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成瀬あかりの欠落

『成瀬は天下を取りにいく』を初めて読んだ時、成瀬あかりは、まるで何でも出来るヒロインであるかのような印象を持った。 けれど、幾度か読み返すうちに印象が変わる。 成瀬あかりには、その内面に大きな欠落がある。 複数の人物がそれぞれに語る構造 この作品では、各短編が別々の登場人物の目線で語られている。 こうした形式をとる小説は多いが、ここでは特徴的な二つの作品を挙げてみたい。 一つは、ミラン・クンデラの『冗談』という小説。 ここでは、ほとんどの主要な登場人物に、その人物が自分

    • ただ生きるだけじゃなく

      東京都知事選にも出馬したAIエンジニア・SF作家である安野貴博氏の『松岡まどか、起業します』。前回取り上げた『成瀬は天下を取りにいく』同様、面白さに引き込まれて一気に読んでしまう小説だった。ここでは『成瀬』との比較から話を始めたい。 『成瀬』と『松岡』の共通点 この二つの作品には幾つかの共通点があるが、まず注目したいのがそのタイトルである。どちらも、[人物の固有名]+[その人物の行動]という形をとっている。「成瀬」や「松岡まどか」と、あえて人物の固有名を掲げることで、その

      • 『成瀬』の爽快感はどこから来るのか?

        本屋大賞にも選ばれて話題になった『成瀬は天下を取りにいく』と、その続編『成瀬は信じた道をいく』。 成瀬と幼馴染の島崎を中心に、様々な人の視点から語られる小説である。 読んでいて気持ちの良い、爽快感のある本だった。 成瀬がもし帰国子女だったら 本を読んで数日後、風呂に入っている時に、ふと思った。 成瀬がもし帰国子女だったら、作品の印象は変わるんだろうか? 仮に、成瀬が生まれてすぐ、親の仕事の都合でアメリカへ。 そこで小学校を卒業した後、日本に帰国して中学に入学という設定だと

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