【詩】孵化

殻の中で私は想う、
太陽はわたしの目を焼きはしないか
雨は私の羽をすっかり打ち流してしまわないかと。

見た事のない太陽も
濡れたことのない雨も

硬い膜の外から熱や音でもって
その存在を知らせる。


痛みの中で産声をあげれば
あらゆる事象がわたしを出迎える。

みずからの嘴で
私を呼ぶものの姿を確かめるために。

この薄ぼんやりとした部屋の中で、
死んでしまわぬために。


生え揃わず縮れた羽や
白くふやけた脚は空をきる。

耳の裏で鳴る鼓動の音に
意識がつぶれてゆきそうだ。

葛藤が感情と理性の産物であるならば、
あなたとわたしとの間にもうけられた誘惑は

おぼろな光でもって
薄い乳白色の壁の向こうに透けている。


わたしが初めて見る顔は可能性という名で呼ばれている。
私を産んだものはその名前で私を呼び返す。

生きたいという思いは
知りたいという欲望によく似ている。

とめどなくわたしの内側に流れ
堰き止めることなどできはしない。

あらゆるいのちは死を孕んで生まれるが、
しかしなにも死へ向かって生まれてくるほど
酔狂な思想を携えて生まれる訳じゃない。

だから死ぬまでの時間を数えないでくれ、
こころが塞がるから

どうか堰き留めないでくれ、
わたしという好奇心を。

いや、それでも

誰がどうあろうともわたしはそれらを満たすよ、
だってそれは私という存在そのものなんだ。


きっとわたしはあなたが目をまるくするほど
乱暴で聞き分けのない風だ。

それは私の本質であって変えようもない。

だけどわたしはあらゆる方法であなたを知る。
暴き、巣を覆う枝葉を掻き分け、風を切り、

そして羽で頬を撫でるように毛を繕い合うように、
あなたを知るだろう。

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