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詩作、過去作品 公開保存用

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2022年8月の記事一覧

【過去作品】 母が恋愛していた頃

男の人の暴力が虹のようだと、知っていたから母は、夕暮れに失語しながら、不眠だった夜のことを手帳にのこしはじめた。私たちの耳は、くすぐられるためにあったという。それはとても薫風のように。母による私たちの、後ろ姿を見失う、という行為が無意味なまでに、美しさを孕み、大きすぎる靴を私たちが履き、ぎこちなく歩くのを喜んでくれた。母は、窮屈になるまで爪先の、その先の空間に、夏を、つめこもうとしていたから。季節

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過去作パート4 「ユング派の彼女」

果糖のような夜に、彼女のアトピーを愛した。舌にのこる粉。ピアニカを縦にして吹く練習を、手の中だけで繰り返した記憶。彼女のうぶ毛は、光が届き過ぎる透明な字幕だった。腕を遠くから見つめていると次第に、皮膚を取り巻く光が美しくなっていく。そうして、そのもののような液体を、どちらがともなくしみこませる。彼女の腕の肌ほど、具体的な時間はなかった。鼻のおくの、頭痛のかおり。とても恣意的に、自分を見失わせると、

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