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【おもしろいの正体:9】「足りない」がおもしろいを作る。

意図的に
情報が足りない
状態にする。

おもしろいと感じるための方法として、
意図的に情報が足りない状態にする
という方法があります。

ここはどうなんだろう、とか、
ここをもっと知りたい、と思わせること。

飢餓状態を作る。

そのためには全部を言わない。
見る人が入り込みたい隙間を作ってあげる。

足りないから
想像しちゃう。

CMの中にラジオCMというものがあります。
これは成り立ちからしょうがなく
「映像という情報」が足りていません。

これってすごく不自由な感じがします。
しかしこのラジオCMの
「足りない」感じが想像力を使わせる。

受け手を強制的に参加させる力があります。
ちゃんとその世界に引き込むことができれば、
受けては勝手に想像してくれます。

ラジオのこの不自由さは
逆に無限の自由さを持っています。

想像の中ではお金なんかかけなくても
ハリウッド級のロケも
時空を超えたアイディアも
なんでも形にすることができます。

あと、想像を裏切ることがやりやすい。
そうだと思って聴いてたら実は違ってた。
これは逆に映像があると逆に難しいです。

ひとつ例を。ワコールのラジオCMです。

企業広告/まったく同じナレーション 60秒
NA①:
ワコールから、
すべての女性の皆様に。
ブラジャーのお知らせです。

SE:
♪〜(BGM)

NA②:
右にズレたり、左にハミ出たり、していませんか?
守ってあげたい、2つのデリケートなふくらみ。
大きいか小さいかなんて、関係ない。
あなたの大切な場所を、まるで
手でやさしく包み込むように、ホールドします。

NA①:
続いて、すべての男性の皆様に。
まったく同じナレーションで、
メンズパンツのお知らせです。

SE:
~♪(BGM)

NA②:
右にズレたり、左にハミ出たり、していませんか?
守ってあげたい、2つのデリケートなふくらみ。
大きいか小さいかなんて、関係ない。
あなたの大切な場所を、まるで
手でやさしく包み込むように、ホールドします。

NA①:
すべての製品に、同じだけの思いやりを。
ワコールです。

東京コピーライターズクラブHPより
https://www.tcc.gr.jp/copira/id/85445/

文字で見ると雰囲気が伝わりづらいですが、
音だけだと先がわからないので、
まず騙されます。

これ、お金まったくかかってないですが、
ACC CM FESTIVALで
ラジオCM部門のグランプリ(総務大臣賞)
取りました。

あと想像なので表現の危ないゾーンも
結構ゆるくなりますね。

もうひとつ。こっちは正統派。名作です。

ソニー/ソニーカセットテープ
「ソニーテープ千一夜 寺山修司 色と音」篇〈ラジオCM 90秒〉


NA:ソニーテープ千一夜
♪~

寺山:みなさんこんばんは、寺山修司です。
ぼくたちはいろんな色を
見ることができるわけですが、
目の見えない子供たちは
色をどんなふうに感じているのか…。
きのう文京盲学校の生徒さんたちと
会って話したわけです。
すると目の見えない子どもたちは、
色を音であらわすんだと答えてくれました。

それで白っていうのはどんな音かって聞くと、
こんな音だと答えてくれました。

SE:ポーッポーッ(蒸気機関車の汽笛と走る音)

寺山:金色は?って聞くと、金色はこんな音でした。

SE:カンカンカン(鍋をたたく音)

寺山:お月さんは?って聞くと
ドロドロの油の中に
石を投げこむ音だと答えてくれました。
と、ぼくはますます興味をもって、
鏡はどんな音をしてるかな?と
聞いてみました。
すると、絹糸の切れる音だって
答えてくれました。

SE:SE:プツン(絹糸の切れる音)

寺山:もし人生がバラ色だとしたら、
それは目の見えない子どもたちにとって
どんな音であらわすのか。
ぼくはまぁ、考えこんでしまったわけです。
♪~

NA(子どもたち):ぼくたちは、いい音が大好きです。

SL:ソニーカセットテープ

アドタイより https://www.advertimes.com/20231027/article437809/

音声を聞かないと
本当の良さはわからないのですが、

これも想像力、というものを
すごく活かしてますね。

視覚を聴覚にズラすということが
アイディアになっています。

ノンフィクションの強さと
寺山修司というキャラクターの強さ。

そして映像がないからこそ
それが成り立ってるところが素晴らしい
です。

これ、最初に聞いたときは、感動した、
というよりは、背筋がゾーッとした。

それこそ何も見えない
海の中にいるような感じがしました。

CMって
こんな気持ちにさせることができるのか。
と、なんか怖くなった。

こうやって文章を書いていて、
映像があれば、とか音があれば、と思う。
だけどそれも「足りない」なので、
そこを活かせないとダメなんですけどね。
残念。

次回は

【おもしろいの正体:10】常識っておもしろくない。騙される気持ちよさもある。

気が向いたら、また遊びに来てください。

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