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自由詩、散文詩

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現代の日本語による自由詩または散文詩
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2021年1月の記事一覧

[詩]白鳥

[詩]白鳥

「コーヒーをお願いします」
「カフェ・オ・レをお願いします」

五秒の間 空を見てから
  「はい」
三秒の間 にっこりと、笑う

マスターにオーダーを伝えて
いつものようにこぼさずに 運ぶ
そう、いい調子 いい感じ

ギャルソンもマダムも 見ています
がんばらない がんばらない
これでも力を合わせて 見ています

ゆっくりゆっくりやって来た来た
  「はい どうぞ」
「どうも、ありがとう」

[詩]はじまり

[詩]はじまり

オレンジ色にぼんやりと明けて
夢の裾から抜けだす朝
明るみにうすく目を開くと
 天井をまだらに横切ったのは
  見ていたはずの夢の名残りか
   昨日のつむじ風の切れ端か、いや
  子どものころの記憶の影だろうか
 首と手足が胴体に繋がり出せば
朝日の染み入る微かな音……
カーテンは金色に燃え
窓を開ければ風がはやしたてる
この街のざわめきと
この街で生きるものに、今日こそ
向い合うと誓うがよい

[詩]風が吹いて

[詩]風が吹いて

何でもゆっくりのさとこちゃん
自慢の長い髪で散歩するのも
人と話すのも座ったままで
ゆっくりゆっくり

坂にさしかかったとき
ふと
〈こんにちは、さとこちゃん〉
と、明るく呼ばれた
顎の軌跡を記録させるように
ゆっくり振り返ると
すうっと風が吹きこんできた
髪がふわりとふくらんで
また肩まで降りてくると
息をととのえてから大きく開く口
〈 こ・ん・に・ち・は 〉
と、遠い人に言った

二人は朗らか

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