をどう見るかですよね。
私は(国籍的にも、年齢的にも徴兵対象外ですが(笑))、「その覚悟、必要なくない?」と思います。

もちろん、「徴兵という制度」そのものに対する賛否の話であれば、別ですが。

その他

仮に、兵役に就くとして、、、
デンマークの兵役期間は、4ー12カ月です。
この短期間で、どういうことができるようになるか?
本当の意味で、兵士としての活躍はあまり期待されていなさそうですよね。
ということで、4カ月程度の兵役では海外派兵されたりすることはないようです。


愛国者万歳の国、アメリカでは、兵役経験者は学費補助があったり、兵役中の休職・休学による不利益がないよう配慮されているようです。また、市中で軍服姿の若者を見ると「Thank you for your service」などと周りから声掛けされているのを何度も見ました。

デンマークもおそらく、というか間違いなく、軍務休暇はあるのでしょうけど、大学学費などの優遇があるのかは、わかりません(誰か調べて)。
ただ、チームビルディングが大好きなデンマーク人、就職活動において兵役経験はどうもプラスに働くことがあるようです。
「Thank you for your service」はまだ聞いたことがないですけど、どうなのかな?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?