見出し画像

学ぶ会(仮)① 「一回性」

2020年、何か新しいことを研究室でもやろうと言う何気ない会話から、
神戸という「地方ならでは」の勉強会をやろうという話になった。
このnoteではその勉強会の内容をゆるく書き連ねていきたいと思う。

第一回となった1月16日では、
・各個人が自由に本を選ぶ
・その内容をゆるく伝え合う
という2つのルールのみを設けて文章を各々が読んできた。

この回のメンバーは3人であるが、1人のメンバーの遅刻のために2人で初回を開催することになった。

一冊目 「名建築は体験が9割」

紹介してもらった本は、
「名建築は体験が9割(原題:The Space Within: Interior Experience as the Origin of Architecture)」(ロバート・マッカーター著)であった。
建築は内部空間から始まり、内部空間の体験に終わるという主張に重きを置いている。主要建築家の内部体験に対しての思考、空間構成手法、その変遷の歴史を主たる内容としている。

その中でも2人の中で会話の主題となったのが、建築の構成方法は「モデリング」と「カービング」という2つに大きく分けることができ、原始的な知覚を引き出す「カービング(carving)」に重きをおいたエイドリアン・ストークスの言説であった。
「モデリング」は加法的な工法でほぼ視覚でのみ知覚するもので、写真により見かけの価値をよく伝えるがそれはうわべだけのものであると論じた。
それに対し「カービング」は掘ることで空間を作る人間の本来の建築観によりそう方法であるとし、作る過程により空間があらわになることで、五感を一体的に作用して空間を知覚することを要する、「空間に引き込まれる感覚を喚起される」と評価した。

この「カービング」の建築は、明確な意味から建築を作るのではない現代建築の流れを汲むこれからの建築感を表現するにふさわしいのではないかと、2人は考えに至った。より人間の感覚に寄り添い、新しい建築を古来の建築と向き合い、漸次的に生み出すに適当な概念だと思う。

二冊目「技術的複製可能性時代の芸術作品」

そして私が選んだのは、「ベンヤミン・アンソロジー」というヴァルター・ベンヤミンの論集の中の一小論、「技術的複製可能性の時代の芸術作品」だった。

1935年という85年も昔にベンヤミンが考えていたエッセイは、現代に対して強烈な示唆を持っているだろうと考えたことから選んだ。それは現代の映画作品の形に対して、流布する画像と絵画の関係に対して、技術により変わった建築の楽しみ方に対して、その諸芸術の在り方に対してあらゆる考えを与えてくれた。

この小論の中で2つの話題が中心となった。
1つ目は芸術との向き合い方の構造的な歴史の変化。
観客と役者が向き合っていた舞台作品から、機会を通して間接的にしか向かい合うことがなくなった映画作品への移行は芸術と自分をどう関係させるかという構造を変えた。映画はより自分の方向へ没入させる感覚を生むこととなった。その中で現代において映画はさらに進化している。
多感覚を刺激される没入形4D映画、CGの発展による超世界的な体験などなど、85年前には感じることができなかった世界の体験を現代の映画はもたらす。
しかし、ここ数年で評価されるアカデミー賞受賞映画は違う。限りなくリアリティを持つ中で、解像度の高い生活と人間の心理をありありと描き出し、ショックと圧倒的に美しい映像に社会的意義を持たせるそんな作品が軒並み評価を受ける。
どんどん人間の知覚から離れていく最先端の映像作品とは対照的な、人間の超感覚的な知覚を楽しむ、それこそが今の人類が求める芸術の姿なのではないかと考えが及んだ。

2つ目が今回の議題「一回性」であった。本論考の主題である「芸術作品からのアウラの消失」はまさにここに宿る問題であり、当然議論の対象となった。舞台、絵画は映画、写真に取って代わり、複製は可能で、広くその姿が流布された。しかし、時間、文脈、相互作用などによる一回限りの空気を失い、芸術に宿っていたアウラが消えたことがこの時代の最大の変化だとベンヤミンは述べた。これは21世紀の現代でも強く感じることだが、むしろ一回性を芸術作品に求める時代になってきたとも感じる。自分ならではの体験をしているという感覚を、作品に参加することによって獲得し、その体験をSNSにより複製するという、「作り手に回っているような感覚」を一般の市民も体験できるようになってきたことが現代における最大の芸術構造の変化であると感じた。

二冊の共通点「一回性」

ここで、一回性に宿っていたアウラはカービングの思考と通ずるのではないかという話になった。様々な時間的・空間的・物質的文脈を持つという点でアウラとカービングは共通する。
より人間の知覚に訴える建築のあり方は、
この「一回性のアウラ」と「カービングの空間」の重なるところにあるのではないかと考えた。
このことが第一回学ぶ会(仮)の結論となり、次回のテーマを「カービング」としたところで今回は終了。

次回は「カービング」をもとに各々が読んだ本を、また『ゆるく』共有できたらと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?