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桂宮治さんの衝撃的面白さと、落語「死神」のサゲのついて


席亭、って言葉、知ってますか?
「席の亭主」の略で、いわゆる寄席(よせ)の主催者のこと。

ボクは、コミュニティの「4th」(参加者400人くらい)を主宰・運営しているのだけど、そこの中の部活のひとつが「落語トライブ」。

所属メンバーたちで落語の寄席に行くだけでなく、自分たちで寄席(正確に言うと独演会だけど)を主催もしている。そしてその会場はボクのオフィスとなっている。

ということもあり、4thの主宰者であり、場所のオーナーでもあるボクが「席亭」になっているわけですね。まさか席亭になる人生になるとは若い頃なんて想像もしなかったよw

で、この寄席(いまは渋谷は鉢山の元蕎麦屋をオフィスにしているので、名付けて「渋谷鉢山そば屋寄席」)、さる人脈を活用させていただいていることもあり、お呼びしている師匠たちがものすごいのである。

柳家さん喬師匠、古今亭菊之丞師匠、柳家喬太郎師匠、立川談笑師匠、柳家三三師匠・・・もうこうやって一部を書き始めるだけで「プライベート落語会のくせにちょっと異常である」というのは、わかる人にはわかってくださると思う。

そのものすごさについてはまた近いうちにでも書こうかなと思うけど、とりあえず今日は、今週行われたその落語会に来ていただいた二つ目さんのお話をしよう。

そう、まだ真打ち前。二つ目(ふたつめ)である。
二つ目だけど、もうなんというか、実に達者で、強烈な爆笑王だった。


その人の名を、桂宮治(かつらみやじ)さん、という(サイト)。

まだ真打ちじゃないので、師匠とは呼べない。
でも、真打ちクラスで宮治さんより面白くない人たっくさんいるなぁ、と思わせるくらい面白かったし、なにより上手だった。

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※元蕎麦屋をオフィスにしていて、その二階でやるのだけど、ド真ん中に黒い柱が通っていて、それが邪魔w 上の写真で真ん中にあるのが柱です。
なお、落語会の冒頭で1分だけ「撮影OKタイム」があり、上の写真はそのタイミングで撮ったもの。


いや、初めて宮治さんの落語を聴いたのだけど、ちょっと舌を巻くわ。

異様な滑舌の良さ。
そして超明るい毒舌。
タイミングよく繰り出されるアッパーカットみたいな爆笑ネタ。

最初の噺が「親子酒」だったのだけど、そこに至るまでに枕が45分くらいあった。それがまた抱腹絶倒なのである。

こんな二つ目さんも珍しいな。
なかなか初めての場で、みんなが自分を知らないところで、ひとつ目の噺の枕でここまで笑わすのは難しい。特に二つ目さんが。


というか、なんと宮治さん、落語を初めて聞いたのが30歳のときだという。

そこから弟子入りして、いま43歳。
そのまえは化粧品の営業マンをやっていたらしく、世間のこともよく知っている。だからだろう、枕の話も薄くなく、なんか笑えるし泣けるのである。


ひとつ目にやった噺「親子酒」でも、笑いの中にペーソスみたいなものがあって、なんともせつない。せつないのにどかんどかんと笑いをとる。

そして描写がうまい。酔っ払いの描写とか絶品だった。
登場人物の演じ分けも真打ちレベル。まったく違和感ない。本当に二つ目さん?

そして、お酒を呑む演技というか、喉の音がすごかったな。
喉から「んぐ、んぐ、んぐ」と酒を呑む音を出すのだけど、それが超上手。もう聴いてて呑みたくて呑みたくてたまらなくなったもん。

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※この写真のように、出演者からはネタ帳へのサインをいただく。なので、これは桂宮治さんの直筆。


さて、「親子酒」の次は「死神」

好きな噺だ。

これ、いままでに何回聴いたかな。
噺家さんに寄って少しずつサゲ(オチ)が違う。

あ、その話のまえに「あらすじ」を貼っておこう。
Wikipediaのに少し加筆修正して貼っときます。

「死神」 初代三遊亭圓朝作

やることなすこと失敗続きで金もなく、妻にも「甲斐性なし」と貶され、ついに自殺しようとしている男が、眼光鋭い痩せこけた老人に声を掛けられる。老人は自らを「死神」だと言い、男はまだ死ぬ運命にないこと、また自身との数奇な縁を明かして助けてやるという。

助かっても金がなけりゃどうせ生きられない、と男が言うと、死神は「医者になれ」という。
「お前に死神が見えるようにしてやろう。どんな重病人であっても死神が足元に座っていればまだ寿命ではなく、逆に症状が軽そうに見えても枕元に死神が座っている場合は程なく死ぬ。足元にいる場合は『呪文』を唱えれば死神は消える。それを利用して医者を始めるといい」と助言し、呪文を教えて、死神は消える。

半信半疑で家に帰ってきた男が試しに医者の看板を掲げると、さっそくさる日本橋の大店の番頭がやってきて「主人を診てほしい」と相談してきた。既に方々の名医に診せたが匙を投げられ、藁にもすがる気持ちで男の家に来たという。男が店に行き、主人を見ると足元に死神がいたので、これ幸いと「呪文」を唱え、死神を消して病気を治す。またたく間に元気になった主人は男を名医と讃え、多額の報酬を払う。

この一件がまたたく間に広まり、男は名医として数々の患者を治し、その報酬で妾を囲うなど贅沢な暮らしを始める。しかしそれからしばらく経つと、男が訪問する病人はみな枕元に死神がいて治すことができず、しまいにヤブ医者と言われるようになって再び金に困るようになってしまう。

そんな折、大きな商家から声がかかる。男が病床の主人を見れば、また枕元に死神がいたので諦めるよう諭すが、たった一ヶ月でも延命できたら大金を出すという。
積み上がる大金に目がくらんだ男は一計を案じ、枕元の死神がうたた寝している隙に店の男手を集めると、主人の布団を持たせて向きを変え死神が足元に来るようにした瞬間に呪文を唱え、死神を消した。これによって主人はみるみる病状が改善し、大金の約束を果たすと男に言う。

その帰り道、男はあの死神に再び声をかけられる。「どうしてあんなことをしたんだ」と非難する死神に対して男は言い訳するが、死神は「やってしまったことはもはやどうでもいい」と答え、男をたくさんの火のついた蝋燭がある洞窟へと連れてくる。
死神は「この蝋燭の一つ一つが人の寿命だ」「お前の寿命は間もなく死ぬ主人を助けたから、その主人の寿命と入れ替わってしまった」と言って今にも燃え尽きそうな一本の蝋燭を指し示す。驚いた男が「助けてほしい」と必死に懇願すると死神は新しい蝋燭を差し出し、「燃え尽きる前にこれに火を移すことができれば助かる、早くしないと消えるよ」と言う。

そして、男は今にも消えそうな自分の蝋燭を持って火を移そうとするが焦りから手が震えてうまくいかず、やがて「あぁ、消える…」の一言の後、演者がその場に倒れ込み、この噺は終わる。


で、この噺、サゲが人に寄って違う。
一番一般的なのは、上に引用したサゲである。
つまり火が移し替えられずに終わる。自業自得っぽい終わり方である。

ただ、火の移し替えに成功するパターンも多い。

演者が倒れ込んだ後、その直後にむっくり起き上がり「おめでとうございます!」などと蝋燭の火の移し替えに成功して助かるサゲがある。
正月や客層など縁起の絡む高座にかけるために三遊亭圓遊が改作したとされる、この場合は「誉れの幇間」とも呼ぶ。(Wikipediaより)


ボクも数回はこの「成功パターン」を聴いている。

桂宮治さんの今回のサゲは、死神が吹いて消しちゃうパターンで、一番後味が微妙になるサゲを選んでいた。

つまり、「無事にろうそくに火が移って、死神がくやしがる。くやしがった挙げ句に、『フッ』と死神がろうそくの火を吹き消してしまう。そして演者がバタン・・・」というサゲである。

ただこれ、枕で、柳家小蝠師匠(故人)の告別式のエピソードを散々笑いとして語っており(アメリカンドッグの話)、その話を受けて、自業自得な結末も、成功する結末もやめて、死神が意地悪をする、という理不尽な結末をあえて選んだのではないかな。

故人、柳家小蝠師匠への宮治さんの優しさだと思う。


ちなみにこの「死神が吹き消す」というサゲは、立川談志師匠が本の中で書いているサゲといっしょらしい。


ボクが実際に聴いた中では、好きなのは立川志の輔師匠のサゲだ。

主人公は火の移し替えに成功する。

悔しそうにする死神を振り切って、暗い洞窟を、そのろうそくの光を頼りに歩いて、外へ出る。

「じゃあ、死神さんもお元気で!」と、上機嫌で帰ろうとする男に、最後に死神がひとこと。

「外はこんなに明るいのに、ろうそくがもったいないんじゃないのか?」

「あぁ、そりゃそうだ」と男が「フッ」とろうそくの火を吹き消してしまう。

それと同時に舞台が暗転・・・。


いいサゲだなぁ・・・。

ちょっと似ているけど、立川志らく師匠はこんなサゲだそうだ(ボクはリアルでは聴いていない)。これも面白いなぁ。

男は移し替えに成功する。
そこへ死神がこう言う。

「今日がお前の新しい誕生日だ。ハッピバースデートゥーユー♪」

男はつられてしまい、バースデーケーキのノリで自ら火を吹き消してしまう。



桂宮治さんに話を戻すと、この、暗い「死神」の噺でも笑いをたくさん取っていた。さすがである。

ちなみに、この4thの寄席、終わったあとに噺家さんといっしょに呑めるのもなかなかの醍醐味で。

二階の会場(60人くらい座れる)から、一階に場を移しての居酒屋状態。

宮治さん、カウンター内で、もう本番と同じくらい爆笑を取ってました。さすがですw

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これは最後の記念写真。
60人くらい聴いて、飲み会に残ったのは25人くらいかな。

桂宮治さん、これに懲りず、また是非おいでください!

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蛇足。ハゲふたり。




古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。