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信用創造⑨政府からのプレゼント~財政支出による預金創造について~


 前回の預貸率の話の続き


前回の記事で預貸率という指標、つまり貸出金残高を預金残高で割った値はすべての銀行を合わせて考えると約60%位の水準だというお話をしました。
銀行は預かった預金の一部を貸しているのではなく、貸した瞬間に新たな預金を生み出し、返済を受けると預金は消滅します。そう考えると、預貸率は全体でみると常に100%になるのではないか?と考えられますが、実際には60%です。



その理由は、預金が生み出されるのにはもう一つのパターンがあるためです。それは政府の財政支出による預金の増加です。具体的には年金の支払いや公共事業の代金の支払いのために増えた預金です。これらが分母に算入されるので、預貸率は100%にはならずに今の60%程度の水準になっているのです。

今回は政府の財政支出のしくみを説明するとともに、政府の国債発行も信用創造の一種ととらえることができる、ということについて解説します。
 

政府が国債発行をして財政支出をすると、預金が増える!

 政府が国会で決議した予算に基づいて国債を発行し、調達したお金を使って予算を執行します。つまり、お金を使うということです。具体的には以下のプロセスで行われます。

財政支出のプロセス①


まず、銀行が日銀当座預金を使って購入します。銀行預金は銀行にとって負債なので国債の購入に使えないということに注意してください。銀行の日銀当座預金から政府預金に数字が振り替わります



財政支出のプロセス②


次に政府は民間の銀行に対して財政支出を行う相手に対して預金の支払いを依頼します。具体的には年金受給者や公共事業を受注した企業の口座の預金残高を増やすということです。

銀行は預金という負債が増えた分、政府から日銀当座預金を支払ってもらいます。これは振込によって銀行間で預金の増減があった時に銀行間で日銀当座預金のやりとりをして調整するのと同じ話で、銀行にとっては預金という負債が増えた分、日銀当座預金という資産を増やしてもらって調整を行うのです。銀行は国債を購入したときに使った日銀当座預金が戻ってきたことになります。


財政支出のプロセス③

国債の償還期限が来たら、政府は国債を買ってくれた銀行に対して政府預金、つまり日銀当座預金を支払います。銀行は保有していた国債という資産が消えて、日銀当座預金に変わります。政府に対する貸出金が返済されたということです。政府は国債という債務が消えると同時に政府自身が保有する政府預金も減少します。


よくある誤解に『銀行預金を使って国債を買っている』というものがあります。政府の国債発行を批判する人はよくこのレトリックを使うのですが、
事実はむしろ逆で国債を発行して財政支出をすることで民間の預金は増えていきます。国民にとっては、政府の財政支出によって受け取るお金は年金のようにもらったお金や、公共事業の代金のように働いて稼いだお金ですから、借金を背負ってお金を受け取っているわけではありません。


国債発行は信用創造の一種であるという話


個人でも国債を購入することはできますが、多くの人にとって国債というのはあまり身近なものではないと思います。国債をたくさん発行するといつしか、国の財政が破綻するとか、国民に重税が課されるということを信じている人もいまだにいます。

実は政府による国債発行、財政支出は民間の預金を増やすという意味で信用創造、つまりお金の発行と同じ効果があります。
ただし、国債発行は銀行による信用創造とは異なる点も多く、信用創造について理解している人でさえ、国債が信用創造であることを理解するのにはかなりてこずります。以下準を追って説明します。

国債というものを通貨とみなした場合、発行者はもちろん政府です。通貨を発行すると、発行者は負債を計上します。預金は銀行の負債、日銀当座預金は日銀の負債、国債は政府の負債ですので、共通性がありますね

ただし、難しいのはここからです。これまで説明してきた通貨では、発行者イコール貸し手でした。しかし、国債発行の場合、政府は国債を銀行に買い取らせることによって政府預金を手に入れます。あたかも借り手のようですね。自分で国債という通貨を発行して貸し出した相手が政府自身なのです。実際、国債とは政府の債務であり、政府はお金を借りた立場として予算を執行します。この財政支出によって民間の預金が増えます

国債が償還されると、国債が消えるので国債の発行者である政府の債務が消えます。同時に借主の立場として国債を買ってくれた銀行に対して政府預金を支払います。

銀行による信用創造つまり貸出は返済を受けると、貸し出す前の元の状態に戻ります。つまり銀行の信用創造によって発生した預金通貨が消滅して銀行も借主も元の状態に戻るのです。

しかし、国債の場合は違います。国債を発行して償還を終えた政府は、国債を発行する前よりも国債の金額分だけ手元の政府預金を減らしています
反対に財政支出によって民間の預金は国債を償還した後も増えたままとなります

今日のまとめ


今回は政府の国債発行および財政支出が信用創造の一種であるというお話をしました。国債を発行し、財政支出を行うと民間の預金は増えます。
国債発行が銀行の信用創造と違う点は、政府が通貨の発行、つまり貸し手の役割と借主、つまりお金を使う人の立場を兼ねていることです。国債を発行することで手に入れた政府預金を使って年金を支払ったり、公共事業の代金を支払ったりします。

銀行の貸し出しが返済されると、預金が消滅して元の状態に戻りますが、国債の償還は違います。政府は国債を買ってくれた銀行に対して政府預金を払うことで国債という債務を消滅させます。政府は国債を発行する前よりも政府預金が国債の金額分減りますが、民間の預金は逆に国債の金額だけ増えます。国債発行とそれに続く財政支出は、要するに政府から民間に対してお金を送金しているようなものです。

今回は以上になります。




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