ある秋の重力

手紙に手紙を書きたくなる
秋に癒着する水の
この温度では
わたしから脱皮した皮膚はとけない
汽水にすむ二枚貝は
明け方の亡骸を咥えて肥るというのに
吐息がまだ散文とはほど遠い時間
自分の身体もこの土の
重力につづいているのだろうか
葉のこすれる音がしなければ
静けさがどこから来たのかすら
おもうことはなかった

林道をあるいた記憶を栞にして
野鳥が力尽きている様子が
物語の二連目から
書き出されることを想像しながら
水溜まりを跳ねてよけるのに半歩おくれる
鉤括弧で括るでもなく
そっと秋の厚さの紙を
差し入れるだけの歩み
栞という字の
線対称の特別さ
この世界の
どこに完全な植物園があるというのか

ある夜
皿を洗うための水が
この世からはみ出そうとしていて
この水の重力をつかまえようとすると
幼いころの
突き指におもい至った
その痛みには
重力の友人達がふかく腰掛けていて
地上の祈りを多く含ませていたが
いつか村中の次女逹が
包帯に、はじめて触れるとその感触に
つく予定だった嘘の
つじつまを忘れてしまうから
字余りになりそうな
いくつかの理由だけ掬いとって
身体にしみこんだ秋を
遠近法のずっと奥の
消失するところへ埋めようとすると
ようやく痛みがやわらぐのです

何かの責任を放棄するみたいに
口のなかで溶けきらない飴玉を
つい噛み砕いてしまう幼さをふくませて
田んぼの用水路に長靴を履いたまま
足を差し入れるとその冷ややかさの分
他人の足になる
この季節のおだやかな水は
植物よりも鬱蒼として
つま先の爪を切ってくれようと
そっとわたしの足を
自分の腹の方へ引き寄せて
感じさせてくれた秋の夜の
子宮のあたたかさまでも流してしまう

このまえ現代詩人会投稿欄に入選したやつっす。ありがたい話です。みなさんよんでみてね❤ 感謝感謝

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