見出し画像

「宿借りの星」、読書感想メモ、造語の魅力と魑魅魍魎。

「宿借りの星」(酉島伝法著、東京創元社、2019)

子供のころ、SF小説は冒頭からしばらくは頭が「?」になっていました。物語の世界観から生まれる用語や、登場人物の会話がチンプンカンプンだったからです。大人になってみると、読者を置いてきぼりにするかのような「SF小説の初速」は魅力となって感じられるようになりました。。。。。が。

造語の意味がわからん(理解遅)

和風な雰囲気をも漂わせる装丁。のんびりと飲み物片手に本を開いたとたん、表現の戦場、それも最前線に放り込まれました。読者に対して容赦の無い「造語の乱射」。のんびりどころではありません。鳴り止まぬ銃声「衛生兵!衛生兵!」と脳内に叫び声も響きます。脳みそから湯気が出てきてぐるぐる回り始めました。

最初の猛攻に何とか耐えたものの、造語の手がかりはなかなか見つかりません(低スペック)。こうなったらと腹をくくって読み進みます。頭から立ちのぼる湯気、鼻から噴き出す蒸気。しかし「造語の意味がわからん」(低スペック、熱ダレ)。またもや人生の挫折をここで味わうことになるのか、と覚悟を決めました。

造語の意味が・・・あれ?・・おもしろ・い

それでもしばらく、満身創痍で読み進めていきます。読者のことなど目もくれず次々と描写されていく物語世界の理(ことわり)。それが造語たちと結びついて語源やニュアンスが徐々に伝わってきます。そして、ある時点で突如として、物語の世界が脳内イメージとしてどんどん湧き出てきました。あれ・・・おもしろ・い。自分がいつの間にか魑魅魍魎達の世界に入り込んでいることに気がつきました。

予想以上に最初は気持ち悪かった(ごめんなさい)

登場キャラクターが「ちょっと」グロいことを知っていたのですが、予想以上でした。生々しい描写と、情景をより不穏なイメージへと駆り立てる造語の数々。読みきることは出来そうにないと感じました。読書開始の初日は「不安と挫折のため息」とともに本を閉じます。ここまでか、と。

気持ち悪さ(ごめんなさい)が癖になっていく

翌日、本を手にとって読み進めている自分に気がつきました。「怖いもの見たさ」「異様なものを二度見してしまう」気持ちかもしれません。やがて造語は怖くなくなり、むしろ物語世界に浸るためには欠かせない要素として感じられるようになっていったのです。
やめられないとまらない(商標)

最後まで・・・(しかし読みきった)

初めは生き残ることさえ難しいと感じられた戦場。闘いは終焉をむかえることになります。そうです、気がつけば終わりまで読み通していました。

読みきってわかったことは「この造語こそが著者独特の世界をつくりあげていた」のだということです。読むのを諦めなくて良かった。さらに、著者自身によるイラストが読み手のイメージをより膨らませてくれます。このように物語世界に浸らせてくれる仕掛けがされており、それを存分に楽しむことが出来ました。いい作品に出会えてよかったです。しかし、いい意味で最後まで気持ち悪かった。
(ごめんなさい)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?