見出し画像

「ダウン・ザ・ロード」第1話

「ダウン・ザ・ロード」第1話                          渡邊 聡

あらすじ
 朝、気が付くと部屋に漂う異臭。その原因を探すぼく。突然ひとり娘の耳から、ラーメン状の何かがこぼれる。いつもの日常に降って沸いた、ありえない災難が徐々に加速され、翻弄されつつも、なんとか娘を救おうと、主人公であるぼくは奔走する。あらゆる手立てを尽くすも、依然として娘の状態が、病がわからないまま、時間だけが過ぎてゆく。途方に暮れ、逡巡し、走り、不眠不休の数日の後、ぼくの日常は、どんどんぼくの普段の現実とかけ離れていく。これから起きそうなことすら、予測も想像もできないぼく。そしてとうとう、ぼくがぼくにもたらした破綻。この現実はなにか。娘は今どこに。その原因は。
 
「ダウン・ザ・ロード」第1話                                渡邊 聡

 「初日」
 匂った。
 匂うのだ。
 僅かだが、いつもと違う。
 突然だ。
 玄関を開けた瞬間、
 匂いの壁にはねかえされる。
 不愉快な鼻腔のうずき。
 まるで夏場生ごみを処分し忘れ、二三日旅行にいってきた感じ・・・。
 娘が立っている。
 何も言わず、両手を差し伸べてくる。
 それどころではなかった。
 「おいで・・・」
 と後ろに声を投げ、すり抜け、キッチンに向かう。
瞬間、娘の小さく、暖かな、命の灯火のような体温を思い出す。
 くぐもった匂いが沈殿している。
 ドアを開けリビングを横切るとキッチンカウンターの裏にまわりこんでゴミ袋の口をしめようとするところで、手は止まった。
 違う匂いがする。
 口が軽くだが、縛ってある。
 今度は、牛乳を腐らせて、酢とレモンのアクセント。
 軽い・・・。
 顔を離して、口を解いてみる。
 しなびた、沸き立ち変色した、バナナの皮と、ピンクの山盛りのティッシュが放つ、ほのかなスペルマの香りと、さらにほのかな花弁の香り。
 彼女のそれは、無色透明で少し粘りけがある。
 口をすぼめてあとから溢れ出すジュースを吸い尽くし、なお密着させて陰圧をあげたまま舌でころがしたり、舐め上げたり弾いたりして、時折はなして、吸ったり噛んだり挟んだりしていると、突如、薔薇の花弁の鮮やかな色彩のような、魅惑的な香りを放つ汁が
放出される瞬間がある。
 そして、必ずその時彼女は固くそり返る。
 ぼくもその時を待って、両肘を彼女の両肩のわきに固定し、ゆっくりした一定の速度を緩めず奥まで、やはりそり返ったぼくの分身を沈める。
 彼女は最初の大波に溺れ、母音をひきしぼり、小さく鋭く、長く絶叫する。
 その楽しみは、娘の誕生で、より深まりをみせる。
 娘を産んだことで、彼女のそこは、より難解に複雑に進化した。
 ぼくらは何度も驚嘆し、子どもを産んだことの隠れ絵を享受した。
 縁なしのメガネが似合う、くりっとしたまなこに、とがった鼻。
 薄く肉厚の真っ赤な唇と、すきとおる白い肌。
 ・・・子どもは、産むべきね。
 まるでビックリ箱みたい。
 そして始終やめられなくなった。
 仕事と不眠と、過労とセックスで、死にそうになる。
 彼女は孤独から、ぼくは過労により、やめられなくなった。
 彼女もぼくも、鉄人になり、桃色の脳がめくれ、膨らんだ。
 彼女は縛られながら、喘ぎもらす唇からよだれをたらして・・・。
 しかし、もうぼくらには性器は不必要になってきた。
 いや、結合することすらもう、必要ないのかもしれない。
 脳は、楽に、直接に酔うことを欲している。
 道を見つけると、貪欲にそれを求める。
 医者であるぼくは、無尽蔵にそれを提供できる。
 まだ、間に合う。
 仕事がヒト段落ついたら、抜く。
 とりあえず、篭って寝る。
 栄養をとって、ひたすら抜く。
 それで地獄から解放される。
 ぼくのいちもつは、再び天をさすだろう・・・。

 いつのまにか娘が鼻歌を歌いながら、左足にまとわりついてくる。
 急いで固く口を縛る。
 鼻腔を開放すると、牛乳の残り香のシェイクの侵入。
 匂いのもとは、他にあるような気がする。
 ゴミ袋をダストボックスに運ぼうと足を踏み出すと、娘が嬉々として左足にしがみつく。
ブリキロボットのような歩行。
 娘の歓声が行進をやめないでとはげます。
 落ちていたビデオのリモコンを拾い、再生をおす。
 今朝だだをこねていた、ビデオの続きである。
 音は歓声とともに彼女をソファに誘い、落ち着かせる。
 エアコンをつける。
 そろそろヒーターも出す必要がある。
 勝手口をでると再び暗闇に飲まれる。
 ダストボックスにゴミを押し込みながら、しかし家庭の暖のあたたかみの炎が、胸のうちを照らし始める。
 娘がリモコンを握り締め、マーチといっしょに踊っている。
 リビングは華やかな音につつまれている。
 微かだが、鋭利な、異臭。
 あたらしいビニールをゴミ箱にかけようとした瞬間、動作が止まらせられた。
 最初、ラーメンの屑にしては、太いな、と思った。
 凍りつく。
 屑が、そり返り、丸まった。
 蛆だ!
  垂れた膿に、集っている。
  鼻をおさえた。
  なにも出ていない。
  理解ができない。
  原因に、頭が巡らない。
  まぎれもなく、蛆だ。
  15匹ぐらい。音もなく、うねっている。
  ティッシュを矢継ぎ早に引き出すと、かきだしてビニールに突っ込む。
  くりかえし、のたうつコリッとした感触を、押しこむと。顔を挙げた瞬間、首から冷
 水を浴びせられたように、痺れた。
  音もなく、娘が立っていた。
  彼女の顔は、レモンとかじった赤子のような表情で固まっている。
  左に傾け、耳から指がぬかれると、何か垂れ落ちた。
  瞬時に理解した。
  それは膿と、蛆であった。
  彼女を抱き寄せ、髪をかきあげる。
  髪にも、何匹か、絡まっている。
  口頭部の脈が、ぼくの頭蓋をこだまする。
  耳垂れに、蛆がまだ、たかっている。
  丁寧に取ると、耳にから口をそっとはなし、娘を呼んでみる。
  しゃくりあげる娘は、肩を震わせるままである。
  緊急事態だ。
  同様の臨床経験はない。
  額に手をあてがう。
  熱はない。
  彼女を抱きかかえ、寝室に運ぶ。
  ぼくの布団に寝かせる。
  熱湯をかけ絞ったタオルを用意し、温度が下がってからそっと娘の耳を拭う。
  ワイフは、引率旅行で、きょうは帰らない。
  口をヘの字にむすぶ。
  痛みも多少あるようだ。
  当直医に電話で、近所の耳鼻科専門医を検索してもらう。
  やはり、大学病院がよいようだ。

  救急外来の電光掲示板の光が、暗闇に浮かぶ。
  水銀灯が、建物の垂線を鋭利に研ぎ澄ます。
 いつまでも距離が縮まらない、目的地への行進。
 扉をかたで開けると、守衛がイスから立ち上がる。
 「先程、電話したものです」
 「ああ、耳の。大丈夫かい、お嬢ちゃん。
 なんでもっと早くきがつかないの」
 思わず息をとめ、相手を見返す。
 ちびの守衛は、精一杯背をのばし、己を誇張する。
 「だめだねぇ、そんなんなるまで子供、ほっといちゃ」
 頭のなかの破裂音、黒雲が胸一杯に膨らんでくる。
 「まったく今時の・・・」
 「・・・どっちだ、耳鼻科は」
 「はっ」
 「場所をきいてんだよ、バカたれ。きさま医者か」
 今度は守衛が息をのむ。
「俺はスタッフだ、貴様案内しないのなら、責任者を呼べ。手遅れになったら、ただじ 
ゃおかないぞ」
 泡をふいた犬になった守衛は、歯茎をだしてうろたえる。
 「耳鼻科はどこだっ」
 「Aの2の3階ですぅ」
 「Aはどっちだ?」
 「まっすぐですぅ」
 医療事務員が、走ってくるのが見える。
 娘は震えている。
 ・・・大丈夫だよ・・・
 娘に、言い聞かせる。
 医者は診察室の前で、ぼくらの到着を待っててくれた。
 メガネは、まるでワイフのを借りてきたみたいだ。
 痩せたカリフラワーのような茶髪の毛は、天然なんだろう。
 広い幅のおでこと、薄い皿のような唇。
 温和な表情と穏やかな語り口。
 ・・・お嬢ちゃん、痛い?そう。痛くないでしょ?・・・まぶしいねぇ~、
 これでよおく奥まで見えるんだよ。
 ・・・えらいねぇ、お嬢ちゃん。
 外傷は見当たりません。
 内耳を調べなければなりません。
 蛆がたかったのは、近年の例を見ません。

 戦後、広島・長崎の例が顕著です。
 わかりました・・・。
 命に支障をきたすとは考えられません。
 「念の為に、検査入院していただけませんか」
 「・・・それは、いつまでのことですか」
 「明朝まで、お願いします」
 「付き添いは・・・」
 「結構ですよ、先生もすこしお休みになっては」
 「・・・解りました。甘えん坊なんで、ご迷惑かけるかもしれませんが」
 「それなら、ご安心ください。慣れてますので」
 「では、今からですか」
 「改めて、お越しいただけますか。わたし明けになってしましますので」
 「わかりました」
「血酸、生化学と培養、CTオーダーします、九時にこの票を持って、外来に。解るよう にしておきます」
 「ありがとう・・・」
 朝日がまだ届かない、暗い廊下を娘を抱いて、歩く。
 寝息をたてている、娘。
 大きな仕事の後の安堵感。
 そして黎明。
 窓から差し込む、細く薄い、希望の光。
 一晩の別離がもたらす娘への苦しみが、胸に刺さる。
 いや、必ず時は流れるのだから。
たとえ、きみが一睡もできず、泣き続けても、その後、必ずぼくが暖かくその傷を癒し
てあげる。
 もしこれからの人生に、これからの一晩がなんだかの痕跡を与え様とも、必ずやぼくが全存在を賭けて癒し、それを上回る遥かに豊かな、人生を君にあげる・・・。
 娘の温もりが湯たんぽのようにしみる。
 なにがあっても、この小さな命の炎のぼくは盾になる。
 視界がときおり、波を受け湾曲する。
 守衛は開いた新聞に顔をつっこんで、微動だにしない。

「二日目」
 家に帰った頃、世の中が始動を開始しようとしていた。
 娘を起こすと、トイレへ行き、ジュースを肩を震わせて一息でのみ干す。
 炬燵で二人とも、うつらうつらする。
 そとが明るい。
 娘を布団に移し、のろのろと準備をする。
 すぐ出発の時間になった。
 こんどは娘を車に抱き入れ、シートに固定する。
 見ると、口をへの字に結んで、泣き顔をつくった。
 すぐ弛緩し、眠りに落ちる。
 秋の、見渡すと雲一つない、どこまでも青の、空であった。
 空気はりんとして立ち、風を生ませなかった。
 いつのまにか、郊外の小学校の校庭ほどの広さの駐車場は、車たちで埋まっている。
 矢印の白のペイントが、はがれかかっている。
 陽が励ます様に、僅かばかりの温もりを精一杯送り届けてくれる。
 忍耐の果てに必ずや訪れる、希望を考えていた。
 車と車の広くとられた、間隔の真中を歩いていると、道は真っ直ぐ正面玄関に続いている。
 真っ白で巨大な病棟に、安心をさがしている。
 起きてボーとしていた娘が、身体をヨジリ抱いていた腕から降りて歩き出す。
 娘の小さな手を少しでも多く包み込む様に、握り直す。
 娘もぎゅうと、握りかえしてくる。
 ・・・早く終わるといいね、終わったらりんごジュース、飲もうね。ずーとそばに居る からね、見えなくても安心しな・・・。
 薄い光の幕に包まれ、眩しさにふらつく。
 娘は力強く手を握り締め、ぼくを誘導してくれる。
 ぼくは娘に支えられている・・・。
 不治の病、小児難病、予想だにしなかった生を背負いつつ、明るく強く輝く子供を思い出す。
 何の気なしに記憶されていた姿の彼等に、痛く励まされている自分がいる。
 ぼくは、君等の姿にぼくらの無事を発見し、安心していたのに・・・。
 ぼくは、君等を見捨てたのに・・・。
 どこまでも青い空。
 まるで、永遠に続く道を、ぼくらはゆっくりと確かに、励ましあって二人で行進している。
 駐車場の入り口のゲートの横を通り抜ける。
 しばらくいちょう並木の黄色を踏みしめて歩くと、突然病院は眼前にそびえている。
 病院の影に入りこんだ瞬間、まぶしい漆黒にまた、瞼を閉じる。
 朝の守衛はどこにもいない。
 身体がおぼえてしまった診察室へ続く迷路のアトラス。
 水泳の時間が近づくにつれて憂鬱になる・・・。
 腹はいたくなり、景色はざらついて、音は遠のき手が痺れる、あの感覚・・・。
 並んで腰掛ける。
 やがて娘は、ぼくの膝によじ登る。
 彼女を抱きながら、いつまでも呼ばれないことをぼくは願っている。

 呼ばれた。
 不安気な看護婦と、目が合う。
 中に入ると、寄ってきて
 「今日はお姉ちゃんとお泊まりしましょうね~」
 と言うなり、娘を引き剥がそうとする。
 パニックに陥った娘は、ぼくの左手の薬指と小指を右手で、人差し指と中指を左手で握り締め
 「ないの、ないの」
 と口をへの字にし、泣き出す。
 やわらかな、まだ弱い、精一杯の力があまりに痛い。
 「パパいるよ、だいじょうぶだよ」
 と指ごと握り言い聞かせると、ひきつった笑みを浮かべた看護婦は、
 ぼくの手から娘の手を引き剥がした。
 言う間はなかった。
 娘のなき声が、こだまのように遠ざかる。
 手がジンジン痛む。
 それ以上にこころがジンジン痛んだ。

 曇空
 巨大な、黒く、くすみがかった灰色の、男根のようなたくましい煙突。
 煙突から煙が右上にたなびいている。
 煙も、重厚なビロードの絨毯のように広がって、その行方を探している。
 見つかってはえらいことになる、とぼくは逃げ出す。
 と、見つかった。
 煙は濃密な粒子を保って、ぼくに殺到する。
 見ると、黒い蛆だ。
 黒い蛆は、帯になってぼくの首をしめ、口のなかに殺到する。
 蛆の嘔吐。
 息が吸えない。
 飛び起きもがき
 電灯のヒモを叩ききる。
 ダウナーのH。
 タンスを開ける力が入りすぎて、ボールのように壁に叩きつけてしまう。
 注射器がない。
 台所に突進する。
 きびすを返して虫達も台所めがけて
 殺到する。
 食器棚を開けたところで虫たちに襲われた。
 視野を塞がれる。
 喉に詰まる。
 払いのけ、ストローを握り虫を吐き出し、払う。
 胃酸がこみあげる。
 座りこみ。
 喉から腹いっぱいに虫が溢れ、ゴミ箱に吐く。
 粉を鼻に詰め込む。
 虫は慄き、潮が引く様に隙間に一斉に隠れる。
 手の震えが止まる。
 虫がそぞろ隙間から、ゆっくり這い出してくる。
 すこし舐める。
 また、影に隠れ、うごめいている。
 粉を紙の上に広げ、一気にストローを鼻に入れる。
 深く突っ込みすぎて、鼻血が流れる。
 血が指の上で踊り出す。
 スニッフィング。
 いきなり世界はこむらがえり、
 猛烈なかゆみが、内臓から湧き上がり、皮膚に跳ねかえり、ソーダのように音をたてて一面に弾ける。
 起立した世界は、その後屈服し、大音響とともに轟沈した。
 やっと訪れた、粘膜質のオブラートの訪問。
 一呼吸おくと、訪れた静けさを確認し、冷蔵庫を開けると古ぼけたクリームシェリーをとりだす。
 口一杯にほおばり、飲み下す。
 隅々まで感覚が広がり、嘘のように隙間を照らしても、虫たちは撤退している。
ゼンマイたちの終焉。
 ようやく訪れた平和。
 暗闇と毛布と、豊満な乳房の添い寝。
 掻き毟った腕から垂れる血液を眺める。
 暖かな血液。
 限りなくいとおしい。
 そして、安堵と静寂。
 ベットに横になる。
 大切なことを忘れていたことに気付き、苦笑。
 子供を迎えにいき、しばらく休暇をとって寝よう。
 ひたすら寝て抜くしか、方法はない・・・。
 しかたがない、これで最後だ。
 新しい注射器をとりだす・・・。

「三日目」
 いつ起きたのか、わからなかった。
 なにをしてたのかも、思い出せなかった。
 気が付くと、ぼくはいた。
 手をひかれて用水路に沿った小道を、歩いている。
 コンクリートを容赦なく叩きつける、景色が霞むほどの夕立のような、日差し。
影がかみそりのように日差しをカットし、つくりだされた
 コントラストが景色を、鮮やかすぎるモノクロに染め上げる。
 深遠の闇に揺らぐ、魚の影。
 音を立てて降り続ける、日差し。
 むぎわら帽子。
 おそろいの帽子に半ズボン。
 天まで届く、虫取り網。
 虫取り網を担ぐ、父。
 白い開襟シャツ。
 路肩に生える、父のくるぶし程の、細く長くつづく野草。
 一年生くらいの、小さな僕。
 倍ほどもある、大きな父。
 見上げると、古い写真そっくりの、痩せていて頭の大きい、
 黒い厚手縁のメガネをかけた若い父が、穏やかな顔を前に向けている。
 ぼくと父は歩いている。
 小川の水は、見るからに澄んでいて、おいしくて、きもちよくて、入ろうとすると、父の足ともつれて足が宙に浮く。
 ぼくの足は地面に触れるたびスーパーボールのように弾かれ、つないでいる手を中心に   凧のようにぼくは舞う。
 父親に手を引かれて、ぼくはおとなより大またで、跳ぶ様に歩いている。
1歩ごとにジャンプしながら、景色が後ろに加速する。
 川を右に跨いで掛かる、木の小さな橋を渡ると、丁度父親の背丈ぐらいの高さのどこまでも続く、灰色の瓦がのった白いお堀にはさまれた、小道。
 いつのまにか、かなり遠くを走って行く父の後ろ姿。
 ぼくは父の手を握ろうと走り出し、父に向かっておもいきり右手を差し出すと、父はぼくの方を振り向いてメガネをとり、ニィと笑って手を、波にゆらぐ藻のようにくゆらせる。
つられて歩をゆるめ、挙げた手を振り返すと、名刺大の大きさの父は、堀を急に左に折れ、父のすがたは見えなくなった。
 子供がひとり歩いている。
 堀に沿って、子供は歩く。
 左手をすぼめた指先で、白い堀に線を引きながら、子供は歩く。
 線を引きながら歩いて行くと、右に折れる小道がある。
 堀が続いている。
 振り返ると、かなたに茶色の橋の欄干が少し、モノクロからはみだしてベロをのぞかせている。
 右に折れる。
 突き当たりまで、堀は続く。
 ぼくの背丈ぐらいの高さの、純白の塀で、ネズミ色の瓦が波打ち、続いている。
 子供が一人、歩いている。
 そのまま突き当たりまでいくと、また、堀に囲まれた小道が続いている。
 真っ白な塀で、背丈はぼくと同じくらい。
 頭には、ネズミ色の瓦をかぶり続く。
 堀にそって、ぼくは歩き出す。
 コンクリートをたたく真夏の日差し。
白い塀に描かれた曲線を離陸すると、小道の真中を飛行機の翼のように両手をひろげて、  
小道いっぱい蛇行しながら、ぼくは走っている。
 だれもいない。
 ぼくの倍ほどの背丈の、白い堀に囲まれた小道を、こどもは走る。
 堀の上のネズミ色の瓦も波打つ。
 急にぼくは走るのをやめた。
 今度は、ぼくの胸のポンプが、勢い余って波打つ。
 波が引くのを待って、そっと後ろを振り返る。
 堀に囲まれた小道が、つきあたりまで続いている。
  前をもう一度、振り返る。
 ぼくの倍ほどの背丈の純白の堀に囲まれた小道が、つきあたりまで続いている。
 前をもう一度、見る。
 ぼくの倍ほどの背丈の、純白の塀に囲まれた小道が、つきあたりまで続いている。
 ぼくが、歩いている。
 堀はぼくの背丈の倍はあって、堀のあいだの小道にそって、ぼくは歩いている。
 つきあたりまで行くと、道は二手にわかれる。
 左を見てみる。
 堀に囲まれた小道がつきあたりまで、続いている。
 右を、見る。
 ぼくの倍ほどの背丈の、純白の塀に囲まれた小道が、つきあたりまで、続いている。
 子供はふりかえる。
 するとぼくの背丈ほどの、純白の、塀に囲まれた堀が、つきあたりまで、見えている・・・。

 再び、子供は歩きだす。
 純白な塀にはさまれた小道の、固さを確かめる様に、歩き出す。
 堀の間の小道を、子供は歩く。
 純白の塀の上に、灰色の瓦を敷き詰めた壁が、正面に見える。
 突き当たりに近づくにつれて、壁は高く横に伸び、堀と堀との間に裂け目がはしり、また、塀にはさまれたいっぽんの小道があらわれる。
 ぼくはたちどまる。
 純白の塀にはさまれた一本の小道が、つきあたりまで続いている。
 ぼくは、立っている。
 真夏の太陽が、垂直にコンクリートを叩く。
 やがてぼくは、再び歩き出す。
 どこかでネコが鳴いている。
 純白の堀の小道を、ぼくは歩いている。
 ネコがどこかで鳴いている。
 陽が、急に陰ってきた。
 ずいぶんネコが鳴いている。
 陽が急に陰る。
 ネコが盛んに鳴いている。
 ぼくはつないでいる右手に、力をこめる。
 あたりはもう、真っ暗だ。
 鳴き声と手の感触と暗闇に、ぼくは包まれる。
 暗闇にいっせいに飲みこまれた。
 暗闇のなかにネコの声が響き渡る。
 時には高く、抑揚をつけて、歌う様に。
 闇が黒い霧になる。
 また、ネコが鳴く。
 奥から、充血した性器をぶらさげた、キャンディのような返事。
 随分近くで鳴いている。
 霧が、ぼくの身体を突きぬけて、物の輪郭を投射する。
 ネコが鳴いている。
 答えるネコも近づく。
 確かに、二匹。
 ほらまた、足のすぐ下あたりで、ネコが鳴いた。
 ネコの鳴き声・・・。
 ネコ・・・。
 なきごえ・・・。
 ようやく覚醒の兆候の自覚。
 反射的に身体をねじり両手で持ち上げると、手で寝床を蹴って台所の窓に突進する。
 鍵が掛かっていない!
 窓を上げると同時にまず、見ようと努力する。
 真下で、つぶれるまでにはいつくばり、今にも逃げ出しそうなネコが、こちらを見上げて短くわめく。
 こちらも負けじと褐色の空に向かって、力の限りの咆哮。
 一呼吸おくと、古い蛍光灯の点滅のように、ランダムに窓の灯りが、灯り出す。
 窓が擦れる音。
 控えめな咳払い。
 水銀灯の放射状の自己主張に浮かび上がらされ、光沢のマネキュアで死に化粧する、懐かしい団地の陰影。
 ばらばらにだが、そろって控えめに、ただし自分の足が浮くほどの大音響を立てて窓を閉める。
 とうとう垂れてしまった、一滴のむかつき。
 いきなり頭が熟れたスイカになる。
 触れられるものすべての肩を借り、どうにか寝床にたどりつつ。懐かしい、団地住まい・・・。
 いや、寝てる場合じゃない。
 熟れたスイカを切り取るために、台所に踊り出て、包丁を探す。
 ないっ、ちくしょう・・・。
 きびすをかえし、玄関を出ると階段を駆け登ると、上から玄関の扉の、重い開閉音が響く。
 とってかえすと階段を飛び降り、闇を裂き、坂をかけ下る。
 うねる四車線道路。
 鷲のように夜空に向かって今にも飛び立とうとする、高層団地群。
 全力疾走。
 景色も過激に上下動を繰り返し、団地は“飛ぶぞ、飛ぶぞ”と翼をそびやかす。
 なんでもいい、なにかないかっ・・・。
 規則正しい箱の行進。
 五階建ての12号棟。ここだ!
 手前から三本目の階段を二階にかけ上がる。
 表札が違う!
 再び走って階段を降り、隣りの階に移る。
 寸分たがわぬ鋭角な階段の入り口。
 豪快に一段抜かし。
 勢い余って扉にぶつかり跳ねかえる。
 だいいち扉の色が違う!
 渾身の力をこめた蹴りの連打。
 飛び降り、再び走る。
 とりあえず、すれ違った男を蹴りたおす。
 走りながら記憶をまさぐり、見当をつけてかけ込むがまた、
 表札がちがった。
 振り向きかけ下りる。
 今度は呼び鈴が違う。
 どこかで、叫び声が聞こえる。
 そのつど、胸の奥に居座った熟れたスイカが膨らんで、皮も薄くなり呼吸するたびに血管を圧迫する。
 手遅れの予感・・・。
 色が違う、表札がちがう、表札がちがう、呼び鈴がちがう・・・。
 突如、二筋の光の棒が、闇を切り裂いてこちらに向かってくる。
 助かった!
 止まった、止まった。
 かけよると、あわててハンドルに乳を押付けてイヤイヤする、
 鳥のような女。
 構わずドアを開けると、首だけイヤイヤしている女を2・3回殴ると、ようやく腕をハンドルからはずし、反対のドアから外に落ちて、起きるとよろけながら走り始め、闇にまぎれていく。

 やけに暗い・・・。
 電灯一つ見当たらない、たしかここは国道・・・。
 フロントガラスに覆い被さる、スモークガラスのような薄っぺらい霧。
 時折思い出した様に、乾いた母音の悲鳴をたてるワイパー。
 雨が斜めに落ちてきた。
 滴がアメーバになって、ランダムに触手を広げる。
 湖面の揺らぎ。
 センターラインのないハイウェイ。
 ほっとする間もなく、懐深く切り込んでくる対向車の二つ目のライト。
その都度、若葉マークの運転手のように、抱えこんだハンドルを身体できり、鋭角に修正される、走るべき方向。
 もやのようなフロントガラス。
 ブレーキを付け忘れた、車。
 オイルの上の高速走行。
 ようやく雨が、刷毛ではらったようにあがりはじめる。
 斜め左手に、雲を突きぬけて立ちはだかる針峰群のような、黒光りするビルたちの無言の着座。
 ビルに光沢を噴射し潤ませる、均等に付着された霧のなごり。
 インターチェンジにむかう側道に滑りこむ。
 Gがシャレコウベの内側を乱反射する。
 最初の交差点を右折。
 よく効くワックスで丹念に磨かれたビルたちは、熟睡し微動だにしない。
 硬く引き締まったアスファルトの照り返し。
 薄く盛り上がった、少女のようなセンターライン。
 均等に続く水銀灯の永遠。
 若干起伏のある下り坂の交差点の、赤しか表示しない点滅信号。
 このぼろ車までが夜のコンクリートを反射する光によって研ぎ澄まされ、神経細胞のようなレスポンスを発揮する。
 突然、カコンと、音を発ててたががはずれた。
 影の目覚め。
 無機体が、有機体に汚染されはじめる。
 影という影が夜目を利かし、突然うごめきはじめた。
 最初の小さな、沸騰の予兆。
 おもわず身震いし、うごめきを威嚇する。
 トキスデニオソシ。
 鉱物から虫への劇的な変身。
 頭が三倍ほど膨れ、はじける。
 膿に変ってしまった脳の重みに耐えきれず、重みでハンドルに頭が垂れ下がる。
いそいで意識をキュッと閉めるとパンパンに腫れて出口を捜す膿達。
 閉められたシャッターの錆びついた新聞受けから一斉に流れ出て、ケツを突き立てて羽化寸前に身震いする巨大な漆黒のゴキブリ達の群れを横目で見て通る。
 ぼくの頭蓋はとうとう、薄い皮一枚になって風船のようにふくらみ、中の何千という卵が一斉にうごめきだす。
 途端に霧が、黒いウジの粒になって、口めがけて殺到してくる。
 トキハキタレリ!
 すんでのところで先に、最後のカプセルをつまみ出し、ほうり込んで噛み砕く。
なんという劇的な、比類なき効果!
 たちまち万物はギュンと大きな音を発てて鉱物に戻ると、エナメルの光沢を放ち、静謐な都市の大合唱となってぼくの行進を称えはじめる。
 たぎりが沸騰し拳をふりあげる。
 この歓喜!
 耐えきれず肉汁が垂れ歯が欠けるほど強く噛み締めると、身体が勝手に踊りだし、すべてがコントロール不能に陥った。
 鼓動は速射砲と早さを競い、臨界点に達した頭蓋内圧の意識が、生のままシュレッターにかけられると、幾千もの咆哮が夜をこだまする。
 われに帰る。
 無感覚の嘔吐感。
 止まろうとするが、まだノロノロと走っている。
 走りながら止まっている。
 解毒剤がこんななら、今度は解毒剤中毒になりそうだ・・・。
 静かな大音響が近づいてくる。
 黒く乱反射する、光沢あるコンクリートの滑走路を行進すると、第九が硬質な観客のビル達の合間にこだまする。
 「フロイデン!」
 とうとう今、まさにぼくは完璧な知性とゆるぎない感性を手に入れた。
思わず嗚咽し、涙ぐむ。
 どこまでも続くわずかに隆起する滑走路。
 指揮者が存分に振るタクトにあわせてコーナーをトレースしながら、寸分たがわぬ理想のデフォルメ。
 長いキャリアの果てにたどりついた最後の晩餐の最高の出来映え・・・。
 突然、物のような記憶の断片が、自動放出されだした。
 ぼくは確かに、病院のソファに横になっていた。
 見覚えあるバイアーが、傍らに座っていた。
 バイアーは白衣を着ていた。
 やはり彼も医者だったのだ。
 ダウンしたあとのボクサーのように、ぼくは上体を起こす。
 もう一人、傍らに座っている男が静かにぼくのワイシャツを肩までまくり二の腕をゴムで縛った。
 いきなりの仕打ちに、いいわけを考えていたぼく。
 彼はヒルのように浮かび上がった、まだ未使用の静脈を探しながら言った。
 「あとはひたすら寝るだけです。
 月並みだけど頑張ってください。
 もうクスリのいらない生活がはじまりますよ・・・。
 さあ、お子さんのもとに帰らなきゃ。
 我慢できなくなった時だけ、この錠剤を噛んでください。
 最新の中和剤。
 ただしいいですか、最後の最後ですよ。
 すぐ使ったら、保証はできないから・・・。
 我慢の限界時に噛み砕いてください。
 そうしたら、地獄から、解放されます・・・」
 薄いブラウンの目のなかに映った、一瞬の黄昏。
 そういえば、彼も遥か以前から医者だったような気がする。
 期待した効果と、現実の不協和音。
 止められない体感。
 嘔吐の嗚咽が勝手に口をつく。
 テンションの、天井知らずの上昇。
 後ろに飛びつづける、街並み。
 少しの間とらわれた情緒は、微塵に砕かれた。
 頭が今度は、空焚きのヤカンになって悲鳴を上げる。
 今やダッシュボードには、見たこともない計器類が、所狭しと ならんでいる。
 なに一つ理解できず、途方にくれる。
 霧の中に放射状に拡散してしまう、暗いヘッドライト。
 ノズルの先端を回してみると、ワイパーがすごい勢いで飛び跳ねる。
 すべてのスイッチをつまんで、押したり引いたりしながら、因果関係を確かめ覚えようとするが、どれ一つとして反復しない。
 ハイビーム。
 対向車のクラクション。
 かすれたセンターラインが、ゆっくりとたちあがる。
 トラクションの良い、舗装路面。
 時々訪れる道路の継ぎ目が、固めのシートを通して柔らかく尻を突き上げると、自己主張を達成した震えの余韻を残し、立ち去る。
 近づくたびに、一斉に“きおつけ”すると御辞儀し後方に消える、木立。何時の間にか道は、山にさしかかろうとしている。
 隅々に具体性を増してきた後継に反比例して、さらにぼくの中の、時の流れの脈絡が壊されていく。
 目測に対応し路面を的確に踏んでいく奇跡。
 峠にさしかかった・・・。
 オン・ザ・レール。
 しばらくはブレーキを踏まない。
 予想していた通りこちらにむかって、威嚇し恐喝をしはじめた ガードレール。
 威嚇の強度に比例し、欲望が頭の中で回転しはじめ、焦点を結ぶまえに到来した次のコーナー。
 足が勝手にブレーキを踏む。
 勝手にハンドルを切ると、タイヤが轢かれた刹那の犬のような悲鳴を後ろに投げていく。
 左の森が急に軒を低くし、深く切れこんだ谷に吸い込まれるように、道はカーブしていく。
 再び加速し目前に迫る左曲がりのコーナー。
 今度は余裕を持つと充分にブレーキを踏んで減速し、白線をなぞりコーナーをトレースする。
 瞬間、ライトの端でガードレールが赤いベロをだし、ひらひらさせる。
 頭頂あたりで爆発した、憤激。
 飛び散り充満する化膿した匂い。
 ブレーキを踏んだことを後悔し、アキレス腱が伸びきるほど、アクセルを踏みこむ。
 一呼吸おき、呼応する猛り狂った、ジェットコースター。
 犬歯を剥き出しにしたガードレールが、懐に切れこんでくる。
 バウンドする視界。
 勃起した全身のあらゆる毛根。
 反射的にハンドルをきる。
 ハイスピードの蛇行。
 第一コーナークリア!
 スピードにのったボブスレー。
 アクセルを床にへばりつかす。
 あがりっぱなしのボルテージ。
 木立達が、巨大な男根になって全身を揺すり笑い続ける。
 ぼくの呼応しそり返って腹にくいこむペニスも、躁気がかった身軽さに、笑いつづける。
 強姦か、受精目的の性交時にしか味わえない、深くねじ込んで果てる爽快感・・・。
 見る間に迫り頭上に被さると波打つ、剥き出しのコンクリートのグレーの壁。
 平伏し避けるけるように右に急角度に折りたたまれた舗装路。
 反動をつけて食いしばると、いったん左にきったハンドルを、弾みをつけて思いきり右に切り込む。
 視界が45度に傾くと、生爪剥がされたタイヤの絶叫とともに、肩から天井に叩き付けられる。
 ロールの嵐。
 どこまでも切れつづけるハンドルにしがみ付くと、うわんという
 うなりとともに膨らみ、縁石に乗り上げてバウンドしたまま直接コンクリートにヒットする。
 はじかれ取り戻したグリップをコントロールしようとハンドルをこねるも大きく反対に振られ楕円軌道のまま次のコーナーに突っ込む。
 アクセルを緩めずに、構わずハンドルを左いっぱい切ると、たががはずれたようにまた、踏ん張りを失い、いきなり横向きに飛ばされた。
 餅付きのような音を発てて戻した、手応えのない軽すぎるハンドル。
地面を絶叫とともにタイヤが掴んだ刹那、今度は逆さ向きに弾かれて左前から斜めに、  
口を開け様としていたガードレールにもろに激突した。
 飛び跳ねる視界。
Dancing in the cockpit!
反対の壁にケツからヒットし弾かれ、そのまま路肩を踏み切り台にして、口をあんぐり開けた闇に頭からダイブした。
 無重力状態。
 スローモーションのような高速の放物線。
 空回り続ける、エンジン。
 焼け焦げるオイル臭が前頭葉を刺す。
 黒くびっしり と茂る小枝の葉の群れがいきなり視界一杯にあふれ、掻き分け始めた途端折られた枝が強暴な鞭になって、いたるところを叩きながら車内に殺到する。
最初の衝撃で、視界は真っ白にこまかく変形したフロントガラスのゆがみに一面に覆われ、間髪いれず見舞った次の一撃は、巨大なハンマーとなって視界を閉ざしていた真っ白な歪みをかなぐり落とすと、シャシーそのものをかしゃくなく歪ませた。
 立て続けに襲ってきたあらゆる方向からの激しいいたぶりにぼくは、小さな部屋のなかでシェイクされ続けた。

 わずか一秒あまりの記憶喪失の自覚。
 仰向けになって高速で枝葉を刈りながら、うなりをあげ続ける車輪。
 空の一番高いところで、顔を半分だけ雲の間から覗かせ、こちらをうかがっている満月。
 窓から上半身を投げ出して、仰向けに枝葉の即席ベットに横たわるぼく。
 首だけそっとあげる。
 辺りを見まわしてぞっとする。
 あと半回転したら太い幹に捕らわれたぼくの背骨は、1トンプラス加速重量を一身に受けポキリとへし折られたに違いない・・・。
 夢か・・・、幻覚か・・・、現実か・・・。
 たとえ夢であっても良い気持のしない体験・・・。
 月が綺麗すぎる・・・。
 確かに、まだ訪れてこない覚醒の自覚。
 車がら這いあがると、遥か上をのったくる水銀灯の道しるべを目指し、湧き上がってきた狂暴な衝動に力を託し、遮二無二今、瞬時に転げ落ちてきた藪の急斜面を枝を頼りにかけ上がる。
 握れるものは手当たり次第に掴み、ねじり、引っこ抜きながら、身体を少しでも高く、ずり上げる。
 木立がブッシュに変り、やがて崖になって、車道が近くなるにつれて急になる勾配。
 下を見ると車が逆さまになって震え、けたたましくタイヤで葉を刈り続けている。
 このままガソリンに引火したら丁度、ここならバーベキューだ。
 突然不意を突かれ、引き千切られた管からほとばしる樹液のむせる匂いが、蚊のようにうるさく、鼻腔にまとわりつく。
 思った以上にはかどらないラッセル。
 後少しというところ、緑の壁は垂直になった。
 頭上にみえる、厚化粧の不規則なタールの切断面。
 露出したコンクリートの切り口。
 手で拭うと、襟元になだれこんだ砂利が汗の下にもぐる。
 かまわず限界ののびをし、爪をひっかけせり上げる。
 シャンパンのコルクのように、爪が一枚、弾け飛ぶ。
 なんとか右足を振り上げ乗っかると、肘をかけてまず、頭を道路に寝かせ、反動をつけぼくは道路に大の字に転がった。
 目を閉じる。
 頬に押付けた、コンクリートの冷湿布。
 そのままの姿勢でぼくは待つことにする。
 夜の森の、音にならないざわめき。
 天頂の満月。
 樹液のむせかえるような吐息。
 夜明けはどの方角からやってくるのだろう・・・。
 覚醒が先か、いやもしかしたらこのまま、いつまでたってもこの現実のような夢は覚めずに・・・。
 いや、それもいいだろう。
 研ぎ澄まされた鋭利な切っ先。
 立ち上がるとぼくは、闇に向かって咆哮する。
 聴覚はコウモリを凌ぎ、臭覚は犬より鋭敏に。
 視覚を凌駕し、腕力はクマをも蹂躙する・・・。
 まさにぼくは今や、百獣の王だ。
 マッチが指先に触れる。
 全部点けて闇に投げ入れる。
 いっぱくおいて、大音響の炎のアーチ。
 炎の球はめくれながら天に登っていく。
 鎮火していく、車の炎。
 再び硬い静寂が、カーテンを降ろしていく。

 空気の揺れ。
 彼方から飛んできた、獲物の気配。
 風が運ぶ森のざわめき。
 錯覚かと思い、もう一度首筋を弛緩させ脱力し、目を閉じると、 全身を耳にする。
 突如、形をなすと、期待通りに渓谷をこだましはじめたエンジン音。
 山肌を縫い、谷にそって消えたり現れたりしていたこだまが、確かな連続音に変化し始める。
 ぼくは重心を低く身構える。
 ようやく昼間の熱を放射しきったコンクリート。
 もう少し・・・。
 あと三つ、
 あと二つ、
 あと一つ・・・。
 先の尾根の中腹の木立を光線が切り裂いて、はじめて音に比例した実体が姿を現し、一目散にこちらに向かって駆け下りてくる。
 ぶっとばすスポーツ・カー。
 ターボが笛のようなかん高い唸りを添える。
 サーチライトのように伸びたふたつの灯りは、尾根を真っ直ぐ左に横切り、ブレーキ音を響かせると、左コーナーをハイスピードでクリアし、正面にその姿を見せた。
眼球を破裂させるハイビーム。
 うなぎ登りの回転数。
 つられて訪れた天井知らずの気分の高揚。
 ぼくは路肩にうずくまり、目を伏せる。
 緩やかなコーナーを減速せずこなして急接近するスポーツカー。
 破裂するボルテージ。
 目を開けた!
 迫り来る二つ目の狂気。
 十二分に引き付けておいていきなり前に飛び出してやる。
 同時に襲いくるブレーキとタイヤの号泣。
 両手を広げ絶叫した瞬間、脛に突き刺さったノウズが見事に足をはらうと棒になった身体はボンネットにそのまま叩き付けられ、しばらくボディにめりこんだまま運ばれると、急停止にもんどうりを打って、真後ろに投げ出された。
 思いきり後ろに突き出した両手の平で、受け止めるより先に、尻をてこに鉛の球を落としたような鈍い音を発てて後頭部を激打する。
 鼻の奥で破裂した液体。
 鼻から頭の奥に突っ込まれた痛みの鉄柱。
 何事かを叫びながら降りてくる、トサカ頭をした、朽ちた老木のような若いドライバー。
 まけじと起き上がり、助走をつけて回りこむと、みぞおちをつま先で思いきり蹴り上げてやる。
 ライトを背にまるまった黒い影の塊。
 頭だけがカラフルなジャイアント・インコ。
 さがるとまた助走をつけ顔面に思いきりもう一発。
 今度はそいつが鉛の響きをたてて、したたか転がる。
 最新式のボディ形状。
 座席に回り込むと、レカロのシートに満足し身体をはめ込み、イグニッションをひねる。
 泣きさけぶエンジン音の金切り声。
 しまった・・・エンジンはかかってた・・・。
 そのままそいつをひいてやろうと思ったが、“オトナゲナイコトハヨクナイ”と口をついたため、遠慮する。重ステに上体を預け迂回を始める。
 ことの他膝を酷使する半クラ。
 足先の向きや形が変形して、どうも力がうまく伝わらない。
 かたまり始めた重労働の、餅をこねるような疲労感。
 瞬時に憤激に捕らわれ、バックするとひとおもいにふかしたままクラッチをミートする。
 砂袋に乗り上げた感触。
 同時に尻の真下から突然響いた絶叫に感電すると手足は踊り、ガードレールにまたぶつかって、止まった。
 バックミラーに映る砂袋のうごめき。
 視線をはずさぬまま丹念にギアをバックに入れなおすと、一気にアクセルを踏みきりクラッチをミートする。
 ナマナマしい衝撃と残響。
 ミンチされた飛まつが、フェンダーに飛び散りあたる音を聞きながらのフル加速・・・。
 ようやく高揚がコントロール可能になってきた。
 いそいでぼくは、来た道を引き返す。
 峠の下り坂だ。
 正面の東の空に浮かんでいる屑のような雲の下の方が、赤く焼けている。
 そのまた下に、まだ半寝ぼけの街並み。
 活動前の準備体操。
 窓をあけると、朝靄独特の鉱物の香り。
 火照った頭に心地よい、風。
 光沢を失った、モノクロ基調のキャンバスに、いろいろなもなが現れては消えて行く。
 おわんぐらいの大きさの、つんと上をむいた乳房のピンクの乳輪。
 大股で走り去った後の、巨人の足跡。
 高速で彼方へ飛んで行く円盤。
 津波。
 竜巻。
 ちいさな女の子・・・。
 いきなり新聞配達が横切り、路地に入り込む。
 血圧が急上昇するが、車は無視して通りすぎてしまう。
 左折する。
 軽自動車2台が、やっとすれ違える小道。
 見たこともなく、忘れえない街並み。
 右折し、家を正面に見て車を止める。
 行き止まりの袋小路。
 抜け出せない、デジャブの無限の反復。
 瀟洒な洋館が、座礁し暗礁にのりあげた難破船の残骸になってライトの奥で、静かに横たわる。
 “出発しよう”急いでバックにギアを入れると、突然門灯の点灯に心臓が凍り、氷水の汗が噴出す。
 逃げるんだ!
 早く、早く!!路地を引き返す。Uターンし加速した視野の右隅に小さな残像がのこる・・。
 それは得体の知れぬ怪物ではなく、細い女性のコントラストであった。
 だからぼくは、暴走を開始した。

「最後の日」
 朝、事件が起きた。
 K街道の上りは朝の交通ラッシュを迎えていた。
 その時坂上のバス停には13人の待ち人が、整然と列をつくっていた。事件は突如短時間に彼らに振りかかった為、客観的な情報が不足している。
 ただ一人、女子中学生が詳細に一部始終を記憶していた。
 以下は、婦警がまとめた口述筆記の調書である。

あのさ、ぜって~ずりぃーよ、大人のほうが。
まるで宇宙人あつかいだぜ、中学生のこと。
おもいろいよぉ~、ちょっとおどすとえばってたのが、
目つりあげてびびっちゃって。
あれじゃ中学生のきもちなんか、わかるわけないよね~。
みんなはりつめて、つかれてるんだよ、中学生は。
わからないことだらけじゃん、世の中って。
遊びまくってるくせして、人には遊ぶなってなんなんだろうね~。
だいいち、子どもの頃きれまくってたのは大人のほうだよ。
突如、わかんない顔になっちゃって、いきなり殴るの蹴るの。
やりたい放題。
まだおぼえてるよ。
おしっこしたかったんだ。
それでぐずったら、いきなりパンチ。
つかれてるのよって、背中おもいっきりつねりあげて、
ひとに見えないようにだよ。
しんじらんないよねェ~。
そのうち本当にきれちゃって、カラオケ、旅行、したいほうだい。
その間こっちは、やりたいこと全部飲みこんでカップラーメン。
あのさ、ほんとうは、そばにいてほしいんだけなんだよね~。
ちゃんと目と目を見て、「元気?」それだけで充分なんだけどなぁ~。
でも無理かもねぇ~、大人も大変そうだし。
あのね、ぼくたちにも怪物にみえるよ、おとなが。
なんかテレビでいってるじゃん。
ナイフなんかで刺しはじめちゃったもんだから。
子供はどうしたのかとか、未来はなんだらかんたらって。
でもね、なんでおとなが悪いってだれもわるいのかなぁ~って
不思議。
みえっぱり、たんき、なんだっけ?欲ボケだっけ?
かっこうつけで、かげぐちばっかで、「なに考えてるのかわかんない」
なんて言ってるのみるとびっくり!おめぇ~らのことだろ、それ全部!
わたしたちが、真似してんだよって!
テレクラで、きったねぇ~オヤジにやられまくられて、おまけに金くれ
ね~で、
「好きなひととやるべきだ」
なんて言われた日にゃ、手首きっちゃったよ、ちょこっとだけどねぇ~。
未来がないの・・・。
昔は、すこしだけど、あったの・・・。
夢なんて意味ない。
実感わかない。
・・・。
うん、
まってたんだ。
バスを。
わたしが見たのはね、
一台だけ変な車が走ってたの。
ボリュームガンガンで、窓全開で。
おまけに運転している人が、目から鼻の下まで真っ赤のメイク
してて、白目だけぎょろぎょろ目立って。
ちょっと走っては、ノロノロ。
車間なんてまるで気にしてないの。
前みてないし。
捜してんだよねぇ~。
キョロキョロしてて。
目があったとき、「こりゃヤバイ」と思ったね。
すこし上り坂じゃん?
信号まちで、前の車の間に隣りのトラックが割り込んだ途端
に、クラクション鳴らしっぱなし。
いきなりぶつけたの。
ちがうよ、トラックに体当たりしたの、車ごと、そいつが。
トラックの運ちゃんがおりたら、そのメイクのひと、モウダッシュ。
こんなの・・・バールっていうの?
それでいきなりめったうち。
首に刺さって、血吹いたところでぼく、逃げたんだ。
うしろの階段に。
うん、殺しにくると思って、目あったし・・・。
だいぶ登って下みおろしたら、バス停の人達固まって
まだあっけにとられてんの。
後ろの車は、わからないもんだからクラクションのあらし。
メイクの人は、また車に乗ってもうダッシュ。
トラックの運ちゃん轢いて、蛇行してバス停の前までくるとまた、
減速してトロトロ走って固まっちゃった人達の顔をのぞきこんでるのよ。
おばあちゃんが叫んで。
もう一人、元気なおにいさんがなんか言ったの。
そしたらメイク、目むいて前むいて走り出して、
おにいさん走っておいかけたわ、車。
逃げたと思ったのよ。
終わったかな・・・ってほっとしたんだ。
そしたらそいつ、
坂登ったとこの交差点でぐるりとUターンしたの。
ぞっとした。
ぼくも固まったよ。
こえ~もん。
うん、がちゃんと音してたよ。
二・三台とぶっつかってた。
他の車は急停止。
そしたらぐるりと大回りして速度をあげて
歩道にのりあげて
ぼく、にげてって叫んだんだ。
だけど、ちっちゃな声しか出なかった。
あとは一気に下ってきて。
そう、歩道を。
ゴンゴンいる人全部、轢いたり、弾き飛ばしたり・・・。

「そして・・・」
 覚醒。
 沸騰した脳。
 発作に襲われ勝手に指が踊りだし、手ごとハンドルに叩きつけようやく収まる。
 全身の血の最後の一滴まで脳に殺到し少しも下がろうとしない、逆上。
 ダウン・ザ・ロード。
 ほんとうにこれは夢だろうか・・・。
 そう、ぼくはたしか最初父の夢をみていた、いや、妻との行為の夢?
 疑問が、垂らされたインクのように広がっていく。
 言葉にならないもどかしさにぼくはうめく。
 突然直前に合った視線の、奥に広がる毛細血管の管の襞。
 そろそろ夢に終わりを告げよう。
 ぼくは重大な忘れ物をとりに、直ちに帰らなければならない。
 ただちにだ!
 瞼をあげる力が緩み、アクセルを踏む力も緩む。
 なりをひそめる音、光、振動、そして後続車の気配・・・。
 このまま寝入ったらきっと心臓までも、永久に鼓動を失い・・・。
 まだ来ない後続車。
 波の様に逆上が意識を刈り取ろうと、襲いかかってくる。
 反射的にアクセルを踏む。
 力を込めると、万力のように作用し、アクセルは床に張り付く。
 白い蜘蛛の巣と化したフロントガラスを殴りつけ剥ぎ取る。
 一発ごとに剥がれる飴の板。
 膝の上で乱反射する透明のザクロ。
 吐き気のような酔いが盛り上がる。
 ゆっくりとちらばった破片を集め、こねてそのまま硬く拳を握りしめると、搾り立てのトマトのように紅のしるが湯気を立ててしたたる。
 ほら、痛くないぜ!
 人が歩いている。
 ほらっ、別にこっちなんか気にしてないじゃないか!
 いつの間にか、振って沸いた後続車たち。
 サイレンが近づく。
 身体が引き締まる。
 さらにもう一台、パトカーのサイレンのハーモニー。
 路地へ左折。
 右側に見えた月極めの駐車場で、Uターン。
 来た道を登りはじめる。
 対向車が少ない、国道の下り車線。
 時速60キロ。信号待ちだ。
 対向車線の運転手たちの目をむいた視線が、再び我を呼び起こし始める。
 辛すぎる夢から覚める前に、また誰か道ずれにしてやろうか・・・。
 橋にさしかかる前の長い下り坂の直線道路。
 警察のワンボックスが知らせる、「事故」の大きな看板。
 無数の交差点の停車車両。
 まさに黒山の人だかりだ。
 のろのろ運転。
 近づくにしたがって憤りがむくむくと湧き上がり、胸を圧迫する。
 バス停。
 高いところから、ばら撒かれた人形のように、無造作に横たわる、
 変な方向をむいてすでに無機体に還元された有機体の残骸。
 おおいかぶさる救助隊員。
 すぐには信じがたい光景。
 もう無理だって・・・そいつは。
 渋滞。
 交通整理。
 現場検証。
 のろのろ運転。
 途端にあがった悲鳴が冷気を切り裂いた。
 見ると老婆がわめきながら、こちらにむかって腕ごと投げ出し向かってくる。
 どよめきが波になって周囲に伝わる。
 一斉にこちらを注視する、野次馬たち。
 そのうち、何人かが老婆のヒステリーに伝染し、口々に叫びだし、一人は警官の肘をつかまえ、反対の手は真っ直ぐぼくを指している。
 こちらを注視した警官の、血走った眼球。
 極端な減速。
 みまわれた震えの、ノッキング。
 せかされてクラッチを切ると、きり返しをはじめる。
 不安。
 呪いの言葉。
 覚醒の前兆・・・。
 叫び声のリレー。
 耳についた
 「犯人だ」
 の声におもわず苦笑すると、突然窓の脇に仁王立ちした警官が、腕を伸ばしてぼくの右腕を乱暴に窓からひっぱりだし、ねじりあげる。
 無抵抗に見舞われた、突然の激痛。
 振って沸いき像を結んだ突然の外界との因果に驚き、さらなる節々の激痛に海老ぞる。
 「どうしたんだ、これは!なんなんだおまえ!降りろ、エンジンを止めろ」
 ひとことひとことが張りのある、しっかりとした低音のダミ声の存在感。
 痛みと恐怖のパニック。
 「はなせっ!」
 腕を交差し襟首を掴むと、体重をのせて首を締め上げてやる。
 窓わくに腕をついて首を引き抜こうともがく警官。
 突然警官が力を抜く。
 反動で身体ごと引き込んでしまう。
 拳銃を握った警官の腕がいきなり眼前を泳ぎ顔に近づく。
 思わず手首を握って押し戻すと、グワンと破裂し警官の血が飛び散った。
 鼓膜の暴発。
 右手の焼けた痛み。
 砂袋とかしてしなだれかかる警官。
 両腕で今度は、窓に向かって身体を押し出す。
 怒号と走り寄る靴音。
 車を叩く音が、車内を反響する。
 痛みを押してクラッチをミートし、ギアを両手で入れた。
 ホイルスピン。
 同時に又腕が二本、窓から侵入してきてハンドルを鷲づかみにする。
 アクセルを踏むとハンドルから離れた手は、襟をつかんで離すものかとしがみついてきた。
 ぐわんとまた爆発音。
 左肩が衝撃とともに破裂し、熱くほとばしる。
 続いて、痛みがまた因果をつくり視覚と脈を揺らす。
 パニックと痛みの打撃。
 車が左右から体当たりしてくる。
 ケツを叩かれて、ふらつく。
 アクセルをベタ踏みしているため、車は弱い出口を捜し押し戻す。
 首を絞めていた腕が、根元から千切れ棒になる。
 視野を黒い幕が降り始めた。
 反射的に打たれた腕をよじると、すさまじい絶叫が口を突く。
 洪水のような耳鳴り、吐き気、鈍痛、激痛、痺れ、悪寒、熱発。
 鉄の柱を胃から搾り出そうともがく。
 もう少し・・・。
 左折、そう、まっすぐ・・・つぎを右折、ひたすらまっすぐ・・・見えてきた
 そこを右折。斜めに入って生垣を左道なり、門から地下に入り込みあとは惰性、近い白ワクにくるまをはめこむと、ドアをこじあけて、車から這い出す。
 あと十歩足らずで裏口。
 娘とよく来たデパートの、裏口・・・。

「ダウン・ザ・ロード」第2話 URL

https://note.com/satoru0616/n/n7c6b08c062c0?sub_rt=share_pb

#創作大賞2024 #ホラー小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?