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仁義なき戦い〜食事処抗争編〜

どうも専務佐藤でございます。

名作ドラマ『Hotel』の名セリフと言えば高嶋政伸の「姉さん、事件です。」が有名ですが、当館の場合は、そんなセリフなかなか使うチャンスが無いくらいお客様に恵まれてまして日々穏やかです。なんかトラブルあったとしてもたいがい専務佐藤が原因です。

「室井さん!事件は会議室で起こってるんじゃない!専務の周りで起きてるんだ!」

って踊る大捜査線の織田裕二も無線で一喝しております。

「青島ー。聞こえるか?いいか。専務の周りで起きてるんじゃない。あいつがトラブルの元凶なんだ。」

ギバちゃんも会議室でホトホト呆れてます。心穏やかな、あのいかりや長さんも多分おいかりな長さんです。「ダメだこりゃ」って。

6年ほど前です。

その頃、私の幼なじみが地元で起業しようと帰ってきました。

ただ店舗面などが折り合いが付かず、宙ぶらりんの状態になっていました。

私からすると渡りに船。友人は物凄く人当たりが良く、知識も豊富。学生の頃はトーク力抜群の彼がしゃべれば学校が揺れてるんじゃないかといつもドッカンドッカン笑いを取っていました。

もう君しか見えない。手伝ってください!と熱烈なオファーをかけて当館に短期でお手伝いに入ってくれました。

もう私が見込んだ通り、友人はあっという間にお客様を魅了していきました。お客様にお料理やお酒を持って行くだけでその席はワッと会話が盛り上がり、必然的にお酒の消費量も増えるという好循環も生まれました。

彼と一緒に飲んでみたい。と言われるお客様も増えお食事処にて御相伴に預かる事も多々ございました。

そんなある日、隣県から40代の御夫婦が御宿泊にいらっしゃいました。ご主人さんは、褐色のいかにも修羅場をくぐって来てそうな精悍な。ダンディズムの塊のようなお人で。奥様はお綺麗な。しかし凛としたたたずまいで上品なお人でした。

夕方その御夫婦が御夕食にお食事処へ来てくださいました。当館では、お食事はお部屋食では無く、朝夕ともにお客様にお食事処に足を運んでいただいております。個室型ではございますがせっかく足を運んでいただいておりますので、お食事処でしか出来ない事をと思いまして、ご希望されるお客様にはそれぞれの個室にスタッフが赴いて地酒の試飲をサービスで行っております。

友人が手伝ってくれている時は、地酒の試飲は全て彼に任せておりました。

その日も友人に地酒の試飲をお任せしており、例の精悍なお客様の所へも彼が伺ってくれました。

しかし、しばらくしても友人は帰って来ず何かあったのか様子を見に食事処を覗いて見ました。

「ワッハッハ!」

お客様は大変上機嫌に笑っており、凄く盛り上がっていました。

(やっぱり、あいつスゴイな。お客さんの心、鷲掴みやん。)

私は安心して、再び厨房に戻りました。その後10分ほどすると友人が厨房に戻ってきてこう伝えて来ました。

「俊一君(私)。俊一君の話をお客様にしたら、あのお客様が仕事が落ち着いたらでいいから一緒に飲みたいって。俺と俊一君と4人で。いける?」

厨房の暑さで喉カラカラになっており、今すぐにでもビールを飲みたい私は二つ返事で

「行く!」

と、お客様の待つテーブルへ参戦致しました。

お客様「おー、専務か?まー飲もう飲もう!何でもジャンジャン飲んでいいから。もちろん俺に付けてね!」

と太っ腹な一言。友人がご主人さんの隣に座り、私が奥さんの隣に座り2対2のフォーメーションで宴が始まりました。

遠慮という言葉を良く知らない私は、ここは自らの肝臓で稼いでやる!と息巻いてハイペースでビール、ハイボール、焼酎、日本酒などをドンドン飲んで行きました。美味しいです。奢りのお酒って。

また奥様がすごい気を使って下さって。僕のグラスが空いてないと見るや何を飲まれます?って。どっちがもてなす側か分からないくらい。奥様の空いたグラスなど気にも留めず楽しく飲んでました。

ただ、ずっと引っかかってたんです。

精悍なご主人さんの浴衣からチラリチラリと見える色鮮やかなボディーペインティングが。いや割とチラリズムは好きな方ですが、これに関しては話が違う。絵の具を肌に塗ってるだけよね?って自分に言い聞かせてました。温泉入っても落ちてないから油性よねって。まあ彫ってあるタイプでも最近はファッションタトゥーあるしね。気にしない。気にしない。

程なくして、いい感じで酔いも回って来たところでご主人さんからのクイズタイムになりました。第一問。

ご主人さん「さて、私は何の職業でしょうか?」

うわ。このクイズ嫌だよ。下手な事言えないし。一発で答え言うのも話のネタふってくれたお客様に対して何か無粋だし。私は何歳でしょうか?って質問と双璧をなす難問だよ。

思わず対面に座る友人と目を合わせました。友人が目で「俺に任せろ!」と言っています。いやそんな気がしました。

友人「車屋さんの社長さんですか?もしくは不動産屋さんの社長?」

ご主人さん「そう見える?どっちにしろ社長か?ハッハッハッ!」

(上手い!!!何て上手い切り返しなんだ!友人よ!お前がキャバ嬢だったらおじさんお店に通っちゃうよ。娘の貯金箱叩き割ってでも通い詰めるぜ!よし、流れは来た。あとは俺に任せろ!そんな感じで言えばいいんだな。)

対面の友人に目を合わせ次は俺が行く!と合図をしました。いやそんな気がしてました。当てず離れずのギリギリの線を攻めてやる!


私「ヤクザさんですか?」


換気扇のコーって音だけが食事処に響き一瞬の静寂に包まれました。

対面の友人と目が合いました。

(お前、それは違う。いや違う事は無いけど今じゃない!)

テレパシーってこんなかなってくらい友人の気持ちが伝わって来ました。

ご主人さん「…正解。」

(キャー!一発で当てちゃったー!!!御職業はヤクザーー!!!)

焦った私は思わず「えっ!マジっすか?」って言ってしまいました。友人に目を合わせると(お前、それも違う!)ってビンビンに伝わってきました。勘の悪さ、ここに極める。

ご主人「マジだって。ほれ。」

とおもむろに浴衣を脱ぐと、ご主人さんの胸元のいかつい般若と目が合いました。

(あっ、どうもこんちわ。)

迫力ある般若に思わず心のなかでご挨拶しました。やっぱり人間、挨拶が基本かなって思って。

って事はご主人さんが、道を極めし者だったら僕の隣に座ってる方は妻を極めし者。って事なんですね。ハハッ。えーと奥様。大変遅くなりましたがグラス空いてましたね。何飲まれます?僕ですか?僕なんかそのへんの泥水でいいです。




そうかなって薄々思ってたけどやっぱりヤクザかよーーーーー!!!!!!

もー言ってよ先に!予約の時に

「この度、〇〇組との抗争手打ちの打ち上げで〇〇組で記念旅行します☆」とか「オジキの出所祝いで〇〇組、団体旅行します♡」

とか一言添えて欲しいー!!

『真鯛のソテー〜クレソンを添えて〜』くらいはっきり添えて欲しい!

『組からの絶縁状〜小指を添えて〜』くらいはっきり主張して欲しい!

言わないと分かんないから!

こっちはそこで初めてポリスに相談だから!

もう一瞬で酔いが覚めました。

(ヤベー。俺息してる?あっ、困った時は友人に助けてもらおう。)

友人と目を合わせると(知るかボケ!)と隣のご主人さんの般若と同じ目をしておりました。

もう行くしかない。開き直ってさらに掘り下げて質問してみました。

「どちらの組ですか?」

ご主人さん「どこの組だと思う?」




まさかの第二問。クイズタイム継続。

いや、分かるかっ!!!

もう嫌だよ、このミリオネア。難しさで言うと『何歳だと思う?』とか比じゃねー。目の前のみのもんた超怖えーよ。

だいたい「どこの組だと思う?」って質問に答えがあるのは3年B組の武田鉄矢ぐらいだって!このバカチンが〜。

恐る恐る知ってる組名を答えました。

「〇〇組ですか?」

ご主人さん「〇〇会です。」


引っ掛けかよー!!!組じゃなくて会かよー!!!!金八先生も定年で担任やめて教育委員会の方かよ!!!やめてよ、ここで引っ掛けるのは。

でも。何かご主人さん、すげー笑ってくれてる。

俺のアタフタが何かハマってる。

もう何でもいいや。と思ってさらに開き直って飲んでたらご主人さんスゴくしゃべってくれました。

ヤクザ稼業になったきっかけ。学生の頃の話。奥様との馴れ初め。

全く関わりの無い世界の話なので、聞き入ってしまいました。極め付けは

「俺達は陽の当たるところを歩いちゃいけないんだ。俊一君、〇〇君(友人の名前)。君たちは俺達みたいな奴と関わっちゃいけないよ。」

と今までの飲んでた時間を根底から全否定する一言。でも何かスッとその言葉は胸に響きました。

すっかり酔っ払ってしまったご主人さんは食事処で座ったまま眠ってしまいました。

寝息をかくご主人さんを見ながら奥様が

「最近、気を張る事が多かったみたいだから今日はリラックスして楽しかったみたい。ありがとう。」

と言ってくださいました。

その後、スヤスヤ眠るご主人さんを背中に抱えてお部屋にお送りしました。私は妙に冷静で、この先ヤクザさんをおんぶする事は無いだろうと背中で般若の重みを感じながらお部屋まで背負って行きました。


解散したあと自宅に帰ると「酒臭っ!お前さ、酒飲んで遅くなるなら連絡ぐらいよこせよコラ!」とアウトレイジばりに妻に詰められました。その日それが一番怖かった。一番の事件は自宅にあった。

こんなのなかなか無いケースですが誤解が無いように。

※当館では基本、反社、暴力団の方のご利用はお断りしております。

ではでは。



















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