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蕎麦も楽じゃない

朝食にかけ蕎麦を食べようとしたら、蕎麦がぐちをこぼし始めた。ボクはいつも同僚に愚痴を聞いてもらうことが多いし、今日は日曜日だ。しかたがないので蕎麦の話を聞くことにした。

「なあ、きいてくれよ。オレが最初に覚えているのは暗くて湿った土の中なんだけどさ」

ああ、そこからか。僕はいったん箸を置くことにした。

蕎麦の話

ぐちは生い立ちからはじまり、なかなか終わらなかった。
「…てなわけで、収穫までそりゃあいろいろあったさ。でも、その先はさらに大変だったんだぜ?」

だんだん過去の苦労ばなしになってきたようだ。お茶をすすり、一緒に用意した納豆パックを開けながら話を聞く。納豆のタレを出して…プチゅっ、あっ。

蕎麦の話は続く。

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蕎麦の話②

「まあ、挽かれたり打たれたりも辛かったさ。まあ、並大抵の精神力じゃ耐えられないと思うぜ。なに?オレが打たれ強いって?ははは、文字通り打たれたわけだけどな!しかも、最後には身を切られたわけよ。ありゃキツかったよ」

けっして上手いこと言ったつもりはなかったのだけど。ボクは適当に相槌をうちながら(上手いこというつもりはないのだけれと)話を聞き続けた。

「まあ、恨むつもりはないんだけどな…」
なにやらしんみりしてきた。

「身も心も乾燥で軽くなってから、しばらくはゆっくり過ごせたさ。今朝、包装から取り出されると突然湯に放り込まれたわけよ。粉をさっぱり落として体も温まってきたところで、今度は冷水な」
「ザルに取られてホッとしていたら、また熱湯にさられていまこうしてるってわけ。まあ、いよいよオレも最後の時が来たんだなって。…いや、恨んじゃいねえよ。蕎麦にとってみればこうして喰われることは本望ってもんだろうからさ。遠慮せずに食えよ」

挽かれたり、叩かれたり伸ばされたり。細く切られて乾燥させられえて、包装されてきたわけだ。その上、熱湯にさられて冷まされたと思ったら、また熱い汁に浸される。まあ、こうして考えてみると蕎麦も楽じゃないんだよなあ。

さて、伸びる前にたべよう。
いただきます

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