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自由詩、散文詩

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現代の日本語による自由詩または散文詩
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2024年1月の記事一覧

[詩] 消える

[詩] 消える

この駅を出るともう店がないからもう少し買い足しておこう、と言ってJ氏は売店に寄る。板チョコはエネルギー補給にも使えるし、包み紙の銀紙があとで役に立つからな、ほら五枚買えたぞ、と満足そうに品を受け取る。すぐに山の方へと歩き始める。向こうの橋の袂から沢を登るんだ、と指でさしつつ先を急ぐので慌ててついて行った。

J氏は近所に住んでいる。親子ほど年が離れているものの子どものいないせいか、いろいろなことを

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[詩] 筆と石鹸

[詩] 筆と石鹸

大きな赤い屋根のうちに先生は住んでいた。一階の扉が大きく開くアトリエで、古代ギリシャ人みたいな髪と髭をしていつもひとり絵を描いていた。

〈見たままに描くんだ〉と、教えた。なめらかに筆を動かして艶のある色を塗った。太めの筆の少し上をつまむように握ってパレットで色をつくると、筆の先から色彩がひとりでに流れでてゆく。〈目に入るけしきに空白はないだろう。だからどの色も大切にしてキャンバスを埋めてゆくんだ

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