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ニューヨークで通用した 1 on 1 Meeting

背景

私は3年弱ほど、ニューヨークでソフトウェアエンジニア(CTO)として勤務していました。いわゆるしっかりした大手企業の駐在という立ち位置ではなく、スタートアップ企業のニューヨーク進出の先遣隊として行ったわけなので、ノウハウゼロの状態で、右も左もわからない状態で模索しながら仕事をしていました。

アメリカに進出して事業を大きくしようとしているのに、日本人だらけの組織でやっていてもしょうがないわけですので、最初から半分は非日本語話者という構成でチャレンジしていました。

新規事業ですから、思ったように事業が伸びないのは想定内でしたが、その中で、思い返すしてみると不思議なほどうまくいった点がありました。それが、部下のマネジメント、特に 1 on 1 ミーティングです。

アメリカで恐れていたこと

現地法人をたて、自分のアパートの契約を終え、身の回りのもろもろを整え、招待制β版アプリをリリースし、一息ついたあたりで本格的にソフトウェアエンジニア採用をはじめました。

日本でもエンジニア採用をやっていた私にとっては衝撃でしたが、ニューヨークでは1ヶ月もすれば3人ぐらいのエンジニアが入社します。日本だと、活躍している人ほど1ヶ月以上現職に関わってから転職しますが、人材の流動性が高いニューヨークでは、思い立ったら2週間ぐらいで辞めて、次の職場に行くのが普通です。(おもしろいことにジョブホッパーが嫌がられるのはニューヨークでも同じです。)

そういうわけで、あれよあれよという間に、日本語が一切通じないソフトウェアエンジニアが3名、部下になりました。ニューヨークでは書類→電話面接→対面面接→オファー、というような流れが一般的です。ただでさえ英語がおぼつかないのに、電話面接で相手を見抜くというのは相当な訓練になりました(笑)。渡米6ヶ月で自分でも感じるほどメキメキと英語が上達したのを覚えています。

なんとなく英語で言いたいことが言えるようになった時期だったわけですが、このとき私が強烈に不安視していたのは文化の違いによる組織の崩壊でした。エンジニアって、障害対応で夜の対応をする必要があったりするけど、大丈夫かな?日本人みたいに働くのかな?とハラハラしていました。自分では気づきにくい「常識」と格闘するには、結局、部下たちとのコミュニケーションを欠かさないことが不可欠と思い、毎週30分の 1 on 1 ミーティングを行うことにしました。

ありがたいことに、1時間でも終わらないほど議題を持ってきてくれるメンバーもいて、6人ほどに部下が増えたときはヘロヘロになりました。

非日本語話者の部下のマネジメントで起こったこと

結論から書きますと、この 1 on 1 はやってよかった施策の第1位に輝くと思うほど、うまく機能しました。「機能する」ということの定義はいろいろとありますが、私の場合は 1 on 1 に下記を期待していました。

ミスコミュニケーションを素早く察知すること
信頼関係を構築し、事業に全力を投じることができる環境を整えること

結果的に、ミスコミュニケーションはほとんど起きず、信頼関係が築けなかったなということは、当初恐れていたより全然起きない状態となりました。下記がその理由だと考えています。

・英語が苦手だからこそ、傾聴する

私の考えでは、1 on 1 はほとんど部下が話すべきだと思っています。仕事の命令を行う場ではありませんから、部下の成長を促したり、部下の悩みを解消したり、チームの歪みを整えたりするのが主目的です。

基本的に、人は興奮すると話すのが早くなります。また、自分のことだと興奮しやすくなり、また弱みをさらけ出すときは防御的になるので、さらに話すのが早くなります。つまり、1 on 1 で相手の本音を引き出せば引き出すほど、英語のマシンガンを浴びせられます。

聞き漏らすわけにもいかないので、ものすごいがんばって傾聴するわけです。傾聴すると、どうやって返事をしようかなと考えるのがワンテンポ遅れるので、相手は次の話題にいってしまったりします。

くそっ英語がんばらなきゃ、と思っていたのですが、半年ぐらい経って部下からフィードバックをもらうと、おもしろいことがわかりました。母語である日本語でペラペラ会話をするよりも「じっくり人の話をきいてくれて嬉しい」という評価になるのです。怪我の功名ですね。1 on 1 では有効なアドヴァイスも欲しいけど、とにかく聞いて欲しいということなのだと思います。(1 on 1 では、普通の会議体では話しにくい個人的な話になりやすいため、この傾向が強いのかと思います。)

「話をきいてくれて嬉しい」程度のことがなんだ、と思われるかもしれませんが、結局のところ私を信頼してくれるようになるので、仕事も当初任せた範囲以上の仕事をしてくれたり、休日でも言っていないのに障害対応をしてくれたり、チームとして仕事をしてくれるようになりました。

・英語が苦手なので、自分の言葉で言い換える

ニューヨーカーは英語が早いといわれますが、私は早さ以上に慣用句に苦戦しました。すごく簡単な動詞と前置詞の組み合わせなのに、何を言っているのかわからない。

そういうときはどうするかというと「今のってこういう意味?」「こうやって理解したけど合ってる?」と言い換えて聞き返します。これは相手に嫌がられないばかりか、喜ばれます。「あーっと、そこは正確にはこうだね」というやりとりからお互い深く理解できますし、この人は傾聴してくれているなと感じてくれるわけです。

私は問題解決志向が強いので、解決案が浮かんでしまった場合は「3つの案があるんだけど、これらで解決できるかな?」というのを聞くようにしていました。そうすると、「どれでもダメだ。なぜなら・・・」という話につながるため、相手の言うことをまた深く理解できるのです。

彼らは議論慣れしているので、マウンティングを取ることもなく、人格を攻撃してくることもなく、ただトピックに関して議論を深めることができるので、1 on 1 がやりやすかったなという印象もあります。

まとめ

英語を使った 1 on 1 を通じて、改めてチームビルディングにおける「傾聴」の大切さを思い知り、この記事を書きました。

母語だと、相当高速に話しても通じますし、表面的な話でもなんとかなってしまうし、いちいち言い換えを行ったりしません。外国語を使って傾聴することは、特にリーダーに取っては大きな気づきをたくさん与えてくれると思います。

日本でも、職場に非日本語ネイティブが増えていると思います。思い切って、英語でコミュニケーションしてみると、違った楽しい世界が見えるかもしれません。


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