先生記録 No.7 常勤講師一年目(5)
入学式向けの打ち合わせこと軍議から数日たった週末。
不安だらけではじまった入学式当日は予想に反してあっさりと終わった。
あとで聞いたところによると、式やホームルームの間には上級生と警備の先生との小競り合いがあったらしい。
しかしその日は新入生に大きな影響は出ずに済み、式はつつがなく終了した。
入学式後に各クラスで実施されたホームルーム。私はマンツーマンの生徒付きで学年主任が担任をするクラスに入り、初めてサポーター教員としての役割についた。
ケラケラ笑ってみたり、明確な意味言語でない言葉を大きな声で言ってみたり、突然立ち上がったり机を叩いてみたり、教室を飛び出したかと思えばトイレにかけこんで裸になっていたり、初日は生徒についていくだけで精一杯となった。
各クラスのホームルーム後は、支援学級在籍の生徒と保護者のみを支援の教室に呼び、別にホームルーム。
中一の支援級生徒は6名。
マンツーマン対応のAくん。
おしゃべりなBくん。
紅一点のCさん。
寡黙なDくん。
生真面目なEくん。
そして入学式を欠席している不登校傾向のFくん。
初めて受け持つことになった生徒たち。
保護者の方々への挨拶では、素直に大卒の新人であることを伝え、いろいろと生徒のことを教えてもらえるよう、お願いした。
この日の午後より、一年生の学年団、そして一年担当のサポーター教員に加え、新たに三つ目の仕事もスタートした。クラブ顧問だ。
入学式前には「受け持ちクラブ希望表」が配られ、担当したいクラブを1〜3位まで書いて申請するという、小学校のクラブ活動のような進め方がクラブ顧問の始まりだった。
私の希望は1.野球部、2.ソフトボール部、3.パソコン部。中学から高校にかけて軟式野球を経験していたことから、せめてルールのわかるものが良いという単純な理由で希望表を提出。
結果として、ソフトボール部の顧問に就任することになった。
そして受け持ちクラブが決まった当日、サポーター教員が決まった時と同様に教頭に呼ばれ、校長室に。
校長室で管理職二人から、ソフトボール部についての説明を受ける。
・半ば地域のクラブチームと化していること。
・平日は下校時刻まで学校でアップ代わりの練習を行い、その後は地域のグラウンドで本格的な練習をしていること。
・休日の指導は地域の外部コーチが担っていること。
・校内では昨年まで、技術指導ができる教員がいなかったこと。
・少しずつ地域のクラブから学校の部活動に戻していく予定であること。
・昨年度、全国大会でベスト16まで進んでいること。
・主顧問は昨年度から顧問をしている教諭だが、競技未経験のため指導は基本的に担って欲しいということ。
よくわからず、「ひとまずグローブを持ってきておきます」とだけ答えた私。このクラブを受け持つことの深刻さを、この時点ではまったく理解できていなかった。
入学式後の午後が、校内での今年度初練習。
大学の四年間でほこりをかぶったグローブを手に持ち、私は初めてのクラブ指導に向かった。
運動部はグラウンドや体育館をローテーションで利用していて、その日のソフトボール部はグラウンドの端の内野程度の広さが割り当てられていた。
ソフトボール部の生徒たちと初めての顔合わせ。
これまで技術指導のできる顧問がついていなかったということで、私が野球経験者であることを告げると生徒たちは拍手と歓声をあげて喜ぶ。
そうして始まった練習を見て、私は愕然とすることになった。
なにをどう教えて良いのかわからないほどに、上手い。
全国大会に出ているということは、昨年県でNo1になっているということ。
それこそ、ソフトボールで高校進学をするような生徒の集まりだ。
支援学級を担当するサポーターよりも、クラブ顧問への不安が膨れた入学式だった。